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歯磨きだけじゃない口臭対策:口臭の原因と歯科医院での治療法

はじめに-口臭でお悩みの方へ


口臭は、口の中での細菌の活動によって発生することが多いです。口臭の原因としては、不十分な口腔衛生、歯周病、乾燥した口(口腔乾燥)、特定の食べ物や飲み物、喫煙、あるいは全身の病気が考えられます。


「スメルハラスメント」という言葉を知っていますか?これは、周りの人達を不快にさせる臭いを使った嫌がらせのことで、「スメハラ」ともよばれています。


2019年にサンスターが実施したアンケート調査によると、口臭がパートナー・配偶者の気になる臭いとして、男女共に1位にランクされました。特に男性の場合、口臭が他の臭いを大きくおさえて79.4%と最も気にしていることがわかりました。


悩む男性

しかし、嗅覚は早い段階で順応する機能が働き、臭いを感じられなくなる整理機能が働いてしまいます。ですから、自分自身で口臭を感じることがなかなかできないため、周りの人から指摘されたり、周りの態度や表情から推測するなど、日常で自覚できる機会が少ないのです。逆に、口臭が無いにも関わらず、周りの仕草に過敏に反応して「私の口臭いのかな‥」と思い込んで悩んでしまうケースもあります。


今回は、ご自身や大切な人の口臭について悩んでいる方に役立てていただくため、口臭の原因と歯磨き以外の対策についてまとめてみました。さらに、口臭対策には歯磨きと同じくらい舌の清掃が大切です。その理由についても詳しく説明します。


▼目次


 

口臭にはいろいろな種類がある


口臭とは、周囲に不快感を感じさせるようなお口のにおいのことです。歯科では「口臭症」という病名があります。


口臭症には様々な種類がありますが、ニンニクなど食べ物の臭いが原因である口臭は口臭症には当たりません。実際に、口臭症は「真性口臭症」「仮性口臭症」「口臭恐怖症」の3種類があります。さらに、真性口臭症は「生理的口臭」と「病的口臭」の2つに分けられます。


口臭症の国際分類
口臭症の種類

1 . 真性口臭症-生理的口臭


生理的口臭は、起床時や空腹時、緊張している時に感じられる口臭です。女性の生理期間中にも口臭が発生することがあります。また、加齢による老人性口臭も生理的口臭に分類されます。


人は生きている限りだれでも吐く息の中に数百の臭い成分を生じさせています。アルコールやアセトン、酢酸(さくさん)など、いずれも弱いながらも臭い成分で、それらで生理的講習は構成されています。


生理的口臭は、1日の中で強さが変化します。朝起きた時の口臭は、寝ている間に唾液の分泌が減少するため、口の中の細菌が増え、口臭が強くなります。


食事をすると、かむことや、舌の動きにより唾液が出やすくなり、口の中に残った食べ物の汚れを洗い流す浄化作用が働きます。そのため、口臭対策の最初のステップは「朝食を食べること」です。


ブラッシングは、唾液の分泌を促進し、細菌の集合体であるプラークを除去することができます。しかし、ブラッシングが不十分で食べかすをが残ると、口臭が強くなる場合があります。


口臭強度の日内変動

このように、生理的口臭は、時間によって変化する特徴があります。口臭の変化を確認するために口臭検査を利用する場合は、対策前検査と対策後検査の時刻をなるべく合わせることが大切です。そうしないと、比較が難しくなることがあります。


2 . 真性口臭症-病的口臭


歯周病や糖尿病、副鼻腔炎などの全身的な病気が原因である口臭を指します。子どもの場合、真性口臭症(生理的&病的口臭)が発生することは少ないです。


3 . 仮性口臭症


社会的に問題になるほどの口臭がないにもかかわらず、自分自身が口臭があると悩んでいる状態です。口臭を過剰に意識しすぎて、社会生活や対人関係に支障をきたすこともあります。この場合は、歯科医院での口臭検査をおすすめします。


4 . 口臭恐怖症


真性口臭症、仮性口臭症の治療を受けても改善がみられない状態です。治療には、歯科医療だけではなく、心療内科等と医療連携が必要とされる場合もあります。


口臭の原因や発生場所は?


