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健康ブームと歯科医療の進化で増える知覚過敏!?歯がしみる理由と対策を解説!

更新日:5月25日

はじめに-歯科医療の進化、健康のために続けてきた飲食類、ストレス社会等で増えた知覚過敏


歯がしみる

アイスやかき氷などの冷たいものを食べたときに、歯が痛くなったり、しみることはありませんか?これは歯の神経が生きており、冷たい感覚を痛いと歯が表現してしまうからです。


この痛みは歯が健全な方でも発生することがあります。


では、この症状が毎日のように起こるとしたらどうでしょうか?


「冷たい水でうがいするだけでも痛い」「きちんとみがきたいのに、毎日の歯ブラシがつらい」という日常生活での悩みも出ます。この温度、乾燥、接触、浸透、化学的刺激によって起こる鋭く短い痛みが「歯の知覚過敏」の辛さです。


研究論文では80%の人は一生のうちに歯の知覚過敏を経験すると推測しています。


歯科医療の進歩によって、歯の寿命が飛躍的に伸び、高齢者になっても神経のある歯(生活歯と呼びます)が多く残るようになる一方で、周囲の歯ぐきが下がって根元が露出したり、歯のすり減りによって歯の内部がむき出しになってしまい、知覚過敏で悩んでいる方が増加しています。


また、近年の健康ブームにより、乳酸菌飲料やお酢など、酸性飲食物を頻繁に摂取し続け、酸蝕症(歯の表面が溶ける)による知覚過敏や、ストレス、かみ合わせが関係した知覚過敏等もあります。


知覚過敏症は、その場しのぎの対症療法だけでなく予防のための生活習慣のアドバイスや食生活の改善なども行うべきだと考えています。今回は知覚過敏に悩んでる方、そうでない方も参考にしていただけるように、知覚過敏の原因や治し方・対処法をまとめてみました。参考にしていただけると幸いです。


▼目次



知覚過敏とむし歯は違うの?


歯の知覚過敏の正式名称は「象牙質知覚過敏症(ぞうげしつちかくかびんしょう)」と呼びます。


知覚過敏は、歯に「冷たいものを飲食する」「歯ブラシでこする」「甘いものを食べる」などの刺激が加わることによって、一時的な鋭い痛みが起こる状態です。


「むし歯」なども歯の痛みがありますが、知覚過敏は病変がない部分に痛みがみられる症状です。


歯の根本部分に多くみられ、上の犬歯、下の前歯と小臼歯に多くみられます。


歯がしみる仕組みとは?


歯の構造と象牙細管
歯の中の構造と象牙細管

歯の表層にあるエナメル質は痛みを感じることはありません。エナメル質には神経が存在していないからです。


その内部にある象牙質は小さなパイプ(象牙細管)が、1平方ミリメートルあたり20,000〜45,000本と数多く存在し歯髄(歯の神経)とつながっています。


歯の知覚過敏のメカニズム

この中には水分があり、入り口で刺激があると液体が波のように移動して歯髄の神経を刺激することで痛みが出るというメカニズムです。このパイプは歳を重ねるにつれ閉鎖することがあり、知覚過敏が起きにくくなるといわれています。


健康な歯と組織の象牙質は周りをエナメル質が囲んでいるので、氷などの極度に冷たいものを摂取する以外は痛みを感じることは少ないです。しかし、様々な理由で象牙質がむき出しになると、刺激が神経に伝わりやすくなり知覚過敏が起きやすくなります。


特に、歯根はエナメル質がなく象牙質が露出しているため、冷たいものや擦過による刺激によって歯に痛みを感じやすい部分です。


知覚過敏になる5つの原因


1. 歯ぐきが下がる


「加齢」や「間違ったブラッシング方法」「歯並びの異常」「歯の矯正治療」によって歯ぐきが下がることがありますが、原因はまだはっきりしていない状態です。歯ぐきの形やボリューム(バイオタイプといいます)によって歯ぐきの退縮のリスクが変わります。


