「キシリトールは歯を強くする」は間違い!? 先進研究で見直された本来の効果
- 歯科医師 川邉滋次
- 8月5日
- 読了時間: 9分
更新日:8月5日
はじめに-キシリトールには虫歯予防効果が期待できない事実
▼目次

皆さんはキシリトールガムのCMをテレビや動画で目にしたことがありますか?
キシリトールガムのイメージは「フィンランドでよく食べられている」「虫歯予防」ではないでしょうか?
しかし、キシリトールについて研究が進んでいくにつれ、「キシリトール自体は虫歯の予防効果があまり期待できない」等、意外なことがわかってきています。
そこで今回は、キシリトールガムのCM内容の移り変わりから、「キシリトールの実際の効果」「キシリトール製品の選び方・食べるタイミング」についてご説明します。
キシリトールは安全性が高く虫歯の原因にならないことは事実

キシリトールは白樺や樫の木、トウモロコシの芯から作られた天然の甘味料です。果物ならイチゴやラズベリー、野菜ではカリフラワーやほうれん草、にんじん、きのこなどに含まれています。

甘味は砂糖に近いですが、カロリーは4分の3とやや低カロリーです。スーッとした爽快感があることも特徴です。食べすぎるとお腹がゆるくなるので注意が必要です。
日本では1997年4月に厚生労働省が食品添加物として認定しています。世界ではFDA(アメリカの食品医薬品局)、FAO(国連食料農業機関)、WHO(世界保健機関)などが安全性を認めています。
虫歯菌はお口に残った糖から「酸」を作ります。むし歯は酸で歯が溶けた状態です。虫歯原因菌はキシリトールを食べて酸を作れません。つまり、キシリトールは虫歯の原因となる酸をつくりません。
キシリトールはチューイングガムだけでなく、タブレット菓子や練り歯磨き、マウスウォッシュにも使用されています。
妊娠中にキシリトールガムを食べても胎児にはほとんど影響がありませんが、食べすぎると下痢を起こしやすくなるため、注意が必要です。
「キシリトール=虫歯予防・歯を強くする」は間違い!?先進の研究で分かった効果

キシリトールガムは1997年日本で初めて販売されました。当時のCMでは「キシリトールは口の中で酸を作らない」という説明でした。2001年キシリトールガムが初めて特定保健用食品として認められ、2003年頃からテレビのコマーシャルで「歯の再石灰化を増強」がアピールされていました。
しかし、近年のキシリトールガムのCMでは「キシリトールは口の中で酸をつくらない」という表示に戻っていました。
この理由として同じ時期に発表された調査論文が関係しています。
以前まで、キシリトールは虫歯菌の増殖を抑える抗菌作用や再石灰化を促進させる作用があるという報告がありました。皆さんもキシリトールに対してこのようなイメージあったのではないでしょうか?
しかし、2015年「コクランレビュー」とよばれる、医療界の国際的最高水準の評価団体による調査によって、「キシリトール配合製品のう蝕抑制効果の研究は、全体的に信頼性に欠ける。」と報告しています。

つまり、今キシリトールは「酸をつくる原因にならないが、虫歯予防効果はあまり期待できない」という位置づけです。このため、キシリトールガムのコマーシャル内容が少し控えめになったのかと考えられます。
この研究報告から10年経った今でも、歯科医療従事者の方が昔のイメージで「キシリトールで虫歯予防」「キシリトールで歯を強くしよう」という投稿をしているのをSNS等でよく目にします。新しい情報の周知をしていただきたいと思います。
虫歯の原因にならないキシリトールを有効活用する方法とは!?
ではキシリトール製品は食べても意味がないのでしょうか?
この回答としては「キシリトールの効果を期待するのではなく、虫歯の原因にならないこと・唾液の力を活用すべき」と考えます。

例えばキシリトールガムなら、酸がつくられない上に、甘みと噛むことによって唾液が出やすくなります。
唾液は「緩衝能(かんしょうのう)」とよばれる、酸性に傾いたお口の中を中性に回復させる機能で酸を防ぎ、「再石灰化作用」で歯の修復を行います。特にお口の中が酸性になる食後にはキシリトールガムはおすすめです。
歯科専売品と市販のキシリトールガムには違いがある
全てのキシリトールガムがお口の中で酸を作らないわけではありません。ここで大事なのはキシリトール含有率とその他の甘味料の成分です。
キシリトール含有率とは商品の甘味料成分の中のキシリトールの割合です。
わかりやすく説明するために同じメーカーの歯科専売品と市販品で比べてみました。

歯科専売品は表面に「歯科専用」「100%キシリトール」と記載されています。裏面の原材料をみてみると甘味料(キシリトール)、ガムベース、増粘剤…の順に記載されています。原材料は重量順に表示されており、他の甘味料成分が見当たらないため、この商品はキシリトール含有率100%とわかります。

