「歯科治療でアレルギー?」知っておきたい安心・安全のための大切なポイント
- 歯科医師 川邉滋次

- 1 日前
- 読了時間: 11分
▼目次
はじめに
歯科治療では、実はさまざまな材料や薬が使われています。詰め物に使われる「金属」、痛みを除くための「麻酔」、歯科スタッフが使う「ラテックス(天然ゴム)グローブ」など、これらが原因でアレルギー反応が起きてしまうことが稀にあります。
「自分には関係ない」と見過ごされがちですが、アレルギーは命に関わる重篤な症状を引き起こすこともあります。また、治療から数年が経過したあとに、肌荒れや体調不良として症状が現れるケースも少なくありません。
患者様の安全をしっかり守るためには、私たち歯科医院がアレルギーについて正しく理解し、必要に応じて医科の専門医と協力して治療を進めることがとても大切です。
そして何より、患者様ご自身が「自分は何にアレルギーがあるのか」を知り、事前にしっかり伝えていただくことが、トラブルを未然に防ぐ一番の鍵となります。
今回は、歯医者さんで起こりやすいアレルギーの種類やその対策、そして歯科治療を受ける皆さんにぜひ知っておいていただきたい「事前の準備」について分かりやすく解説します。
歯科治療で注意すべき主なアレルギー
歯科治療では、詰め物や被せ物、矯正器具などさまざまな材料が使用されますが、それに伴うアレルギー反応も多岐にわたります。ここでは、その代表である金属アレルギーについて解説します。
1. 金属アレルギー
歯科治療で使われるインレー(詰め物)、クラウン(被せ物)、ブリッジ、入れ歯には、多くの金属が使用されています。特にニッケル、クロム、コバルト、金などはアレルギーの原因になりやすい成分です。
インプラントや歯科矯正治療で使用されるチタンに対するアレルギーは報告がありますがアレルギーを起こす頻度は低いです。
合金名 | 主な用途 | 主な成分 |
金合金(ゴールド) | 自費診療の詰め物、被せ物 | 金、銀、銅、亜鉛 |
白金加金 (プラチナゴールド) | 自費診療の詰め物、 被せ物、入れ歯の土台 | 金、プラチナ、銀、銅、 亜鉛 |
金銀パラジウム合金 | 保険の被せ物・詰め物 | 銀、パラジウム、銅、金、亜鉛 |
銀合金 | 保険の被せ物、土台 | 銀、亜鉛、スズ |
合金名 | 主な用途 | 主な成分 |
陶材焼付用合金 | セラミックの裏打ち金属 | 金、プラチナ、パラジウム、インジウム、スズ |
コバルトクロム合金 | 入れ歯の土台(床)、バネ | コバルト、クロム、 モリブデン |
ニッケルクロム合金 | 入れ歯、被せ物 | ニッケル、クロム、モリブデン |
アマルガム | 昔のむし歯治療 (現在はほぼ見られず) | 水銀、銀、スズ、銅、亜鉛 |
合金名 | 主な用途 | 主な成分(日本語) |
純チタン | インプラント、 入れ歯の土台 | チタン |
チタン合金 | インプラント、 入れ歯の土台 | チタン、アルミニウム、バナジウム |
ニッケルチタン合金 | 矯正用ワイヤー | ニッケル、チタン |
ステンレス鋼 | 矯正用ワイヤー、 ブラケット | 鉄、クロム、ニッケル |
ベータチタン合金 | 矯正用ワイヤー | チタン、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ |
磁性ステンレス鋼 | 磁石式の入れ歯固定装置 | 鉄、クロム、モリブデン |
金属アレルギーの症状は、お口の中の炎症、かゆみ、腫れなどとして現れます。また、手足の湿疹(掌蹠膿疱症など)として全身に症状が出る場合もあります。対策として以下の2つが挙げられます。
非金属素材への変更: 症状が強い場合は、セラミックやジルコニア、レジン(プラスチック)などの金属を使わない素材への変更を検討します。
素材選びのポイント: 近年は金属価格の高騰により、メタルフリー(金属なし)の治療が増えています。しかし、歯ぎしりや食いしばりが強い方の場合、強度の面から「割れにくい金属」を使用した方が適切なケースもあります。
2. 局所麻酔薬アレルギー
局所麻酔とは歯科治療で行われる部分的に麻酔を行う処置のことです。局所麻酔薬は歯科治療で欠かせませんが、まれにアレルギー反応を起こす患者さんがいます。症状は軽度のかゆみから重度のアナフィラキシーまでさまざまです。
ただし、局所麻酔薬によるアレルギーの発生頻度はとても低く、デンマークで5年間(2010〜2014)行われた調査では局所ますいによるアナフィラキシー発生率は120万人に1人未満でした。(日本の調査では100万〜150万人に1人ほど)
麻酔のあとに「動悸がする」「立ちくらみがする」といった経験をされる方がいらっしゃいますが、その多くはアレルギーではなく、緊張や麻酔に含まれる成分(アドレナリンなど)による一時的な反応です。
過去に麻酔薬でアレルギー症状があった場合は必ず歯科医師に伝え、代替薬の使用や事前のアレルギーテストを行うことが大切です。
3. ラテックス(天然ゴム)アレルギー

