妊婦の歯周病治療で早産や低体重児出産のリスクを下げられるの?

更新日:6月16日

はじめに


今回は妊娠中の歯科治療についてお話ししていきたいと思います。妊娠時期は普段と環境が変化するため、お口の中の状態も影響しやすくなります。また母親だけでなくお腹の赤ちゃんにも関係のある内容もあるため、参考にしていただけたら幸いです。



① 妊娠すると歯肉の炎症が起きやすい


妊娠中はエストロゲン、プロゲステロンという女性ホルモンが急増するため女性ホルモンを好む特定の歯周病菌が増加します。これにより歯肉がはれる、血が出るといった妊娠性歯肉炎が引き起こされます。


妊娠性歯肉炎は妊娠期に特有の症状ですが、プラークが付着していないと炎症は起こらないため、お口の中の改善によって治癒します。


この妊娠性歯肉炎を悪化させないためにも、歯科医院での歯石除去やメインテナンスや家でのホームケアは必要です。



② 妊娠中はむし歯にもなりやすい


妊娠期は食生活などが変化します。つわりで食事の好みが変化し甘いものが欲しくなる機会が多くなりやすいです。また空腹を避けるために間食の回数が増えてしまい、むし歯のリスクが高まります。


さらにお口の中に歯ブラシを入れると、気持ち悪くなるなどの理由で歯磨きがおろそかになることも考えられます。歯磨きが難しい場合には子ども用の小さい歯ブラシや細いワンタフトブラシ(シングルブラシ)を使用して体調が良い時を狙って磨くことをおすすめします。










さらに妊娠期は唾液の分泌が減少してしまい、口腔内がネバネバするなどの症状が現れ、歯肉炎が悪化することがあります。口腔内が乾燥していると細菌がさらに増殖するため、糖分を含まない飲み物をこまめにとり、水分補給をしましょう。


ちなみにむし歯治療ですが、妊娠期通常に近い歯科治療ができる時期は妊娠中期とよばれる16週から27週と限られています。その他の時期は応急処置が限界となることが多いため、妊娠する前からお口の中をきれいにして予防することが大切です。詳しくは下の図を参照してください。





③ 妊娠中の歯周病感染で早産や低体重児のリスクが高いのか?


早産と低体重児のリスクとして歯周病が挙げられています。

日本歯科医師会の母子健康手帳活用ガイドにも「重度の歯周病は胎児の成長に大きな影響を及ぼすことがあります」と書かれています。


まずは早産と低体重児出産とは何かを説明します。

正常な産期は37週〜42週です。早産とは37週未満の出産で、低体重児は2500g未満の出産と定義されています。早産は2010年日本産婦人科学会周産期登録で5.7%、低体重児は2017年人口動態統計で9.4%です。

早産の原因としては喫煙や妊娠中の異常や病気などが挙げられ、低体重児の原因として喫煙や母体の低栄養、双子などの妊娠などがあります。


妊娠中の細菌感染が早産を引き起こすことは胎盤や羊水そして胎児に細菌が感染してしまうことがわかっていました。特に生殖器から細菌が子宮に侵入、子宮で細菌感染を起こし、その炎症の刺激で早産を引き起こすことは明らかになっています。


1996年アメリカ歯周病学会で「歯周病は低体重児に関与する」と発表がありました。研究によると、歯周病の妊婦はそうでない妊婦より早産や低体重児出産のリスクが高まるとのことです。

そのリスクは喫煙やアルコールより高く、歯周病のある妊婦はそうでない妊婦に比べ低体重児出産が7.5倍とのことです。


妊娠中は女性ホルモンのエストロゲンが増え、その作用で特定の歯周菌は増殖します。またプロゲステロンというホルモンも増加し、炎症のもとを刺激して歯肉炎を悪化させやすい環境をつくってしまいます。

その後歯周病の炎症物質が血液中を介して全身に影響を及ぼし、早産や低体重児出産のリスクが高まります。


では歯周病が進行している妊婦さんは歯周病治療を行えばそのリスクは防げるのでしょうか。近年の研究では「妊婦の歯周病を治療したら早産は減るかというと明確な現象はみられない」とのデータがあります。


例えば、2006年アメリカで行われた800人以上の妊婦に歯石取りをしたグループとそうでないグループを分けた研究では

「妊婦の歯周炎の治療は、安全性があり歯周病も改善するが、早産や低体重児などの発生率に有意な変化はない。」

と報告されました。


その後のいくつかの研究でも歯周治療で早産や低体重児出産のリスクを下げることはできないという結果が出ています。


そしてヨーロッパ歯周病学会とアメリカ歯周病学会合同で行われた会議で歯周病と妊娠に関するあらゆるデータを検証した結果

「歯周治療により早産や低体重児の発生率を下げられるとは言えない。」

と否定的な結論となっています。


つまり妊娠中の歯周治療が早産と低体重児出産のリスクを減らせることは証明できていないのが現状です。妊娠中は歯周病を悪化させないためにもお口の中のケアを普段よりも丁寧に行うことが大切です。



まとめ


①妊娠性歯肉炎は妊娠時期の女性ホルモンとプラークによって起こる


②妊娠期の食事の変化や体調不良でむし歯になるリスクが高くなる


③今は妊娠中の歯周治療が早産と低体重児出産のリスクを減らせることは証明できていない

この記事を書いた人



医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


実のところ、私は酒やタバコの習慣はありません(タバコに関しては生涯吸ったことはありません)。体に悪いからという理由もありますが、もともと飲みたい、吸いたいという欲が全然なかったのです。冷蔵庫の中の飲み物は主に水と麦茶です。アルコールは置いてません。それでも読書やウォーキングなど趣味はあるので楽しんでます。



参考文献


①日本産婦人科学会周産期登録.2010.


②出生体重別出生数,人口動態統計.2017.


③Offenbacher S:Periodontal infection as a possible risk factor for preterm low birth weight.J Periodontal,67:1103-1113,1996.


④Bryan S Michalowicz:Treatment of periodontal disease and the risk of preterm birth.The New England Journal of madicine,2006.



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