はじめに-子どもの歯ぎしりで悩んでいる親御さんたちへ
子どもの歯ぎしりは、睡眠中に起こることが多く、保護者や兄弟がその音に気づくケースがほとんどです。そのため、保護者の方が歯ぎしりの音を心配し、専門家に相談することも少なくありません。実際に、子どもの歯ぎしりを巡って、保護者がストレスからお子さんに厳しく接してしまったり、最悪の場合、事件に発展したニュースも先日報じられていました。このような状況は、社会的な問題としても注目されています。

歯ぎしり(グラインディング)は「ブラキシズム」とよばれる習癖の1つです。このブラキシズムは「無意識にしているかみしめや歯ぎしり」のことです。
ブラキシズムは、上下歯列接触癖(じょうげしれつせっしょくへき=通称TCH)、タッピング、クレンチング、グラインディングの4種類あります。詳しくは以下の画像を参照してください。


このブラキシズムは、起きている時に起こる「日中ブラキシズム」と、寝ている時に起こる「睡眠時ブラキシズム」があり、寝ている時に比較的多くみられるのが歯ぎしり(グラインディング)です。
今回は子どもの歯ぎしりについて、症状と対策をまとめてみました。子どもの歯ぎしりで悩んでいる保護者の方に少しでも参考にしていただけると幸いです。
▼目次
子どもは大人よりも歯ぎしりが起きやすい
睡眠中の歯ぎしりの発生率は大人では5〜10%、高齢者は2〜4%ですが、子どもの場合は調査によって大きなバラつきがあるものの、大人や高齢者よりも発生率は高くなっています。
子どもの歯ぎしりに関する調査では、
日本人の子どもの睡眠時のブラキシズムは21.0%に認められ、5~7歳で27.4%と最も多かった。
と報告されています。つまり子どもの歯ぎしりは「約20%」と意外と多いです。ちなみに子ども・大人とも性別によって歯ぎしりの発生率に差はありません。
歯ぎしりは1歳未満から発生することもある
1歳未満でも「乳前歯」という乳歯で最初に生えてくる歯が生えてきた直後に始まることもあります。ほとんどが3歳半から始まり、6歳がピークとなります。その後多くは自然に歯ぎしりが解消されていきます。

子どもの歯ぎしりの原因は?
睡眠は浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)を繰り返していますが、深い眠りから浅い眠りに変わる時に歯ぎしりが起こりやすいといわれています。

しかし、歯ぎしりは原因がはっきりとわかっていないのが現状です。
子どもの歯ぎしりの危険性が高いと考えられるものとして、
1. かみ合わせの異常
2. 口呼吸などの口腔習癖
3. 歯の生え変わりのタイミング
4. 心理的な問題(不安やストレス)
5. 睡眠障害(不眠症や睡眠時無呼吸症候群)
6. 全身の問題(てんかん、ダウン症、脳性まひなど)
7. 遺伝(歯ぎしり自覚者の家族に50%の歯ぎしり自覚あり)
が挙げられます。
歯ぎしりは幼児〜小学生の期間で悪い影響があるの?
歯ぎしりが起こると
1. 歯がすり減る
2. 治療済みのつめ物が取れる
3. 歯が削れるためかみ合わせが不安定になる
4. 歯の表面にひびが入る、欠ける
5. 乳歯が予定よりも早く抜けてしまう
6. 冷たいものがしみる
などのお口の中のトラブルにつながる場合があります。
アメリカ小児歯科学会(AAPD)の診療ガイドラインでも
歯および歯槽骨に力を加える可能性のある指しゃぶり、ブラキシズム(歯ぎしり)についてのカウンセリングを行います。不正咬合や骨格形成不全が生じる前にこれらの習慣から乳幼児を離すことについて話し合うことが大切。
と述べています。
歯ぎしりで症状が長期間続く場合や、以下のような問題があれば早めに歯科医院に相談をした方が良いと考えられます。
頭痛
耳の痛み(中耳炎と間違われやすいです)
あごが開かない
睡眠障害
小児の歯ぎしりの歯科での治療方法は?
健康な子どもでも寝ている時に歯ぎしりをすることがあります。自覚症状がない歯ぎしりについては、6歳をピークに自然に消退することがあるため、経過を見守っていくことがあります。
歯の欠けやすり減りなどがある場合には、
歯の修復を行う
ナイトガード(マウスピース)を装着してもらい歯の当たりを軽減する
という方法があります。
ナイトガードは、あごの痛みや日中の眠気等を改善する可能性もあります。子どもの場合は、歯の生え変わりや、あごの成長等もあり変化しやすいため、型取りをしてナイトガードを作成するよりも既製のマウスピースを使用することが多いです。
当院では小児の歯並び治療で使用する矯正装置を、ナイトガード兼用として使用することもあります。