歯科治療で使用する手袋や「ラバーダム防湿(治療箇所の隔離)」に用いられるゴム製品には、ラテックス(天然ゴム)が含まれています。ラテックスアレルギーの方は、これらに触れると数分以内に蕁麻疹や、重篤な場合にはアナフィラキシーショックを引き起こす恐れがあり、非常に危険です。

また、ラテックスアレルギーを持つ方の約30〜50%は、バナナ・アボカド・キウイなどのフルーツアレルギーを合併していることがあり、これは「ラテックス-フルーツ症候群」と呼ばれています。
さらに、根管治療(歯の根の治療)で神経の代わりに詰める「ガッタパーチャ」という材料にも、ラテックス成分が約20%含まれています。
当院では、アレルギーを申告された患者様に対して、ラテックスフリーの手袋や器具の使用を徹底し、スタッフ全員で情報を共有して安全な治療を心がけております。
4. 処方薬のアレルギー
歯科医院では、麻酔薬や痛み止め、抗生物質など、さまざまな種類のお薬を患者さんに処方します。
【このような症状があれば要注意】
皮膚の異常: 全身や一部に「発疹(ブツブツ)」「赤み」「かゆみ」が出る。
お口の異常: 唇や粘膜が急に腫れる、口の中が「ただれる」。
全身の症状: 強い息苦しさ、激しい腹痛、高熱を伴う発疹(※これらは早急な受診が必要です)。
【原因となりやすいお薬】
痛み止め・抗生物質: 飲み始めてから数日〜1週間ほどで湿疹が出ることがあります。
根管治療(歯の根の消毒)の薬: 処置から数時間後にアレルギー反応が起きる場合があります。
「以前、薬で肌が荒れた」「他科でアレルギーがあると言われた」といった経験があれば、どんなに小さなことでも構いませんので、必ず事前にお伝えください。
もし、歯科医院で処方されたお薬を飲んだあとに体に異変を感じた場合は、自己判断で飲み続けず、すぐに服用を中止して歯科医院にご連絡ください。
5. レジン(樹脂)アレルギー


歯科治療で使用する「詰め物」や「被せ物」「接着剤」などの材料によって、お口の中や全身にアレルギー症状が出ることがあります。
多くは、材料が触れている
部分に以下のような症状が現れます。
お口の中: 赤み、腫れ、ヒリヒリ感、口内炎、ただれなど
全身: まれに顔の腫れや、手のひら・足の裏などの皮膚が荒れることがあります。
※治療後すぐに出ることもあれば、数日〜数年経ってから出ることもあります。
特に「レジン」と呼ばれるプラスチック系の材料(メタクリレート系)や、接着剤の成分が原因となることが多いです。
入れ歯や仮歯の材料(しっかり固まっていない成分が溶け出すことがあります)
虫歯治療の詰め物(コンポジットレジンなど)
歯をくっつけるセメント
【しっかり固めることが予防になる】
塗り固める際の光の当て方が不十分だったり、材料の混ぜ合わせが甘かったりすると、固まりきらなかった成分が溶け出してアレルギーを起こしやすくなります。
【セラミックなら安心とは限らない】
被せ物の種類がレジンでなくても(セラミックやジルコニアなど)、それを歯にくっつける「接着剤」にレジン成分が含まれているため、注意が必要です。
6. 牛乳アレルギー