市販品の方は、原材料名がマルチトール、植物油脂、甘味料(キシリトール、アスパルテーム・Lフェニルアラニン化合物)の順となっており、キシリトールは3番目(マルチトールは甘味料のため甘味料成分としては2番目)です。この時点でキシリトールの含有率は100%ではありません。
最初に表記されているマルチトールはキシリトールと同じ糖アルコールで虫歯の原因になりにくいですが少量の酸は発生します。他にアスパルテーム-Lフェニルアラニン化合物という人工甘味料が入っていますが、糖類0(シュガーレス)のため虫歯のリスクは少ないと考えられます。
このように、キシリトール含有率100%ではない場合は、「シュガーレス(糖類0)か?」「どのような甘味料で残りを補填しているのか?」をチェックすることが大事です。
キシリトール配合+αの歯科専売品も出ている
現在ではキシリトールだけでなく、そこにカルシウム成分やフッ化物成分を配合して、歯質強化をアピールする歯科専売商品もあります。
原材料をみると、キシリトール100%ではなく、他の甘味料に人工甘味料が入っています。プラスしてカルシウム成分と緑茶エキスパウダーの中に、フッ化物が入っています。「虫歯の原因となる酸を作りにくい+歯質をカルシウムやフッ化物で強化」というイメージです。
他にも、グミの需要が多くなっているため、キシリトール配合のグミも登場しています。歯科医院専売品のキシリトール100%のグミも増えてきています。
ただし、キシリトール商品全般にいえるのは、「摂取していれば虫歯にならないわけではない」ことです。虫歯予防にはお家でのブラッシングと歯科医院でのメインテナンス、間食を含めた食生活の改善、フッ化物歯磨き粉の使用などの総合的なアプローチが大切です。
キシリトールの効果に過度な期待をしないで、あくまでも補助として美味しく食べていただければと思います。
キシリトールの摂りすぎは心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がる!?
2024年、アメリカのラーナー研究所がアメリカとヨーロッパの3,000人以上の患者を対象に行った研究によると、キシリトールを多量に摂取すると、心筋梗塞や脳卒中などの発生リスクが高まる恐れがあることが報告されました。キシリトールが血小板の反応性や血栓形成を増強し血管に悪影響を与えるとのことです。
この情報を聞くと、「キシリトールガムは危険なの!?」と誤解されるかもしれませんが、研究論文を詳しくみてみると、キシリトールの多量摂取が問題とされていることがわかります。論文では糖尿病患者向けのお菓子やアイス、焼き菓子などに含まれる30グラムを超える大量のキシリトールを含んだ商品に対し指摘しています。また、実験ではキシリトールを多く含む飲料を摂取させて測定が行われたと記載されております。

一方で、キシリトールガム1粒(キシリトール100%)に含まれるキシリトール含有量は約1.3グラムです。推奨されている4粒を摂取しても合計5.2グラムとなり、過剰摂取にはなりません。キシリトールグミ(キシリトール100%)も1袋で9.2グラムであり、半分食べても4.6グラムですので多すぎることはありません。これはキシリトールに限らず、お薬や塩でも同様ですが、適量であれば問題なく使用できますが、多量に摂れば健康に悪影響を与えてしまう場合があります。
まとめ
1. キシリトールは口の中で酸をつくらない。
2. キシリトールは虫歯予防効果はあまり期待できない。
3. 食後のキシリトールガムは唾液の緩衝能を活用するため好ましい。 4. キシリトールガムを購入する時はキシリトール100%のもの、またはシュガーレスを選ぶ。
5. キシリトール製品に過度な期待はしないで補助的なものとして考える。
6. キシリトールの多量摂取は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めるが、ガムやグミの場合適量を守れば過剰摂取になることは低い。
この記事を書いた人

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次(歯科医師)
静岡県菊川市で予防歯科・歯並びについて地域のこども園等で講演させていただいております。

昔から販売されているキシリトールガムなどの特定保健用食品は今も流通していますが、新たにトクホとして認可される商品は近年ありません。
1993年に制定された特定保健用食品(通称トクホ)は、体の機能などに影響を与える成分を含み、摂取することで効果が期待できる食品です。トクホとして認められるためには、食品ごとに有効性や安全性について国による審査・許可を受ける必要があります。

一方、2015年からは機能性表示食品制度が始まりました。この制度では、国の審査は行わず、販売事業者が科学的根拠を示して届出を行えば、機能性を表示できるという仕組みです。
ちなみに、2021年から全国販売され、「ストレス緩和」「睡眠の質向上」で2022年に話題になったヤクルト1000・Y1000は機能性表示食品です。(参考までに、ヤクルト400はトクホです)
2023年のデータによると、トクホは29年間で1,052品目(8月時点)に対し、機能性表示食品は7年間で7,525件(9月時点)と、機能性表示食品の方が圧倒的に多く、表示のハードルがかなり低いことがわかります。ただし、2024年に消費者庁が機能性表示食品のうち、約2割の表示を撤回していました。その理由として、科学的根拠が不十分だったことや、販売終了などが挙げられています。
なお、キシリトールがトクホとして認可された事例は2016年以降見られません(2023年再認可はあり)。また、機能性表示食品の届出にもキシリトール製品は確認できませんでした。以前はキシリトールガムにトクホが多かったものの、現在は認可も届出もない状況です。
参考文献
1. 消費者庁.特定保健用食品について,
2. 消費者庁.機能性表示食品について,
3. Riley, Philip, et al. "Xylitol‐containing products for preventing dental caries in children and adults." Cochrane Database of Systematic Reviews 3 (2015).
4. Duane, Brett. "Xylitol and caries prevention." Evidence-Based Dentistry 16.2 (2015): 37-38.
5. 吉田 昊哲,花田 信弘,藤原 卓,眞木 吉,信奥 猛志. ゼロからわかる 小児う蝕予防の最前線,クインテッセンス出版(2018):42-54.
6. 伊藤直人.カリエスブック 5ステップで結果が出るう蝕と酸蝕を予防するカリオロジーに基づいた患者教育(2020):66.
7. Marco Witkowski, et al." Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk."(2024):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38842092/