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加熱式タバコでも歯周病リスク大!? 歯科医師が教えるたばこと口の健康被害

更新日:8月1日

はじめに-健康増進法改正で広がる禁煙の流れと新型たばこの現状


加熱式タバコのリスク

2020年4月1日から、改正された健康増進法が全面的に施行されました。学校や病院などは敷地内禁煙(ただし屋外に喫煙場所を設けることは可能)、飲食店や事業所では原則屋内禁煙(喫煙専用室なら喫煙可)、さらに20歳未満の人は喫煙場所への立ち入りが禁止になったのを知っている方も多いと思います。


また、2021年10月1日にはたばこ税が引き上げられました。こうした流れの背景には、喫煙者本人の健康被害だけでなく、「周りの人や子どもたちが望まない受動喫煙による健康被害をなくそう」という考え方があります。


その一方で、最近では煙の少ない「加熱式タバコ」や「電子タバコ」といった新型たばこがコンビニなどでもよく見かけるようになりました。加熱式タバコは、2015年に全国発売されたIQOS(アイコス)をはじめ、glo(グロー)、Ploom TECH(プルームテック)、そして2020年10月からはlil HYBRID(リルハイブリッド)など、いくつかのブランドが浸透しています。


加熱式たばこの普及率

急速に普及した背景には、テレビCMなどで「加熱式タバコは紙巻きタバコより健康への害が少なく、周囲への煙も減らせる」というイメージが広く伝えられたことがあると考えられます。


そこで今回は、歯科の立場から「タバコや新型タバコが歯周病に与える影響」や、「受動喫煙が周りの人の口の中に及ぼす影響」などについて、まとめてお伝えしたいと思います。


▼目次



たばこの有害物質 どんな影響があるの?


たばこには約4000種類の化学物質と40種の発がん性物質が含まれています。

タバコの主な有害物質は「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」です。


ニコチンは依存性が強く、毛細血管収縮作用という、細い血管の血流を悪くさせてしまう作用があります。


たばこによる歯の着色
たばこのヤニによる着色

タールはヤニともよばれ、強い発がん性があり口の中の表面に沈着して、唾液の出る部分をふさぎ唾液の分泌量を減少させてしまいます。唾液の少ないお口の中は、プラークや歯石が付着しやすい環境になってしまいます。


一酸化炭素は酸素よりも血中のヘモグロビンと結合しやすいため、血液の色が黒くなるだけでなく、酸素が全身に行き渡りにくくなります。


喫煙者は要注意!?歯周病や歯を失うリスクが急増する理由


500人以上を対象にした研究(スウェーデン)では、20年という期間で喫煙者はタバコを吸わない人と比較して6.5倍歯周病になりやすかったという結果があります。他にも歯科のメインテナンス中のタバコと歯を失う関係を調べたものでは、喫煙者は3.24倍歯を失いやすかったという愛煙家には厳しいデータもあります。


たばこのニコチン成分が歯ぐきの毛細血管を収縮させます。狭くなり血行が悪くなることで、歯ぐきに酸素や栄養が行き届かなくなり、歯周病を悪化させてしまいます。


またタールの唾液量低下や一酸化炭素の酸素の供給が行き届きにくくなることも、歯周病のリスクになります。


喫煙による歯周病への影響の特徴として、出血などの自覚症状が出にくく、炎症症状が隠されてしまうため進行していることに気づかず歯周病が悪化していることがあります。


他にもたばこは「歯ぐきへの着色」「味覚が鈍くなる」「口腔内や咽頭のがんの発生率が高くなる」「口臭が悪化する」「口の中の乾燥する」等の影響があります。


また、妊娠中のたばこは胎児に影響があることもわかっています。


葉巻やパイプも歯周病を悪化させる


では、葉巻やパイプでの喫煙は問題ないのでしょうか?


アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアで行われた調査では、葉巻やパイプを吸う人は、吸わない人に比べて中等度から重度の歯周炎の有病率が高く、歯ぐきの後退も進んでいることが報告されています。


つまり、葉巻やパイプの喫煙も、紙巻たばこと同様に歯周病の進行や歯の喪失リスクを高める悪影響があると考えられます。


そのため、葉巻やパイプを吸う方も、歯周病の予防や歯を失うリスクを減らすために、禁煙に取り組むことが大切です。


紙巻きタバコ・加熱式タバコ・電子タバコの違いとは!?