歯科治療と牛乳アレルギーは一見無関係に思えますが、実は歯を強化する薬剤やケア用品に牛乳由来の成分が含まれていることがあり、重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を引き起こすリスクがあります。
歯科治療において特に注意すべき点は以下の通りです。
1. 「CPP-ACP(カゼインホスホペプチド・非結晶性リン酸カルシウム)」
これが最も注意すべき成分です。牛乳のタンパク質(カゼイン)から作られた成分で、歯の再石灰化を促す効果が高いことから、多くの歯科製品に使用されています。
MIペースト(エムアイペースト): 歯のメインテナンスで使用される歯面に塗布してむし歯を予防するペーストですが、カゼインが含まれているため牛乳アレルギーの方は絶対に使用禁止です。
ガム: 一部歯科専用のガムなどにも含まれている場合があります。
2. 歯周病や粘膜の治療薬
一部の歯周病治療用薬剤や、口腔内の炎症を抑える薬の添加物(賦形剤)として、牛乳由来の成分が使われている場合があります。
3. 止血剤
抜歯などの外科処置の際に使用される止血材の中には、ウシ由来の成分(トロンビンなど)が含まれているものがあります。重度の乳製品アレルギーがある場合、これらに反応する可能性がゼロではないため注意が必要です。
7. 花粉症・ハウスダストアレルギー
花粉症やハウスダストアレルギー自体が歯科治療の妨げになることはありません。しかし、近年普及している「舌下免疫療法(シダキュア、ミティキュアなど)」を受けられている方は注意が必要です。
お口の中に傷ができる処置(抜歯や手術など)の直後に服用すると、傷口から直接薬の成分が血中に入り込み、稀に腫れや痛みが強く出るケースが報告されています。安全に治療を行うため、これらの薬を処方されている方は必ず事前にご相談ください。
医科との連携が患者さんの安全を守る
歯科治療におけるアレルギー対応は、歯科医師だけでなく医科の専門医との連携が欠かせません。アレルギーの診断や検査、治療方針の決定には内科やアレルギー科の協力が必要です。
アレルギーテストの実施
歯科治療前に必要なアレルギーテストを医科で受けることで、リスクを減らせます。
緊急時の対応計画作成
アナフィラキシーなど重篤な反応が起きた場合に備え、医科と連携して迅速な対応計画を立てます。
情報共有の徹底
患者さんのアレルギー情報を医科と歯科で共有し、治療に反映させることが安全な治療につながります。
患者さんができること
患者さん自身もアレルギーのリスクを減らすためにできることがあります。
過去のアレルギー歴を正確に伝える
金属、薬剤、ラテックスなど、どんな小さな症状でも歯科医師に伝えましょう。
アレルギー検査を受ける
不安がある場合は医科で検査を受け、結果を歯科医師に共有してください。
治療中の体調変化に注意する
かゆみや息苦しさなど異変を感じたらすぐに伝えてください。
医科との連携を理解する
歯科医師だけでなく、内科医やアレルギー専門医とも連携していることを知り、安心して治療を受けましょう。
親御さんにできる「お子様をアレルギーから守る術」
お子様は自分の体調の変化を言葉でうまく伝えられないことがあります。親御さんの事前の情報共有が最大の防御になります。
問診票は詳しく記入する: 「皮膚が弱い」「絆創膏でかぶれやすい」「特定の食べ物(果物など)で口が痒くなる」といった些細なことでも、アレルギーのヒントになります。
パッチテストの検討: もし気になる症状があれば、歯科治療を始める前に皮膚科などで「歯科用金属パッチテスト」を受けることも一つの方法です。
まとめ
保険診療の金属から自費の金合金まで、多種多様な金属が使用されるため、過去の皮膚トラブル等の共有が重要です。
動悸や発疹などの経験があれば必ず伝え、アレルギーか一時的な反応(緊張等)かを歯科医師が判断できるようにします。
手袋やゴム製品に反応する方は、重篤なショックやフルーツアレルギー(バナナ等)の合併リスクがあるため厳重な注意を要します。
メタルフリー治療でも、詰め物自体やそれを固定する「レジン(接着剤)」がアレルギーの原因になるケースがあります。
花粉症の舌下免疫療法中や牛乳アレルギーなど、一見歯科と無関係に思える体質も治療の安全性に大きく影響します。
専門医での事前検査や問診票への詳細な記入など、患者様と医療機関が連携することがトラブルを防ぐ最大の鍵です。
執筆・監修者プロフィール
かわべ歯科(静岡県菊川市の歯科医院)理事長・院長 歯科医師の川邉滋次
参考文献
松下 寛: 新編歯科理工学 第7版. 学研書院. 東京. 2018.
Kvisselgaard, Ask D., et al. "Risk of immediate-type allergy to local anesthetics is overestimated—results from 5 years of provocation testing in a Danish allergy clinic." The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice 6.4 (2018): 1217-1223.
Wagner, S., and H. Breiteneder. "The latex-fruit syndrome." Biochemical Society Transactions 30.6 (2002): 935-940.
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