1. 口


歯周病によって膿が出ることが主な発生源ですが、入れ歯の汚れやむし歯など原因は多いです。子どもの場合はお口の中のケアが十分でない場合、多量のプラークやそれに伴う歯肉炎からも臭うことがあります。


プラークが少ないのに口臭がある場合には精神的な緊張によって唾液の分泌が少なくなり、お口の中の消臭機能が低下している場合があります。


2. のど


子どもに多いのが、のどの扁桃腺が腫れて大きくなり膿が出ることによるもので。口呼吸が要因として考えられます。


3. 体


口の中以外で口臭の原因となるのが、腎臓の炎症によるアンモニア臭や、肝臓の炎症による胆汁臭、副鼻腔炎などです。


子どもの場合は頻度からするとワキなどの菌が繁殖した体臭が多いと考えられます。体臭は口臭ではないですが、体臭を本人が口臭と錯覚してしまうことがあります。


4. 食べ物


ニンニクは口臭成分である有機硫化物のアリルサルファイトが血中にたまり、肺からガスとして出て口臭となります。ニラやネギにも弱いながら同様の成分が含まれています。


意外かもしれませんが、ビタミンB1にも硫黄が含まれているため、臭いとして検知されることがあります。


5. 心理面


嗅覚過敏


嗅覚は10代、男性より女性の方が高くなりやすいです。その結果、わずかな臭いでも検知できることになり、生理的に問題ない臭いでも口臭として検知されやすくなります。


10代は思春期でもあるため、友達のふとした態度等や新型コロナウイルス感染症によって、マスク着用機会が増え、マスク越しに自分の吐いた息を鼻で感じる機会が増えたことから気にしてしまい悩んでしまうこともあります。


低い自己評価や対人恐怖


トラウマから自己評価が低くなり、他者からどう見られているかを常に意識し、時に対人恐怖を抱く方もいらっしゃいます。相手の様子や態度から推察しようと周りの顔色を伺うことが状態化し、自分に口臭があるのではないかと思い込んでしまうことがあります。


 3つの臭いの成分とは?


口臭の臭気成分というと、「硫化水素」「メチルメルカプタン」「ジメチルサルファイド」の3種類を指すことが多く、この3種類の臭気成分はいずれも分子内に硫黄を含むことから、VSC(Volatile Sulfide Compound=揮発性硫黄化合物)と呼ばれます。


口臭原因物質

これらが混じり合って「ドブのような臭い」「おならのような臭い」などともいわれています。


1 . 硫化水素(卵が腐ったような臭い)


生理的口臭で一般的な口臭物質です。

臭いの特徴としては、卵が腐ったような臭いがします。


東京都内の学校に通う高校3年生474名を対象にした調査では、口臭が検出された学生は全体の39.6%で、「朝食を食べない」「多量のプラークが付着」「舌苔の付着」が口臭と関連していることが報告されています。


生理的口臭の原因は「お口の中の乾燥」「舌苔(ぜったい)」の2つです。


舌苔とは、舌の上に付着する灰色がかった白または茶色のコケのようなものです。細菌と粘膜のはがれた部分、白血球、食べカスが混ざってできています。6歳以上から薄くみられることがありますが、「唾液が少ない」「脱水」が原因で厚くなることがあります。


舌苔
舌苔(ぜったい) 舌の上部が黄色くなっています

2 . メチルメルカプタン(野菜が腐ったような臭い)


メチルメルカプタンという物質は、野菜が腐ったような臭いを発生する、硫化水素よりも強い臭気を出す物質です。メチルメルカプタンは「毒物及び劇物取締法」という法律では毒物指定されており、毒性は青酸ガスに匹敵するといわれています。


歯周病菌はこのメチルメルカプタンを発生させます。歯周病菌が粘膜のタンパク質を分解しメチルメルカプタンを発生させ、それが唾液に溶けます。それによって吐いた息に臭気が含まれ口臭を発生させます。


歯周病になっていると、健康な場合と比べて3.16倍口臭があるという検証結果もあります。


歯周病が原因の口臭が大変なのは、「口臭が一時的なものでなく常に発生し続けていること」「毒性があるので歯ぐきだけでなく人体にも悪い影響が出る恐れがあること」です。


この口臭を改善させるためには、普段の歯みがきだけでなく、歯科医院での歯周病の治療が大切です。


3 . ジメチルサルファイド(生ごみのような臭い)


ジメチルサルファイドは、全身の病気によって生じる、生ごみのような臭いを発する口臭物質です。


歯科医院での口臭検査は?


1. カウンセリングシートに記入する


「口臭を意識しはじめた時期やきっかけ」「口臭によって困っていること」「相談できる人が身近にいるか」などを記載していただくことによって不安の要因を確認していきます。


カウンセリングシート

2. 口臭測定


先程ご説明したように、口臭は揮発性硫黄化合物を含む臭気成分が主な原因です。以前までは、袋に息をためて検査する人が嗅ぐという方法がありましたが、2020年の新型コロナウイルス感染症を機に機械による測定が主体となっています。


歯科用口臭測定器
歯科用口臭測定器

3. 細菌検査


舌や唾液、プラークの細菌数やどのような種類の細菌がいるかを調べる細菌検査を行う場合があります。特に歯周病菌が多く検出された場合、口臭治療として歯周治療とホームケアの徹底が大切です。また、特定の菌が舌から検出された場合、舌の表面に付着している細菌が口臭の原因となることがあります。


4.唾液検査


唾液の出る量が少ないと口臭が強くなります。そのため「唾液の量がどのくらい出ているのか?」「基準より多いのか?少ないのか?」を知ることは口臭の原因を探る上で大切です。


マウスウォッシュ(洗口液)は口臭対策になるの?


