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執筆者の写真歯科医師 川邉滋次

加熱式たばこや電子たばこは歯周病のリスクがあるの?

はじめに


2020年4月1日に健康増進法の一部を改正する法律の全面施行がされ、学校や病院などでは敷地内禁煙(屋外の喫煙場所設置は可)、飲食店や事業所では原則屋内禁煙(喫煙専用室は喫煙可)、20歳未満の喫煙場所への立ち入り禁止になったという話を聞いた方も多いと思います。


そして2021年10月1日からたばこ税の増税がありました。この流れは喫煙者本人の健康被害だけでなく「周りの人や子供たちへの望まない受動喫煙による健康被害をなくそう」という背景があります。


その中で煙の少ない加熱式たばこと電子たばこなど新型たばこがコンビニエンスストアなどでよく見られるようになりました。加熱式たばこは2015年に全国で発売されたIQOS(アイコス/フィリップ・モリス・インターナショナル/アメリカ)を筆頭に、glo(グロー/ブリティッシュ・アメリカン・タバコ/イギリス)、Ploom TECH(プルームテック/日本たばこ産業/東京)と続き、2020年10月にはlil HYBRID(リルハイブリッド/フィリップ・モリス・インターナショナル/アメリカ)を加えた計4品が市場に浸透してきています。


加熱式たばこの普及率

急速な普及の背景には、企業が行うマスメディアを介した宣伝により世間一般において「加熱式たばこは紙巻きたばこと比較して、健康への影響が軽減され周囲の環境にも配慮した製品であるという認識をされているからだと考えられます。


そこで、今回は歯科の立場から、たばこや新型たばこと歯周病の関係、受動喫煙の周囲の人たちの口の中への影響などまとめてみました。


▼目次


 

たばこの有害成分とは?


たばこには約4000種類の化学物質と40種の発がん性物質が含まれています。

タバコの主な有害物質は「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」です。


ニコチンは依存性が強く、毛細血管収縮作用という、細い血管の血流を悪くさせてしまう作用があります。


たばこによる歯の着色
たばこのヤニによる着色

タールはヤニともよばれ、強い発がん性があり口の中の表面に沈着して、唾液の出る部分をふさぎ唾液の分泌量を減少させてしまいます。唾液の少ないお口の中は、プラークや歯石が付着しやすい環境になってしまいます。


一酸化炭素は酸素よりも血中のヘモグロビンと結合しやすいため、血液の色が黒くなるだけでなく、酸素が全身に行き渡りにくくなります。


タバコと歯周病の関係は?


500人以上を対象にした研究( スウェーデン)では、20年という期間で喫煙者はタバコを吸わない人と比較して6.5倍歯周病になりやすかったという結果があります。他にも歯科のメインテナンス中のタバコと歯を失う関係を調べたものでは、喫煙者は3.24倍歯を失いやすかったという愛煙家には厳しいデータもあります。


たばこのニコチン成分が歯ぐきの毛細血管を収縮させます。狭くなり血行が悪くなることで、歯ぐきに酸素や栄養が行き届かなくなり、歯周病を悪化させてしまいます。


またタールの唾液量低下や一酸化炭素の酸素の供給が行き届きにくくなることも、歯周病のリスクになります。


喫煙による歯周病への影響の特徴として、出血などの自覚症状が出にくく、炎症症状が隠されてしまうため進行していることに気づかず歯周病が悪化していることがあります。


他にもたばこは「歯ぐきへの着色」「味覚が鈍くなる」「口腔内や咽頭のがんの発生率が高くなる」「口臭が悪化する」「口の中の乾燥する」等の影響があります。


また、妊娠中のたばこは胎児に影響があることもわかっています。


葉巻、パイプは歯周病と関係あるの?


では葉巻やパイプでの喫煙は問題ないのでしょうか?


アメリカ合衆国のメリーランド州ボルチモアでの調査で、

葉巻やパイプの喫煙は吸わない人と比べて中等度および重度の歯周炎の有病率が高く、歯ぐきの下がり方も高かったことから、歯周病の健康や歯の喪失に対して、紙巻たばこと同様の悪影響を及ぼす。

ことが報告されています。


葉巻やパイプでの喫煙者の方も同様に、歯周病の改善と歯を失うリスクを減らす手段として禁煙の努力が必要だと考えられます。


加熱式たばこや電子たばこは歯周病に影響があるの?


加熱式たばこは紙巻きたばこと何が違うのでしょうか?


紙巻きたばことの大きな違いは、煙ではなく「水蒸気」を吸うことです。タバコ葉に含ませたグリセリン類によって蒸気を発生させて煙の代わりとしています。紙巻きたばこ同様、タバコ葉が用いられますが、直接タバコ葉に火をつけるのではなく、熱を加えてニコチンを発生させて吸引します。


混同されやすい電子たばこはタバコ葉ではなく液体を加熱して気化させその蒸気を吸引します。欧米では電子たばこにニコチンを添加することが合法のためニコチンの入った溶液が使用されますが、日本製の電子たばこはニコチンが含まれていないことが大きな特徴です。


