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執筆者の写真歯科医師 川邉滋次

歯並びを悪化させる恐れのある指しゃぶり:歯科医師が教える対策法

はじめに-歯並びと指しゃぶり


指しゃぶり対策

あごの形や歯並びをゆがめる「うっかりやってしまう悪い動作」のことを、口腔習癖(こうくうしゅうへき)といいます。


その中でも指しゃぶりは最も発生頻度が高く、「下の歯並びがガタガタ(叢生)」「上下の歯がかみ合わない(開咬)」「前歯の突出(出っ歯)」「奥歯の噛み合わせが逆(交叉咬合)」などの歯並びやかみ合わせの異常を起こすことがあります。


口呼吸が原因となる不正咬合

今回は「指しゃぶりが歯並びを悪くする理由」や、「年齢別・子どもの指しゃぶり対策」について紹介しています。この記事がお子様の指しゃぶりが気になる保護者の方に参考にしていただけたら幸いです。


▼目次


 

指しゃぶりが歯並びを悪くする理由


指しゃぶりは親指のイメージが強いですが、親指以外にも人差し指やその他数本の指で行うことがあります。単に「口に指を入れる」「しゃぶる」というイメージがありますが、実際は「指を軽くかむ」「強く吸う」ことが多いです。しゃぶる指の種類や、時間、吸引の強さによって個人差は出ますが、次のような「あごや歯並び、かみ合わせへの影響」があります。


1 . 前歯を押し付ける


指しゃぶりで前歯が出る理由
指しゃぶりで前歯が出る理由

親指を使った指しゃぶりは上のあごと上の前歯が前方向に押されます。押される回数が1回2回であれば問題にならないのですが、クセになっているためこの圧力が頻繁に発生します。その結果あごや前歯が突き出てしまい、出っ歯をつくってしまいます。


また圧の加える方向によって、上下の歯と歯の間にすき間ができてしまう、歯並びの中央位置がずれてしまうことがあります。


2 . 上あごがせまくなる


指を強く吸うことで外側から圧力がかかり、上のあごの幅が狭くなります。狭くなった歯列は、V字のような前歯部分がすぼんだような形になってしまいます。


V字歯列弓

3 . 上くちびるのめくれ・お口ポカン


指しゃぶりをする子どもは、口がポカンと開いてしまうことが多いです。口が開いた状態では口呼吸のクセがつきやすく、結果として上の唇のしまりがなくなり、めくれてしまいます。


お口ポカン
お口ポカン

生まれてから2歳までの指しゃぶりはやめる理由はない


赤ちゃんには口に近づいた物を吸う「吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)」という原始反射(生まれつき備わっている反射)があります。


指しゃぶりは乳幼児に一般にみられ、不安や緊張を抑える効果があるといわれています。手の動きが活発になる生後2ヶ月頃から目にする機会が増えますが、実は生まれる前(胎生7ヶ月頃)から母親のお腹の中で指しゃぶりをしていることが明らかになっています。


また、赤ちゃんの指しゃぶりは口の機能発達にとって非常に大切です。特に生後12ヶ月頃までに指や色々な物をしゃぶるのは、目で見て手を動かし、味や形を覚えて動きを協調させるための必要な行為と考えられています。この時期の指しゃぶりは、眠い時、不安な時、退屈な時、お腹が空いた時などにすると言われています。


1歳半〜2歳で指しゃぶりはピークとなりますが、この時期は「お口の機能を高めるために意味のある生理的行為」と考えられています。また「ハンドリガード」とよばれる自分の手を見つめることで認知の発達につながるため、無理にやめさせる理由はありません。


指しゃぶりする乳児

この時期、将来指しゃぶりが習慣化しないようにするための対策としては、以下の方法があります。


1 . 授乳は時間をかけて乳児が満足するまで抱く。


2 . 哺乳瓶を使用するときは飲み口の穴が大きくないものを選び、乳児が時間をかけて飲むことで唇の運動を積極的にさせる。


3 . 生後6ヶ月までは離乳をさせない。(早すぎる離乳は指しゃぶりの原因になる恐れ)


 4歳には指しゃぶりをやめさせてほしい理由と対策


指しゃぶりは夢中で遊んだり手や口を使う機会が増えてくると減っていきます、指しゃぶりをやめさせる時期として4歳を目安に指しゃぶりをやめさせることをおすすめします。


2歳を過ぎても指しゃぶりが続いていると、歯列やあごの骨に影響を及ぼします。しかし、

3歳を過ぎると次第に指しゃぶりは減少していきます。そのため、指しゃぶりの頻度や強さにもよりますが、一時的に歯並びやかみ合わせの異常が起きても、4歳にやめられたら、その後の成長とともに改善してくることが多いです。


この時期に歯並びが乱れたり、指にたこができるほど強く吸っている場合には、それ以上クセにならないようにお子様に合った対策を始めていきましょう。また、爪噛みや舌の突出などの他のクセに移行しないようにすることも大切です。


以下は当院で保護者の方にアドバイスさせていただいた一例です。


1.子どもに自信を持たせるような声かけをする


「指を吸ってるとカッコ悪くなるよ」というマイナス言葉よりも、「指を吸わない〇〇くん、かっこいいね!」「〇〇ちゃん、指しゃぶりやめたらお姉さんみたいだね!」というプラスの言葉をかけてあげてください。自信を持たせると子どもは成長していきます。