マウスウォッシュはその中の抗菌剤で細菌を抑えようという意図があります。しかし、マウスウォッシュだけで、細菌の集合体であるプラークを除去することはできません。


つまり、マウスウォッシュは、歯みがきによってプラークが取り除かれた後に使用することで、効果的な口臭対策につながると考えられます。


歯だけじゃない!舌のお掃除忘れていませんか?


舌苔は「細菌の温床」ともよばれており、様々な細菌の安息の場となっています。


舌が細菌の溜まり場になっているのに、歯ブラシで歯のケアはしても舌の清掃はしていない人は多いのが実情です。


平成28年の歯科疾患実態調査によると、日本では約5人に1人しか舌のお掃除をしていないことがわかっています。詳細として、男性では16.6%、女性では22.3%が舌の清掃を行なっていると回答しています。


舌の清掃を行なっている者の割合
平成28年歯科疾患実態調査のグラフより抜粋


舌みがきをする場合は、幅が広く毛先が柔らかい「舌ブラシ」を使用していただくことをおすすめします。歯ブラシで行うことも可能ですが、舌はとてもデリケートなので「歯ブラシの硬さや当たる面積の小ささ等」で傷つけてしまうことがあります。


舌ブラシの正しい使い方としては、以下のような方法が推奨されています。


1 . 舌苔の多い「起きた時」に使用する

2 . 舌の奥から手前方向に一方向に優しく動かす

3 . 水にぬらした状態で使用する

4 . 使用後はきちんと洗い、乾燥させた状態で保管する

5 . 舌苔がついていない場合には無理して使用しない


舌ブラシ
舌ブラシ 舌苔をやさしく取り除きます

舌みがきのメリットは口臭予防だけではありません。味覚にも良い影響を与えます。


食べ物や飲み物の味は、主に舌の味蕾(みらい)という部分で感じとります。しかし舌苔が厚く付着すると味蕾の部分を覆ってしまいます。


覆われてしまった部分は味が感じにくくなるため、「味が濃いものを求めがち」になります。そこで舌苔を取り除くことで、本来の味覚を取り戻すことができる可能性があります。


舌の味蕾がある場所

また、舌に舌苔を溜めないことも大切です。柔らかいものに偏ったり、早食いなどは口をあまり動かさないため、舌の活動も少なく舌苔がたまりやすくなります。食事をよく噛んで食べることで舌も一緒に動かしていきましょう。また、舌を動かすトレーニング等もおすすめです。

 

まとめ


1. 細菌がタンパク質を原料に作ったガスが口臭の元であり、ガスには「硫化水素」「メチルメルカプタン」「ジメチルサルファイド」の3種類がある。


2. 生理的口臭の原因には「お口の中の乾燥」と「舌苔」がある。


3. 歯周病が原因の口臭は臭いが強く、毒性もあるので、ブラッシングだけでなく歯科医院での歯周治療も大切。


4. 洗口液は歯みがきの代わりになることはできないが、歯みがきの効果を長持ちさせる可能性はある。


5. 口臭の対策として舌みがきをおすすめするが、歯ブラシではなく舌ブラシで適切に使用することが望ましい。


 


この記事を書いた人


菊川市の歯医者かわべしげつぐ

かわべ歯科 歯科医師 川邉滋次


舌ブラシを使用した後は水でしっかり洗い乾燥させて保管してください。舌ブラシも歯ブラシ同様、長期間使用すると汚れが溜まってしまうため、1ヶ月以内には新しい舌ブラシに交換することをお勧めします。


 

参考文献


1 . Club Sunstar. 9割以上が…?!アンケートでわかった無意識"スメハラ"の真実.2019 .https://www.club-sunstar.jp/article/column/oral/2265/


2. 宮崎秀夫.口臭症分類の試みとその治療必要性. 新潟歯誌;29: 11-15, 1999.


3. Yokoyama, Sayaka, et al. "Oral malodor and related factors in Japanese senior high school students." Journal of School Health 80.7 (2010): 346-352.


4. Shinada, Kayoko, et al. "Effects of a mouthwash with chlorine dioxide on oral malodor and salivary bacteria: a randomized placebo-controlled 7-day trial." Trials 11.1 (2010): 1-11.


5. Silva, Manuela F., et al. "Is periodontitis associated with halitosis? A systematic review and meta‐regression analysis." Journal of clinical periodontology 44.10 (2017): 1003-1009.


6. 厚生労働省. 平成28年歯科疾患実態調査. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html


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