歯科医師 川邉滋次

2023年10月21日6 分

デジタルの型取りは従来と何が違うの?(気になる歯の型取り)

最終更新: 2023年10月24日

はじめに

先日、神奈川県で開催されたワールドデンタルショーに参加してきました。このワールドデンタルショーは4年に1回(今回は新型コロナウィルス感染症の影響で5年ぶり)に行われる歯科関係者の展示会のようなもので、先進の歯科治療方法や歯科医療機器等を学ぶ貴重な機会だと考えています。

ワールドデンタルショー2023

その中で5年前に参加したワールドデンタルショーと大きく変わったところは、デジタル技術を用いた歯科治療、歯科医療機器が多くなったことです。

医療用3Dプリンター

顔面用スキャナー

従来、歯科医療はアナログ要素の強い分野でしたが、急速にデジタル化が進んでいます。

具体的には、

1. 口腔内スキャナー(デジタルの型取り)

2. CAD/CAMシステム(被せ物や詰め物をコンピューターで設計するシステム)

3. 3Dプリンター(被せ物や詰め物をデータか実際に作る)

4. デジタルレントゲン

5. 歯科用CT(3Dレントゲン)

6. 治療シュミレーション

などのデジタル技術が投入されています。

ではなぜ歯科でデジタル化が進んでいるのでしょうか?

以下の理由が考えられます。

1. 歯科治療の精度が向上する

デジタル技術は、従来の手作業に比べて高い精度で歯科治療を行うことができます。特に、デジタルの型取りを行うことで、精密な印象を取ることが可能となり、治療の正確性が向上します。これにより、患者さんへの不快感を軽減し、結果の質を向上させることが可能です。

2. 効率性が向上する

デジタル技術は、歯科医院の作業効率を向上させます。例えば、デジタルレントゲン(CTを含む)を使用することで、診断や治療計画が迅速かつ正確に行えます。また、コンピュータ支援設計技術を用いた歯冠や入れ歯の製作も高速化されます。

3. 患者への説明と教育が充実する

デジタル技術は、患者さんに治療計画や問題点の説明を見やすく分かりやすい方法としても活用されています。3Dモデルやシミュレーションを使用することで、患者さんが自身の状態や治療の流れを理解しやすくなります。

4. 電子カルテとデータ管理

電子カルテがメインとなっているため、患者さんの歯科情報や治療履歴をデジタルで管理できます。これにより、情報の保管やアクセスが容易になり、診療の追跡や計画がスムーズに行えます。

5. 環境への負荷軽減

デジタル化は、レントゲンフィルムや印象材料などの使用を削減し、環境への負荷を軽減する助けにもなります。デジタル画像やデータの保存と共有は、紙ベースの文書よりもエコフレンドリーです。

今回はそのような歯科のデジタル技術の中から、「型取り」をテーマにして、そのメリットとデメリットについてまとめてみました。今まで歯科で型取りをされるのが苦手な方やデジタルでの型取りに興味がある方に読んでいただけたら幸いです。

目次▼

デジタルの型取りとは?

型取り材の型取りよりも精度が高い

型取りの不快さがほとんどない

気泡による型取りの失敗がない

装置製作の工程が短くなる

事前に健康な歯をスキャンすることで今後その歯に問題があった際に同じ形や色の被せ物を作成することが可能

シュミレーションが可能

廃棄物がほとんど出ない

デジタルの型取りのデメリット

まとめ


デジタルの型取りとは?

口腔内スキャナーと呼ばれる、口の中の情報をスキャンしてデジタルデータ化する小型カメラを使用した型取りのことです。患者さんの歯や歯ぐきをカメラに三次元的にスキャンして、精密なお口の中の情報を3Dデータ化します。

型取り材の型取りよりも精度が高い

従来の型取り材は固まる際に、収縮という微細ではありますが縮むことがあります。また模型にする時の石膏(せっこう)は固まる時に膨張するため、縮んだり膨らんだりすることで精度が下がってしまいます(もちろん微々たる差ではあります)

その点デジタルでの型取りはそのような膨張・収縮はないため精度は上がると考えられます。

型取りの不快さがほとんどない

お口の中を専用のカメラでスキャンするだけなので、従来の型取りでありがちな息苦しい感覚や、のどの奥に入るだけで「オエッ」と吐きたくなるような不快感、材料が固まるまでの数分の待ち時間等がありません。

そのため、当院では被せ物や詰め物の型取りだけでなく、小児矯正の初回検査でもこのデジタル型取りを取り入れております。

気泡による型取りの失敗がない

型取り材の場合、型取りをして材料が固まってから、型取りの状態を確認します。その際気泡(きほう)と呼ばれる空気の混入がある場合には、完成品に大きな支障が出ることがあるため型取りのやり直しをすることがあります。

デジタルの型取りは、気泡は発生することはなく、型取りもその場で確認や修正が可能なため、患者さんへの負担が少ないと考えられます。

装置製作の工程が短くなる

従来の型取りは、型取りをした後に

1. 模型にする

2. 模型が割れないように梱包する

3. 宅急便等で発送する

4. 技工所で被せ物や詰め物、それに関わる装置を製作する

5. 技工所から装置が届く

という流れです。

一方、デジタルの型取りを行った後は

1. 技工所に型取りのデータを送信する

2. 技工所で被せ物や詰め物、それに関わる装置を製作する

3. 技工所から装置が届く

という流れのため、発送や工程等の期間が短縮され、より早く患者さんに提供することが可能です。

事前に健康な歯をスキャンすることで今後その歯に問題があった際に同じ形や色の被せ物を作成することが可能

被せ物や詰め物は、過去の写真や模型を参考にしながら製作する、もしくは技工士さんが想像しながら理想的に仕上げていくことが多いです。

石膏で作られた模型は形の再現はある程度可能ですが、色の再現は難しいです。もちろん

過去の写真があれば色を似せることができますが、二次元の平面画像では限界があります。

そこで健康な時にデジタルの型取りでデータを保管しておくことで将来何らかの問題が発生し、その歯の形が失われてしまった時にデータからほぼ同じような歯の形や色彩を再現することが可能になります。

シュミレーションが可能

写真を使用して前歯の被せ物のシュミレーションをお見せする機能です。事前に入っている歯のテンプレートを元に歯の形状や色・サイズや位置を調整し、被せ物を入れた後の想定写真を表示できます、また、色を明るくするこよや矯正装置(ブラケット)の合成も可能なため、ホワイトニングごや矯正中のイメージがしやすくなります。

廃棄物がほとんど出ない

型取りで使用される材料や、作業用模型に使用された石膏は完成後に廃棄することになります。(当院では模型は大切な資料となるため3年以上は保管しています)

デジタルでの型取りの場合データで管理するため、そのような廃棄する物がほとんどないためエコと言えます。

デジタルの型取りのデメリット

入れ歯の土手のような「動く部分」や「凹凸が少ない部分」はデジタルの型取りでは検知しづらくズレが生じやすいためデジタルの型取りには現状は不向きです。


まとめ

1. 型取り材のデジタル型取りは精度が高く、収縮や膨張が問題にならない。

2. デジタル型取りは不快さが軽減される可能性がある。

3. デジタル型取りでは気泡による失敗がなく、修正が容易。

4. 装置製作の工程がデジタル型取りでは短縮され、患者さんへの提供が早くなる。

5. 健康な歯のスキャンデータを保存し、将来の被せ物製作に役立てることができる。

6. デジタル型取りはシュミレーションが可能で、廃棄物が少ないが、入れ歯など特定の治療には不向きである。


この記事を書いた人

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


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