予防歯科の観点から歯磨き粉の選び方をお伝えします
更新日:3月7日
はじめに
皆さんはお家にある歯磨き粉を、数ある中からどのような理由で選びましたか?
2021年、インターネットのアンケートで「歯磨き粉を買おうとしたとき頭の中に思い浮かべるブランド」を1000人に調査した結果では、テレビのコマーシャルなどでよく見かける歯磨き粉が揃っていました。
また、ランキングに入った歯磨き粉は「効能」以外で、「使い慣れている」が理由として挙げられていました。
ただ、いつも使っているからという理由は、もしかすると自分に合った歯磨き粉と出会えていない可能性もあります。やはり、歯磨き粉は自分自身のお口の中の環境にしっかりアプローチできるものを選びたいものです。
では、歯磨き粉を選ぶためにはどうすればいいのでしょうか?
そこで今回は「歯磨き粉を正しく選ぶ方法」についてまとめてみました。
他にも「市販品と歯科医院で販売している歯磨き粉の違い」についてもご紹介させていただきます。
この記事をご覧になって歯磨き粉選びの参考にしていただけたら幸いです。
▼目次
歯磨き粉を選ぶ時はここに注目!
早速「自分に合った歯磨き粉を選ぶ方法」について説明しますが、最初に残念なお話をしなければなりません。それは歯磨き粉は歯ブラシの邪魔をしてしまっているという事実です。
従来は「歯磨き粉を使うと効率よくプラークを取り除くことができる」と考えられていましたが、2016年の研究論文では、
ブラッシング時に歯磨剤を使っても使わなくてもプラークの取れ方に影響はない
ということが報告されています。
むしろ歯磨き粉が歯と歯の間に入り込んでしまうと、溜まってしまった部分は歯ブラシの毛先が滑ってしまうため、汚れに届かないスライディング効果という現象を起こし、歯ブラシの清掃効果を弱めてしまいます。

つまり、歯磨き粉を使用しない方がプラークが取れるということになります。
この話を聞くと歯磨き粉は無意味ではないかと思ってしまいますよね?
ここで歯磨き粉を使うメリットとして「有効成分」が挙げられます。
有効成分には「知覚過敏の予防」「むし歯予防効果」「殺菌、炎症を抑える」「着色汚れを除去する」などがあるため、自分に合った有効成分が入ったものであれば使用した方が良いと考えられます。

特にフッ化物(フッ素)は市場の歯磨き粉の92%に入っており、普及によって子どものむし歯予防に大きく貢献しているため、フッ化物の入った歯磨き粉は有用であると考えられます。
つまり、歯磨き粉を選ぶ基準として
1. 自分自身が悩んでいるお口の中のトラブルを解決できる有効成分が入っているか?
2.歯磨き粉にフッ化物が配合されているか?(濃度も大切です)
を気にしながら買うことをおすすめします。
歯周病予防の歯磨き粉は歯周病が治るわけではない
「殺菌剤」や「抗炎症剤」が含まれている歯周病予防の歯磨き粉が販売されています。
しかし、歯周病予防の歯磨き粉は「使えば歯周病が治る」というわけではありません。
殺菌剤や抗炎症剤などの有効成分は、歯周病の初期段階の「歯肉炎」を抑える効果はありますが、歯周病が進行した深い歯周ポケットまで到達することは期待できません。
歯周病を治すためには、日常のブラッシングに加えて、歯科医院で歯周治療することが大切です。
市販と歯科専売品の歯磨き粉の違いは?
歯科専売品が市販と異なる点は「低研磨性」と「低発泡性」です。
1 . 低研磨性
「研磨剤(清掃剤)が少ない」という意味です。研磨剤は着色汚れを落とす作用があります。
歯磨き粉の「歯を白くする」という表示は、ホワイトニング効果のある特別な有効成分が入っていなくても、汚れを落とす成分が入っていれば法律で表示が認められています。
研磨剤は「着色汚れ」や、「ホワイトニング後の色戻りの防止」には有効ですが、歯の根元が露出している場合などは削れてしまい症状を悪化させる場合もあるので注意が必要です。
2 . 低発泡性
「発泡剤が少なく、泡立ちが少ない」という意味です。
泡を出すことでブラッシング時の満足感を与え、モチベーションを上げる

メリットがあります。しかしデメリットとして、泡立ちが視界を邪魔してしまい、磨き残しが多くなりやすい傾向があります。
発泡剤配合・不使用の歯磨き粉の効果を比較した研究論文では、
発泡作用そのものにはプラークの清掃効果や歯肉炎の改善効果はなかった、しかし使用感は優れていた。
と報告しています。
歯科医院専売品の歯磨き粉は、泡が少ない分最初は物足りなさを感じる方もいるとは思いますが、可能であれば低発泡の歯磨き粉をおすすめします。
3. フッ化物濃度に差はあるの?
日本では製造販売承認基準によって歯磨き粉にはフッ化物イオン濃度が1500ppm以下に定められています。歯科専売品でも市販品でも最大で1450ppmくらいの商品が販売されているため、フッ化物濃度の上限には差はありません。
まとめ
①歯磨き粉を使用してもプラーク除去効率が良くなるというわけではないが、有効成分という付加価値を考えると歯みがき粉は使用する方が望ましい。
②歯周病予防の有効成分の入った歯みがき剤は歯肉炎への対策としては良いと考えられる。歯周病が進行している場合はプラスして歯科医院での歯周治療も必要。
③歯科医院専売品歯磨き粉の特徴は「低研磨」「低発泡」である。フッ化物濃度上限には差がない。
④発泡剤はブラッシングの満足感を与えるが、正しいブラッシング方法を実践するのであれば低発泡をおすすめする。
この記事を書いた人

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
①紺谷洋子ほか: 歯ブラシの植毛部の状態による歯垢除去効果について 第3報. 小児歯誌, 24(3): 548(1986)
②Cees Valkenburg et al: Does dentifrice use help to remove plaque? A systematic review. Journal of Clinical Periodontology, 43(12):1050-1058(2016)
③S Sälzer et al: The effectiveness of dentifrices without and with sodium lauryl sulfate on plaque, gingivitis and gingival abrasion-a randomized clinical trial. Clinical Oral Investigations, 20(3):443-450(2016)