はじめに-キシリトールにむし歯予防効果がない!?
皆さんはキシリトールガムのCMをテレビや動画で目にしたことがありますか?
キシリトールガムのイメージは「フィンランドでよく食べられている」「むし歯予防」ではないでしょうか?
しかし、キシリトールについて研究が進んでいくにつれ、「キシリトール自体はむし歯の予防効果があまり期待できない」等、意外なことがわかってきています。
そこで今回は、キシリトールガムのCM内容の移り変わりから、「キシリトールの実際の働き」「食品表示の見方」「キシリトール製品の選び方・食べるタイミング」についてご説明します。
▼目次
20年前のキシリトールガムのCMとトクホの関係
キシリトールガムは1997年日本で初めて販売されました。当時のCMでは「キシリトールは口の中で酸を作らない」という説明でした。2001年キシリトールガムが初めて特定保健用食品として認められ、2003年頃からテレビのコマーシャルで「歯の石灰化を増強」がアピールされていました。
1993年に制定された特定保健用食品(通称トクホ)は、体の機能などに影響を与える効能成分を含み、飲食すると効果が期待できる食品のことです。特定保健用食品は食品ごとに有効性や安全性について国からの審査・許可を受ける必要があります。
2015年から機能性表示食品制度が始まり、国の審査は行わず、販売事業者が責任をもって科学的根拠を出し届出すると、機能性表示食品として表示できるようになりました。
ちなみに、2021年から全国販売されて「ストレス緩和」「睡眠の質向上」で2022年に話題になった「ヤクルト1000・Y1000」も機能性表示食品です。(ヤクルト400は特定保健用食品です)
2023年のデータでは、特定保健用食品が8月のデータで総数1052品目(29年間)に対して、機能性表示食品は9月のデータで7525件(7年間)のため、機能性表示食品の方が特定保健用食品より表示のハードルがかなり低くなっていることがわかります。
キシリトールはどんな甘味料?
キシリトールは白樺や樫の木、トウモロコシの芯から作られた天然の甘味料です。果物ならイチゴやラズベリー、野菜ではカリフラワーやほうれん草、にんじん、きのこなどに含まれています。
甘味は砂糖に近いですが、カロリーは4分の3とやや低カロリーです。スーッとした爽快感があることも特徴です。食べすぎるとお腹がゆるくなるので注意が必要です。
日本では1997年4月に厚生労働省が食品添加物として認定しています。世界ではFDA(アメリカの食品医薬品局)、FAO(国連食料農業機関)、WHO(世界保健機関)などが安全性を認めています。
むし歯菌はお口に残った糖から「酸」を作ります。むし歯は酸で歯が溶けた状態です。むし歯原因菌はキシリトールを食べて酸を作れません。つまり、キシリトールはむし歯の原因となる酸をつくりません。
キシリトールはチューイングガムだけでなく、タブレット菓子や練り歯磨き、マウスウォッシュにも使用されています。
妊娠中にキシリトールガムを食べても胎児にはほとんど影響がありませんが、食べすぎると下痢を起こしやすくなるため、注意が必要です。
キシリトールガムのCMが最近変わった?なぜ?
最近のキシリトールガムのCMでは「キシリトールは口の中で酸をつくらない」という表示に戻っていました。
キシリトールが特定保健用食品として認可されたケースは2016年以降みられません。機能性表示食品の欄にも、キシリトールは見つかりませんでした。つまり届出もされていません。
この理由として同じ時期の有名な調査論文が関係しているのではないかと考えられます。
以前まで、キシリトールはむし歯菌の増殖を抑える抗菌作用や再石灰化を促進させる作用があるという報告がありました。皆さんもキシリトールに対してこのようなイメージあったのではないでしょうか?
しかし、2015年「コクランレビュー」とよばれる、医療界の国際的最高水準の評価団体による調査によって、「キシリトール配合製品のう蝕抑制効果の研究は、全体的に信頼性に欠ける。」と報告しています。
つまり、今キシリトールは「酸をつくる原因にならないが、むし歯予防効果はあまり期待できない」という位置づけです。このため、キシリトールガムのコマーシャル内容が少し控えめになったのかと考えられます。
ではキシリトール製品は食べても意味がないのでしょうか?