加熱式タバコと電子タバコは、紙巻きタバコと「火のつけ方」「煙の成分」が大きく違います。


紙巻きタバコはタバコ葉に直接火をつけて煙を吸います。その煙にはタールなど多くの有害物質が含まれます。


加熱式たばこと電子たばこ

一方、加熱式タバコは火を使わず、タバコ葉を加熱してニコチンを含む「水蒸気(エアロゾル)」を発生させて吸います。タバコ葉は使われていますが、燃やさないので煙ではなく水蒸気を吸う仕組みです。


電子タバコは加熱式タバコとよく混同されますが、タバコ葉は使わず、リキッド(液体)を加熱して蒸気を吸います。海外ではこのリキッドにニコチンを入れることが認められていますが、日本国内で販売されている電子タバコ用リキッドは法律でニコチンを含むものが禁止


簡単にまとめると、

  • 紙巻きタバコはタバコ葉を燃やして煙を吸う

  • 加熱式タバコはタバコ葉を熱して水蒸気を吸う(ニコチンあり)

  • 電子タバコは液体を熱して水蒸気を吸う(日本ではニコチンなし)


燃やすか燃やさないか、そしてタバコ葉を使うか使わないかが大きな違いです。


ちなみに欧米では、日本で普及しているアイコスなどの「加熱式タバコ」よりも、「電子タバコ」が主流になっています。これは、若い世代の紙巻きタバコ離れが進んでいることや、インターネットで手軽に買えることなどが要因と考えられます。


また、日本と違い、欧米の多くの国では電子タバコ用のリキッドにニコチンを添加することが合法です。そのため、ほとんどの電子タバコにはニコチン入りリキッドが使われています。この結果、電子タバコを吸う人もニコチン依存症になりやすく、やめにくくなってしまうと考えられています。


加熱式タバコは禁煙の助けにならない!? ニコチン依存のリスク


加熱式タバコは、紙巻きタバコと比べるとタールや一酸化炭素の量を減らしています。タールには発がん性があり、また唾液の量を減らす作用もあるため、少なくなればその点はリスクを下げる効果が期待されます。


しかし、ニコチンについては紙巻きタバコの13〜87%ほど含まれているとされています。ニコチンはタール以上に歯周病のリスクを高める要因と考えられており、さらに加熱式タバコの使用者は紙巻きタバコよりも吸う回数が増える傾向があるという報告もあります。そのため、加熱式タバコでも歯周病のリスクは依然として存在します。


また、加熱式タバコと紙巻きタバコを吸ったときの血液中のニコチン濃度を比べた研究では、どちらもほとんど同じように体内にニコチンが取り込まれることが示されています。つまり、紙巻きタバコから加熱式タバコに切り替えても、ニコチン依存を断ち切るのは難しいままです。


せっかく禁煙しようと考えたときに加熱式タバコに切り替えると、タバコによる健康被害を減らす貴重なチャンスを逃してしまう恐れがあります。むしろ加熱式タバコの継続使用により、新たなニコチン依存を作り出してしまう可能性もあると考えられています。


電子タバコにニコチンは入ってないけど…本当に安全?


電子たばこは薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によってニコチンが規制されているため、日本ではニコチン入りの電子たばこは販売していません。


電子タバコにニコチンが入っていないとはいえ、リキッド(液体)の成分には注意が必要です。中には健康への悪影響が心配される成分が含まれていることがあります。たとえば、肺に害を及ぼす可能性があるビタミンE由来のオイルや、加熱することで発がん性のある物質に変わるグリセリンやプロピレングリコールなどが使われている場合もあります。安全だと思って吸っていても、体に悪い影響を与えるリスクがあることを知っておくことが大切です。


大切な家族を守るために知っておきたい受動喫煙の悪影響


受動喫煙とは、自分ではたばこを吸っていなくても、たばこの煙(副流煙など)を周りの人が吸い込んでしまうことを指します。この受動喫煙は、肺だけでなくお口の中にも健康被害を及ぼすことがあります。


