はじめに-乳歯は通常どの時期に抜けるの?
乳歯は生まれてから7ヵ月ころから生えはじめ、2歳6ヶ月頃に全ての乳歯が生えそろいます。そして、5〜6歳頃から永久歯の生え変わりで徐々に抜けていきます。
しかし間違った食生活やお口の中のケアが不十分などの原因によって、むし歯の進行が早く治療をしても永久歯に悪影響を与えてしまう場合には、歯を抜かなければいけない場合があります。また事故やケガなどで歯をぶつけてしまい、早期に乳歯が抜けてしまうことがあります。
そして、むし歯やケガではない、乳歯が早く抜けてしまう第3の原因として「低ホスファターゼ症」があります。
では低ホスファターゼ症とはどのような病気でしょうか?今回この低ホスファターゼ症について詳しく説明し、どのように対処するのかを説明します。
▼目次
低ホスファターゼ症ってどんな病気?
歯や骨をつくるために必要な「アルカリホスファターゼ」という酵素があります。
低ホスファターゼ症は、アルカリホスファターゼの量が体内で不足する病気です。骨や歯が硬く丈夫になる過程がうまく進まなくなることで、骨折しやすくなったり、歯が抜けやすくなるため、難病指定とされています。
「周産期型(重症型)・周産期型(軽症型)・乳児型・小児型・成人型・歯限局型」の6つの病型があります。一般的に周産期型や乳児型などは、発症時期が早いことから歯や骨に大きな影響があると考えられています。一方、小児型や歯限局型は全身の症状が少なく、歯だけに症状がある場合が多いと言われています。
体の中で酵素をつくるようにプログラムされている遺伝子が変異し、酵素を十分につくることができないことが、酵素が少なくなってしまう原因です。変位した遺伝子が偶然子どもに受け継がれて発症することがあります。
日本での発生頻度は重症型で15万人に1人とされています。性別や地域によって差はありませんが、国によっては差があることはわかっています。
このような症状が出ていたら歯科医院へ早めに相談を!
以下の3つの中に、当てはまる項目があった場合は「低ホスファターゼ症」の恐れがあります。
1. 4歳になる前に抜けてしまう、歯がグラグラする
乳歯が永久歯に生え変わるのは早くても5歳頃からです。もちろん個人差はありますが、4歳になる前に乳歯が抜けてしまうのは早すぎます。そのため、4歳未満でお子さんの乳歯が揺れていたり、抜けてしまった場合は早めに歯科医院に相談してください。
2. 歯の根がきれいに残っている
生え変わりで抜ける乳歯は、下から生えてくる永久歯に突き上げられると、歯の根の部分が溶けてしまうためほとんど残っていません。
もし乳歯に根がしっかり残っているまま抜けてしまった場合、大人の歯に押されることなく抜けてしまっている恐れがあります。
3. 乳歯の周りに歯周ポケットができている
乳歯の周りに歯周ポケットが存在することは稀です。
乳歯の歯ぐきの溝が1〜2ミリしかないため、歯周病菌が滞在するには良い環境ではないからです。歯ぐきが腫れることはありますがほとんどが歯肉炎(歯周病の初期状態)です。
炎症が少なくても乳歯の周りに深い歯周ポケットが見られる場合があります。このポケットの中にプラークがたまってしまうと二次的に歯周病を起こす場合があります。
歯周ポケットを家庭で測る機会ははないですが、乳歯に揺れがある、よく腫れるなどの異常があれば、歯科医院で検査をしていただくことをおすすめします。
低ホスファターゼ症は早く発見できれば治療が可能
日本では2015年7月に世界に先駆けてアスホターゼアルファとよばれる治療薬を使用して「酵素の補充」という治療が受けられ、早期に受けることで骨の成長を促すことが可能になりました。
低ホスファターゼ症は重症の場合、出生と共に診断がつき治療を開始されます。
一方、軽症だと生まれてからしばらく体の骨にほとんど問題がみられないないことが多いため、見逃されやすく後から影響が出てくるケースがあります。
骨折しやすい、歯が弱いという危険信号が出ていても 日常生活に差し支えなければ病気の影響と思われず、早期治療の機会を逃してしまうこともあります。
低ホスファターゼ症は進行性の病気のため、現在症状が軽度でも、成長と共に症状が出てくることも考えられますので、早期に発見することが大切です。
なぜ乳歯が早く抜けてしまうの?
健康な歯は歯根膜という周りを包んでいる丈夫な靭帯によって、あごの骨にがっちりくっついています。歯根膜で歯根の外側にあるセメント質とあごの骨をしっかり固定しているため、ケガや重度の歯周病でなければ抜け落ちることはありません。
低ホスファターゼ症の場合、歯根膜が弱く歯のセメント質のできも悪くなります。すると、歯の根があごの骨としっかり結合できず固定が不十分なため、わずかな力で歯が揺れて抜けやすくなってしまいます。
前歯が抜けやすいのは、奥歯が根の数が複数なのに対し、前歯は1本のため歯根膜がくっついている面積が少なく、支える力が弱いからです。
早く乳歯が抜けた場合の歯科医院での治療法
歯科の治療方法としては以下の方法があります。
1. 歯が揺れてきたら、定期的にお口の中のケアやブラッシング指導を行い炎症が起きないようにする。
2. お口の中の型取りができる(3歳すぎ)ようになったら抜けた歯の部分に入れ歯(小児義歯)を作る。
3. 乳歯の早期脱落が多くの歯で起こった場合、残った歯の負担が大きくなってさらに脱落を起こすため、残っている乳歯がかむ力の負担にならないように咬み合わせを維持して守る。
まとめ
1. 低ホスファターゼ症は歯や骨をつくる酵素が不足しているために、骨折しやすくなる、歯が抜けてしまうなどの症状が発生する遺伝性の病気である。
2. 日本ではアルカリホスファターゼ症に対し酵素の補充という治療法があるため、早期発見できれば骨の成長が見込める可能性がある。
3. 4歳までに乳歯が抜けてしまう・歯のぐらつきがある・乳歯で歯周ポケットがある場合、低ホスファターゼ症の疑いがある。
4. 乳歯が早く抜けてしまった時でも歯科医院での治療法はある。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. Mornet, Etienne. "Hypophosphatasia." Best practice & research Clinical rheumatology 22.1 (2008): 113-127.
2. 大薗恵一: 低ホスファターゼ症. 最新医学社.71(10): 57-63, 2016.
3. 有田憲司, et al. "日本人小児における乳歯・永久歯の萌出時期に関する調査研究 II その 2. 永久歯について." 小児歯科学雑誌 57.3 (2019): 363-373.
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