この回答としては「キシリトールの効果を期待するのではなく、むし歯の原因にならないこと・唾液の力を活用すべき」と考えます。
例えばキシリトールガムなら、酸がつくられない上に、甘みとかむことによって唾液が出やすくなります。
唾液は「緩衝能(かんしょうのう)」とよばれる、酸性に傾いたお口の中を中性に回復させる機能で酸を防ぎ、「再石灰化作用」で歯の修復を行います。特にお口の中が酸性になる食後のキシリトールガムはおすすめです。
歯科専売品と市販のキシリトールガムには違いがある
全てのキシリトールガムがお口の中で酸を作らないわけではありません。ここで大事なのはキシリトール含有率とその他の甘味料の成分です。
キシリトール含有率とは商品の甘味料成分の中のキシリトールの割合です。
わかりやすく説明するために同じメーカーの歯科専売品と市販品で比べてみました。
歯科専売品は表面に「歯科専用」「100%キシリトール」と記載されています。裏面の原材料をみてみると甘味料(キシリトール)、ガムベース、増粘剤…の順に記載されています。原材料は重量順に表示されており、他の甘味料成分が見当たらないため、この商品はキシリトール含有率100%とわかります。
市販品の方は、原材料名がマルチトール、植物油脂、甘味料(キシリトール、アスパルテーム・Lフェニルアラニン化合物)の順となっており、キシリトールは3番目(マルチトールは甘味料のため甘味料成分としては2番目)です。この時点でキシリトールの含有率は100%ではありません。
最初に表記されているマルチトールはキシリトールと同じ糖アルコールでむし歯の原因になりにくいですが少量の酸は発生します。他にアスパルテーム-Lフェニルアラニン化合物という人工甘味料が入っていますが、糖類0(シュガーレス)のためむし歯のリスクは少ないと考えられます。
このように、キシリトール含有率100%ではない場合は、「シュガーレス(糖類0)か?」「どのような甘味料で残りを補填しているのか?」をチェックすることが大事です。
キシリトール配合+αの歯科専売品も出ている
現在ではキシリトールだけでなく、そこにカルシウム成分やフッ化物成分を配合して、歯質強化をアピールする歯科専売商品もあります。
原材料をみると、キシリトール100%ではなく、他の甘味料に人工甘味料が入っています。プラスしてカルシウム成分と緑茶エキスパウダーの中に、フッ化物が入っています。「むし歯の原因となる酸を作りにくい+歯質をカルシウムやフッ化物で強化」というイメージです。
他にも、グミの需要が多くなっているため、キシリトール配合のグミも登場しています。歯科医院専売品のキシリトール100%のグミも増えてきています。
ただし、キシリトール商品全般にいえるのは、「摂取していればむし歯にならないわけではない」ことです。むし歯予防にはお家でのブラッシングと歯科医院でのクリーニング、間食を含めた食生活の改善、フッ化物歯磨き粉の使用などの総合的なアプローチが大切です。
キシリトール等の効果に過度な期待をしないで、あくまでも補助として美味しく食べていただければと思います。
キシリトールの摂りすぎは心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がる!?
2024年、アメリカのラーナー研究所がアメリカとヨーロッパの3,000人以上の患者を対象に行った研究によると、キシリトールを多量に摂取すると、心筋梗塞や脳卒中などの発生リスクが高まる恐れがあることが報告されました。キシリトールが血小板の反応性や血栓形成を増強し血管に悪影響を与えるとのことです。
この情報を聞くと、「キシリトールガムは危険なの!?」と誤解されるかもしれませんが、研究論文を詳しくみてみると、キシリトールの多量摂取が問題とされていることがわかります。論文では糖尿病患者向けのお菓子やアイス、焼き菓子などに含まれる30グラムを超える大量のキシリトールを含んだ商品に対し指摘しています。また、実験ではキシリトールを多く含む飲料を摂取させて測定が行われたと記載されております。
一方で、キシリトールガム1粒(キシリトール100%)に含まれるキシリトール含有量は約1.3グラムです。推奨されている4粒を摂取しても合計5.2グラムとなり、過剰摂取にはなりません。キシリトールグミ(キシリトール100%)も1袋で9.2グラムであり、半分食べても4.6グラムですので多すぎることはありません。これはキシリトールに限らず、お薬や塩でも同様ですが、適量であれば問題なく使用できますが、多量に摂れば健康に悪影響を与えてしまう場合があります。
まとめ
1. 特定保健用食品は国の審査が必要だが、機能性表示食品は届出制。
2. キシリトールは口の中で酸をつくらない。
3. キシリトールはむし歯予防効果はあまり期待できない。
4. 食後のキシリトールガムは唾液の緩衝能を活用するため好ましい。 5. キシリトールガムを購入する時はキシリトール100%、またはシュガーレスを選ぶ。
6. キシリトール製品に過度な期待はしないで補助的なものとして考える。
7. キシリトールの多量摂取は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めるが、ガムやグミの場合適量を守れば過剰摂取になることは少ない。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. 消費者庁.特定保健用食品について,
2. 消費者庁.機能性表示食品について,
3. Riley, Philip, et al. "Xylitol‐containing products for preventing dental caries in children and adults." Cochrane Database of Systematic Reviews 3 (2015).
4. Duane, Brett. "Xylitol and caries prevention." Evidence-Based Dentistry 16.2 (2015): 37-38.
5. 吉田 昊哲,花田 信弘,藤原 卓,眞木 吉,信奥 猛志. ゼロからわかる 小児う蝕予防の最前線,クインテッセンス出版(2018):42-54.
6. 伊藤直人.カリエスブック 5ステップで結果が出るう蝕と酸蝕を予防するカリオロジーに基づいた患者教育(2020):66.
7. Marco Witkowski, et al." Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk."(2024)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38842092/
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