たとえば、歯周病、子どものむし歯、歯ぐきの着色などは、本人が吸わなくても家族に喫煙者がいることで起こる場合があります。さらに、たばこを吸わない人でも、副流煙によって歯ぐきが下がるリスクが約1.3倍になるという報告もあります。


「近くで吸わなければ大丈夫」というわけではありません。別の部屋で吸ったり、オフィスの喫煙専用室などで分煙していても、吸った後しばらくは吐く息や髪、衣類から有害物質が放出され、周りの人に悪影響を与えることがあります。


たばこは自分自身の体やお口の中に悪影響を与えるだけでなく、大切な家族や周りの人まで巻き添えにしてしまう可能性があるのです。


禁煙で歯を長持ちさせよう!かかりつけ歯科でできる禁煙サポート


以前に喫煙していたけれど今はやめている人は、たばこを一度も吸ったことがない人と比べても、歯を失うリスクに大きな差がないというデータがあります。一方で、ずっと喫煙を続けている人は、歯を失うリスクが約2.6倍高いとされています。


つまり、たばこをやめれば歯を長持ちさせられる可能性が高まります。ただし、禁煙を長く続けるのは簡単ではありません。たばこには「ニコチンによる身体的な依存」と「習慣的に吸ってしまう心理的な依存」という2つの依存があるため、やめたくても続かない場合があります。


そこで、医科の禁煙外来を利用するのとあわせて、歯科でお口の中のメインテナンスを受けることをおすすめします。口臭、歯周病、歯の着色など、たばこの影響を直接目で見て自覚しやすいのはお口の中です。定期的に歯科でメインテナンスを行い、口の中の変化を自分で確認することで、禁煙を続けるきっかけになることもあります。


だからこそ、1人で悩まずに「かかりつけの歯科医院」を持ち、治療だけでなくメインテナンスも継続して受けながら、禁煙に一緒に取り組んでいくことが大切です。



まとめ


1. 健康増進法改正で屋内禁煙が広がり受動喫煙対策が強化された。


2. たばこには多数の有害物質が含まれ、口腔内にも悪影響を及ぼす。


3. 喫煙者は非喫煙者に比べ歯周病や歯を失うリスクが大幅に高い。


4. 葉巻やパイプの喫煙も紙巻きたばこと同様に歯周病を悪化させる。


5. 紙巻き・加熱式・電子タバコは仕組みが違うがそれぞれにリスクがある。


6. 加熱式タバコもニコチン依存を断ち切れず禁煙の助けにならない。


7. 受動喫煙から家族を守り歯を長持ちさせるためにも禁煙を推奨する。



この記事を書いた人


静岡県菊川市のかわべ歯科院長兼理事長で歯科医師の川邉滋次です。

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次



参考文献


1. Hori, Ai, Takahiro Tabuchi, and Naoki Kunugita. "Rapid increase in heated tobacco product (HTP) use from 2015 to 2019: from the Japan ‘Society and New Tobacco’Internet Survey (JASTIS)." Tobacco control 30.4 (2021): 474-475.


2. Tomar, Scott L., and Samira Asma. "Smoking‐attributable periodontitis in the United States: findings from NHANES III." Journal of periodontology 71.5 (2000): 743-751.


3. Albandar, Jasim M., et al. "Cigar, pipe, and cigarette smoking as risk factors for periodontal disease and tooth loss." Journal of periodontology 71.12 (2000): 1874-1881.


4. 田淵貴大. "新型タバコのリスク―喫煙とアレルギー, さらにその先へ―." 日本小児アレルギー学会誌 34.1 (2020): 25-31.


5. 高橋正知. "新型タバコ (加熱式タバコ, 電子タバコ) の健康リスク." 八戸学院大学紀要 60 (2020): 21-39.


6. ALHarthi, Shatha Subhi, et al. "Impact of cigarette smoking and vaping on the outcome of full-mouth ultrasonic scaling among patients with gingival inflammation: a prospective study." Clinical oral investigations 23.6 (2019): 2751-2758.

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