「かみ合わせの異常」「口呼吸・鼻づまり」がある場合には、原因をカウンセリングや検査で特定した後に矯正治療や筋機能訓練等で解消を目指していきます。
また歯ぎしりはOSAS(閉塞性無呼吸症候群)との関連性もあるため、この場合は上記の治療をしても症状の改善ができない場合があります。そのため、睡眠外来のある大学病院等で睡眠の検査・睡眠時ポリグラフ検査(PSG検査=睡眠時無呼吸の検査)をして原因を明らかにしていくこともあります。

他にも歯ぎしりや食いしばりの原因として、「夜間低血糖」があります。寝る前に糖質の多い食事をとると食後に上がった血糖値が睡眠中に一気に下がります。下がった血糖値を回復させようとしてアドレナリンなどのホルモンが出るため、また一気に血糖値が上がり、ジェットコースターのような血糖値の乱高下が起こります。
これがストレスになり交感神経(興奮モード)が強くなり、歯ぎしりや食いしばりの原因になることがあります。
そのため食事や生活へのアドバイスとして当院では、
普段の食事やおやつをタンパク質を多めにし、日中の水分補給にスポーツドリンクや炭酸ジュースなどの清涼飲料水を避け、できるだけお水や麦茶などにする。(食生活の改善)
寝る時間の2〜3時間前には夕食を済ませておく。(特に寝る直前にお菓子やジュースを与えるのはNG)
普段のストレスの原因で改善できるものがあるかカウンセリングする。
テレビやタブレット、スマートフォンの長時間視聴は光刺激が強いため時間を決める。
などを指導しています。
まとめ
1. 子どもの歯ぎしりの発生率は成人や高齢者と比較して高い。
2. 子どもの歯ぎしりは3歳半から始まり、6歳がピークとなる。1歳未満でみられるケースもある。
3. 歯ぎしりは「多因子性」といわれ、原因がはっきりとわかっていない。
4. 歯ぎしりはお口の中で悪影響を起こすことがある。頭痛やあごの関節等に波及することもある。
5. 歯ぎしりの治療としては「経過観察」「歯の修復」「ナイトガード」「矯正治療」「筋機能訓練」「食生活のアドバイス」などがある。閉塞性無呼吸症候群が疑われる場合は医科との連携が大切。
この記事を書いた人

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. Tachibana, M., et al. "Associations of sleep bruxism with age, sleep apnea, and daytime problematic behaviors in children." Oral diseases 22.6 (2016): 557-565.
2. Insana, Salvatore P., et al. "Community based study of sleep bruxism during early childhood." Sleep medicine 14.2 (2013): 183-188.
3. Vieira-Andrade, Raquel G., et al. "Prevalence of sleep bruxism and associated factors in preschool children." Pediatric dentistry36.1 (2014): 46-50.
4. The American Academy of Pediatric Dentistry (AAPD): Guideline on Perinatal and Infant Oral Health Care. CLINICAL GUIDELINES, 2016: 135-140.
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