歯学論文(2016)より、

歯1647本を平均8.9年の間、経過観察したところ78.1%の歯に歯肉退縮が進行した。
歯肉退縮の発生や進行は象牙質知覚過敏と頻繁に関連している。

以上から、歯肉退縮からの知覚過敏は起こりやすいと考えられます。


2. NCCL(歯の欠けやすり減り)


歯根のすり減り(模型)
歯の根本部分の欠け・すり減り

聞き慣れない言葉かもしれませんが、NCCLとは「むし歯以外の原因で発生する根本部分限定の歯の欠けやすり減り」です。歯科保険用語では「くさび状欠損(WSD)」とよばれています。ただし、欠け方がくさび状だけではなく、皿状、U型などがあるためその総称がNCCLとなりました。欠けた部分の象牙質部分はむき出しになるため、知覚過敏が発生しやすくなります。


この原因として「酸の過剰摂取・頻繁な嘔吐(清涼飲料水・白ワイン・酢・過食症)」「歯への強い負荷、歯ぎしり(アブフラクション)」「歯ブラシが硬い」「ブラッシングの圧が強すぎる」「粗い研磨剤が入っている歯磨き剤の常時使用」が挙げられます。


3. 歯にヒビが入っている・歯が欠ける・歯がすり減る


硬い物をかんでしまった・外傷などで歯が割れる・ヒビが入ると、象牙質が露出し知覚過敏が起こることがあります。


外傷ではないかみ合わせ面の象牙質の露出原因として多いのが歯のすり減り(Tooth wear)です。この歯のすり減りは、「歯ぎしり」や「酸の過剰摂取」「逆流性食道炎」が挙げられます。


4. 歯科治療や歯石除去後


神経が生きている歯を削る・歯周ポケットの奥深くにあるプラークや歯石を取り除いたあとに、冷たいものが歯にしみることがあります。


また、詰め物やかぶせもので金属を選んだ際、金属は熱の伝わり方が良いため、冷たいものが金属を通して歯の神経に伝わりやすく、しみてしまう場合があります。


5.詰め物やかぶせものの不適合


神経が生きている歯がむし歯になった時、詰め物またはかぶせものをすることが歯科治療でありますが、詰め物やかぶせものの適合が悪く、周囲にすき間ができている場合、知覚過敏が発生する場合があります。


6. ホワイトニング


ホワイトニング剤の成分である「過酸化物」は、色素を分解してくれる大事な役割があります。一方、副作用としてホワイトニング中やホワイトニング後の知覚過敏症状があります。


ホワイトニング

一般に、ホームホワイトニング(お家で行うホワイトニング)中の知覚過敏は軽度の症状を含めた場合、約60%の発生率です。この発生率は薬剤の濃度が高くなればさらに上昇します。また、短時間で高濃度の薬剤を使用するオフィスホワイトニング(歯科医院内でのホワイトニング)でも知覚過敏は発生することがあります。


これはホワイトニング剤が光や熱に分解された際に発生する「フリーラジカル」が歯の着色成分を分解するだけでなく、歯の亀裂部分に入り込んで象牙質を刺激して知覚過敏を発生させてしまうことがあります。この痛みは、ホワイトニング中や直後に発生しますが、フリーラジカルが歯の中に残存することで帰宅後に痛みが発生することがあります。


またホームホワイトニングの場合、適切な時間を守らず長時間使用してしまった際に知覚過敏が発生しやすくなります。


7.プール中の塩素


プールでの頻繁な水泳が知覚過敏の原因の1つであることが報告されています。


知覚過敏の治療法は「感覚をやわらげる」「固める」「結晶物でふたをする」「樹脂・セメントで蓋をする」の4つ


知覚過敏の治療法として「感覚をやわらげる」「固める」「結晶物でふたをする」「樹脂・セメントで蓋をする」の4つの治療法が挙げられます。


知覚過敏の治療法

1. 感覚をやわらげる


硝酸カリウムに含まれるカリウムイオンには、知覚神経の反応をやわらげる働きがあります。そのため、硝酸カリウムは知覚過敏のケアに使われる歯磨き剤によく配合されています。すぐに効果が出るわけではありませんが、毎日続けて使うことで、徐々に症状の改善が期待できます。