加熱式たばこと電子たばこ

加熱式たばこは紙巻たばこと比較してタールや一酸化炭素の量を減らしています。タールは先述の通り発がん性と唾液の量を減らす作用があります。


しかしニコチンは紙巻たばこと比較して13〜87%と含まれており、ニコチンの歯周病の危険因子としてはタールよりも高く、加熱式たばこの使用者は紙巻たばこの場合よりも使用頻度が増えることも報告されていますので加熱式たばこの歯周病へのリスクは依然として存在すると考えられます。


電子たばこは医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律によってニコチンが規制されているため、日本ではニコチン入りの電子たばこは販売していません。

タールも含まれていないため健康に対しての影響に関してはまだ分かっていませんが、加熱式たばこと比べると普及率は低いです。


ただ、たばこを止めたい人の禁煙への1歩として、まずたばこの代わりとして加熱式タバコや電子たばこを使用し、ゆくゆくは完全な禁煙を目指すという考え方もあります。


喫煙ルームや別室で吸えば問題ないわけではない事実


受動喫煙とは、たばこから出る副流煙などで、吸っていない人もその煙を吸い込んでしまうことです。この受動喫煙は肺だけでなくお口の中にも健康被害を及ぼすことがあります。


歯周病、子どものむし歯、歯ぐきの着色など、本人が吸っていなくても家族に喫煙者がいる場合はこのような影響が出る場合があります。


たばこを吸っていない人は副流煙によって1.3倍ほど歯ぐきが下がりやすいという結果もあります。


「近くでたばこを吸わなければ大丈夫」というわけでもありません。別の部屋で吸っている・オフィスの喫煙専用室などで分煙していても、吸ってからしばらくは、吐く息、髪や衣類から有害物質が出るため他の人に悪い影響を与えてしまう場合があります。


たばこは自分自身の体やお口の中に悪影響を与えるばかりか、家族や他の形にも巻き添えにしてしまうこともあるのです。


禁煙したい方こそ歯科医院でメインテナンスを受けて欲しい理由


以前喫煙していたが現在は禁煙している人は、1度もたばこを吸っていない人と比較しても歯を失うリスクに大きな差がなく、ずっと喫煙している人は歯の喪失リスクが2.6倍高かったというデータがあります。


つまり、たばこを止めれば歯を長持ちさせる可能性が高くなります。しかし長期の禁煙は簡単ではありません。たばこには2つの依存があり、ニコチンによる依存と、習慣的に吸ってしまう心理的依存があります。そのため、禁煙をしたくてもなかなか続かない場合があります。


そこで医科の禁煙外来とともに、歯科でのお口の中のメインテナンスも一緒に行うことをおすすめします。


それは、口臭や歯周病や歯の着色など、「たばこの影響」を直接自覚症状で確認できるのはお口の中だからです。継続して口腔内のメインテナンスを行うことで、自分自身の目で見える「口腔内の改善」を認知することで禁煙のきっかけになることがあります。


だからこそ、1人で悩まず、「かかりつけ歯科医院」をつくっていただき、歯科治療だけでなく、メインテナンスも続けて受け、禁煙を一緒に取り組んでいくのが望ましいと考えます。


 

まとめ


1. たばこの主な有害物質はニコチン・タール・一酸化炭素。


2. たばこを吸う人は吸わない人と比べ歯周病のリスクが高い。


3. 葉巻やパイプも紙巻たばこと同様の歯周病リスクがある。


4. 加熱式たばこは紙巻たばこと比べてニコチンやタール・一酸化炭素の量を減らし煙も少なくなっているが、ニコチンが入っているため歯周病のリスクはある。


5. 電子たばこは法によりニコチンが含まれていないため、まだ健康被害については判明しないが、普及率が少ない。


6. たばこの副流煙でたばこを吸っていない家族や周りの人たちもお口の中の健康被害が出ることがある。


7. 禁煙すると歯が長持ちする可能性がある


8. 禁煙するために歯科のメインテナンスを利用することも1つの手段である。


 


この記事を書いた人


静岡県菊川市のかわべ歯科院長兼理事長で歯科医師の川邉滋次です。

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


 

参考文献


1. Hori, Ai, Takahiro Tabuchi, and Naoki Kunugita. "Rapid increase in heated tobacco product (HTP) use from 2015 to 2019: from the Japan ‘Society and New Tobacco’Internet Survey (JASTIS)." Tobacco control 30.4 (2021): 474-475.


2. Tomar, Scott L., and Samira Asma. "Smoking‐attributable periodontitis in the United States: findings from NHANES III." Journal of periodontology 71.5 (2000): 743-751.


3. Albandar, Jasim M., et al. "Cigar, pipe, and cigarette smoking as risk factors for periodontal disease and tooth loss." Journal of periodontology 71.12 (2000): 1874-1881.


4. 田淵貴大. "新型タバコのリスク―喫煙とアレルギー, さらにその先へ―." 日本小児アレルギー学会誌 34.1 (2020): 25-31.


5. 高橋正知. "新型タバコ (加熱式タバコ, 電子タバコ) の健康リスク." 八戸学院大学紀要 60 (2020): 21-39.


6. ALHarthi, Shatha Subhi, et al. "Impact of cigarette smoking and vaping on the outcome of full-mouth ultrasonic scaling among patients with gingival inflammation: a prospective study." Clinical oral investigations 23.6 (2019): 2751-2758.


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