この成分の効果をしっかり得るには、ある程度の時間、成分が歯にとどまる必要があります。そのため、歯みがきと組み合わせて使ったり、症状のある部分に直接塗ったりといった工夫が必要になることもあります。知覚過敏の予防にも役立つので、毎日のホームケアに取り入れることをお勧めします。


さらに、歯科用レーザー(半導体レーザーなど)を使った治療もあり、知覚神経の反応を抑えることを目的としています。レーザーの照射は比較的簡単に行えますが、照射しすぎると歯や歯ぐきにダメージを与える恐れがあります。


2. 表面を固める


グルタールアルデヒドという薬剤や、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)などの水になじみやすい成分を主に使用します。これらの成分は、歯ぐきなどの組織にふれると、たんぱく質を変化させて固める(いわば「焼き固める」ような)働きがあります。


ただし、重度の知覚過敏や歯の神経の炎症の時に使用すると、表面を急に固めることが刺激になり、かえって痛みを強くしてしまう可能性があります。


また、歯科用レーザー(炭酸ガスレーザーなど)も、組織内の水分に反応して表面を軽く焼き固めることで、止血や知覚過敏の抑制などの効果を発揮します。比較的安全に処置ができますが、過剰な照射は深い傷ややけどを起こす危険性があります。


3. 結晶物でふたをする


ふたをする方法には、大きく分けて二つの方法があります。一つは、歯の内部にある「象牙細管(ぞうげさいかん)」という細い管を結晶でふさいで刺激を伝えにくくする方法、もう一つは、レジン(樹脂)やセメントといった材料を使って物理的にふさぐ方法です。


知覚過敏抑制剤の塗布
結晶を使って象牙細管のをふさぐ仕組み

結晶を使って象牙細管をふさぐタイプの製品は、塗るだけで効果が出ることが多く、比較的簡単に使えます。これらの製品は、成分に含まれる酸によって一度歯の表面を溶かし、カルシウムを引き出します。その後、このカルシウムが再び歯の表面で結晶化し、細管をふさぐ仕組みです。


また、ナノサイズのリン酸カルシウムを歯にこすり込むことで細管をふさぐ製品もありますが、こちらは効果が現れるまでに時間がかかることがあります。どちらの方法でも、歯垢(プラーク)の付着や、酸性の飲み物・食べ物を頻繁に摂ることで、せっかくできた結晶が溶けてしまう可能性があるため、注意が必要です。


4. 樹脂(レジン)・セメントでふたをする


樹脂やセメントの場合、歯の形が複雑な部分でも、これらの材料でしっかり細管をふさげば、不快な症状を早く、そして和らげることが可能です。ただし、処置の前に歯をしっかりきれいにし、乾燥させておかないと、かえって症状が悪化することもあります。


特にレジン(樹脂)を使う方法は、歯にくっつくというメリットがある一方で、すき間なく接着させるためには高度な技術が必要です。


4つの知覚過敏治療方法にも効果的な順番がある!?


実際の治療では1回の処置で改善が見られないことも少なくありません。その場合、同じ抑制剤を繰り返し使用するか、別の方法で再処置を行うことになります。それでも効果が現れないこともありますし、使用する順番を間違えると、薬剤の効果が十分に発揮されず、「効かない」と感じることもあります。


例えば、最初に封鎖処置を行ってしまうと、その後に凝固剤や鈍麻剤を使っても、すでに作られた「ふた」が作用を妨げてしまいます。さらに、リン酸カルシウムを塗布した後に酸性の薬剤を使用すると、せっかく作られた結晶が溶けてしまい、治療の効果がなくなってしまうこともあります。


そのため、治療の基本的な順番は次のようになります

  1. 感覚を和らげる処置

  2. 表面を固める処置

  3. 結晶物を使ったふたをする処置

  4. レジンやセメントを使ったふたをする処置


それでも効果があまりみられない場合の対処法


1. 飲食物のチェック


酸性の食べ物や飲み物をよく口にする場合、象牙質部分のミネラルが溶け出てしまい、結果として症状が繰り返されることがあります。特に象牙質はエナメル質よりも溶けやすいため、飲食物の影響は大きいです。


象牙質はエナメル質より酸に弱い

ジュース・スポーツドリンクなどの清涼飲料水や、ビール・ワインは酸性のものが多いです。


2. 服用している薬のチェック


抗うつ薬や抗精神病薬などの薬剤の一部に副作用として歯痛の症状が出ることがあります。

副作用の症状が強い場合、担当医師と相談して薬の量を減らしたり、薬剤を変えてもらうことがあります。


3. 歯と周りの組織からではない原因の痛み(口腔顔面痛)


三叉神経痛や筋痛・筋膜痛などの「歯や歯の周りの組織が原因でない痛み」の場合も考えられます。この場合には痛みを専門に扱っている医療機関に相談する必要があります。


4. 歯の神経を抜くのは最終手段


知覚過敏の治療手段ですが、最終的な解決法になるためできる限り避けた方が良いと考えられます。


知覚過敏は予防できるの?


知覚過敏の確実な予防法はありません。健康な歯ぐきでも加齢によって退縮しまうことは避けることは難しいです。


歯の根本部分象牙質のむき出しをなるべく防ぐには、「歯周病の予防に努めること」「歯ぐきの退縮が進みやすいような不適切なブラッシングをしないこと」「酸性の飲食物を摂取しすぎないこと」が挙げられます。


ぜひ、ご自身のお口の中に合った歯ブラシ・歯みがき剤・ブラッシング方法や飲食物についてのアドバイスを歯科医院で聞いてみてください。



まとめ


1. 知覚過敏は冷水や刺激で歯に一時的な鋭い痛みを感じる症状で、多くの人が経験しやすく、歯肉退縮や酸蝕症などが原因で増加している。むし歯とは異なる。


2. 症状の緩和には対症療法だけでなく、生活習慣や食生活の改善による予防も重要である。


3. 歯ぐきの退縮や歯のすり減り、ヒビ、歯科治療後の影響、ホワイトニングなど多様な原因で象牙質が露出し知覚過敏が生じる。


4. 生活習慣や食習慣、プールの塩素なども知覚過敏の誘因となり、適切なケアと予防が大切である。


5. 知覚過敏の感覚をやわらげる治療は、硝酸カリウム配合の歯磨き剤やレーザー照射で神経の反応を抑える方法がある。


6. 表面を固める治療は、薬剤やレーザーで歯ぐきや象牙質の組織を変化させて刺激を減らす方法がある。


7. 結晶物でふたをする治療は、象牙細管を結晶で塞ぎ刺激を伝わりにくくする。


8. 樹脂やセメントでふたをする治療は、細管を物理的に封鎖し、症状を早く和らげる高度な技術が必要な方法がある。



この記事を書いた人


予防歯科担当川邉滋次(歯科医師)

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次



参考文献


1. Shibukawa, Yoshiyuki, et al. "Odontoblasts as sensory receptors: transient receptor potential channels, pannexin-1, and ionotropic ATP receptors mediate intercellular odontoblast-neuron signal transduction." Pflügers Archiv-European Journal of Physiology 467.4 (2015): 843-863.


2. 田上 順次 奈良 陽一郎 山本一世 斉藤隆史,保存修復学21,末永書店(2022):75-79


3. Chambrone, Leandro, and Dimitris N. Tatakis. "Long‐term outcomes of untreated buccal gingival recessions: a systematic review and meta‐analysis." Journal of periodontology 87.7 (2016): 796-808.


4. Nascimento, Marcelle M., et al. "Abfraction lesions: etiology, diagnosis, and treatment options." Clinical, cosmetic and investigational dentistry 8 (2016): 79.


5. Cortellini, Pierpaolo, and Nabil F. Bissada. "Mucogingival conditions in the natural dentition: Narrative review, case definitions, and diagnostic considerations."Journal of periodontology 89 (2018): S204-S213.


6.Rao, K. Arun, et al. "Prevalence of dentinal hypersensitivity and dental erosion among competitive swimmers, Kerala, India." Indian Journal of Community Medicine 44.4 (2019): 390-393.


7. 冨士谷盛興.象牙質知覚過敏症 第4版目からウロコのパーフェクト治療ガイド. 第4版第1刷. 医歯薬出版株式会社. 2024.

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