2. 親子で一緒に手を使う遊びを取り入れる


お絵描きやぬり絵、ハンドスピナー、プッシュポム(プチプチのおもちゃ)など手を使う遊びを親子で一緒に行うことで、指しゃぶりの機会を少なくする方法があります。


プッシュポム
プッシュポム

3. 体をいっぱい動かす・体をいっぱい動かす


先程夢中で遊ぶ・手や口を使うと指しゃぶりが減っていくと説明しましたが、ぼーっとしている暇な時についつい指しゃぶりをしてしまうことが多いため、その時間が少なくなるように「いっぱい体を動かすこと」や「夢中になること」で指しゃぶりをしてしまう機会を自然に減らすことは良いと考えられます。


外で遊ぶ少年

4. 寝付くまでは手をつなぐ


お子様が眠くなってしまった時に優しく握ってあげることで、愛情表現で安心感を与えながら指を口に入れないようにする方法です。


手をつなぐ

5. 手袋や靴下を手にはめる


手袋や指にテーピングをして指しゃぶりが難しい環境にするのも1つの方法です。新幹線が好きな男の子には新幹線の手袋がなかなか見つからなかったため、新幹線の靴下をあえて手にはめてもらいながら楽しんでもらったこともあります。指人形をつくり、子どもと遊びながら指しゃぶりをやめるように伝えるのも良いです。


幼児用の手袋

6.指しゃぶりに関する絵本を読む 指しゃぶりに関する絵本を読む


指しゃぶりの本を何度も読み聞かせをすることで、子どもが内容を記憶し、「指しゃぶりはいけない」と自分自身で気づく可能性があります。


7. 指しゃぶりを防ぐためのマニキュア(非推奨)


安息香酸デナトニウムという苦味成分を使用した指しゃぶり専用のマニキュアが販売されています。なめると苦いので「もう同じ経験をしたくない」と思わせ、指しゃぶりをやめさせようという狙いですが、少し強引な方法ですので他の方法と比べると当院ではお勧めしない方法です。


指を咥える子ども

4歳以降の指しゃぶりは子どもの気持ちを理解することが大切


4歳を過ぎても指しゃぶりが続いてしまう場合、より積極的な対応が必要になります。


指しゃぶりは心理的な問題で起こることもあるため、保護者の方だけでなく周囲が子どもと向き合って、幼稚園や保育園、お家での心の不安を解消させていくことが大切です。


無理にやめさせたことで別な好ましくない行動、例えば自分の髪の毛をかきむしって抜いてしまうような、代わりの行動を引き起こすことがあるため、注意が必要です。


ときには、児童心理の専門家にも相談をし、要因を解決するための心理療法を行うことも1つの方法です。


お家でのケアとして、焦らずにお子様の気持ちを理解してあげてください。指しゃぶりを怒らず、無理にやめさせず、「指しゃぶりをしなかった時間」をほめてあげてください。


指を咥える子ども

「指しゃぶりしちゃダメ!」「指をくわえないでって注意したでしょ?」などの禁止言葉はNGです。精神的な理由の場合より悪化する場合があります。「口から手を離すとかっこいいお口になるよね」などやめた時のメリットについてお子様とお話ししてください。


叱るのではなく、保護者の方がお子さんとの触れ合いを増やし、お子さんが安心して何かに夢中になれる環境をつくってあげることが大切です。


もし歯並びに影響が出てしまった場合は、かかりつけの歯科医院に相談してください。または子どもの歯科矯正治療を行なっている歯科医院に相談するのも1つの方法です。


おしゃぶりは使用した方がいいの?


おしゃぶりは育児において便利な道具です。赤ちゃんの気持ちを落ち着かせる、眠りやすくさせる、指しゃぶりを防ぐ、鼻呼吸やお口周りの周囲筋の発達を促し、あごの成長を期待することで使用されています。


おしゃぶり

しかし、このおしゃぶりに関しては意見が分かれているのが現状です。


例えば、世界保健機関(WHO)では「母乳育児を行っている乳児には、人工乳首やおしゃぶりの使用を避ける」ことを推奨しています。


一方、アメリカ小児科学会は「寝ている時の窒息防止のために乳児期におしゃぶりの使用」を推奨しています。


小児歯科に携わる私の見解としては、0歳児にはメリットはありますが、1歳以降は歯並びに悪い影響を起こすことがあります。1歳は言葉の発達のためにも大事な時期なので、口をふさぐおしゃぶりはあまり望ましいものではありません。早めにやめていくべきだと考えています。


 

まとめ


1. 指しゃぶりが歯並びなどに影響する理由として、「前歯の押し付け」「上あごを狭くする」「口呼吸になりやすい」がある。


2. 1歳半〜2歳で指しゃぶりはピークとなるが、生理的行為であり、認知の発達につながるため、無理にやめさせる理由はない。


3. 4歳までには指しゃぶりをやめさせることが望ましい。


4. 4歳以降の指しゃぶりは心理的な問題で起こることもあるため、保護者の方だけでなく周囲が子どもと向き合って、幼稚園や保育園、お家での心の不安を解消させていくことが大切。


 

この記事を書いた人


矯正・歯並びの歯科医師

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


 

参考文献


1. 山口秀晴,大野粛英,橋本律子:はじめる・深めるMFT お口の筋トレ実践ガイド.株式会社デンタルダイヤモンド社,2016.


2. 大野粛英:指しゃぶり 基礎から指導の実際.わかば出版,2003.


3. Task Force on Sudden Infant Death Syndrome. "SIDS and other sleep-related infant deaths: updated 2016 recommendations for a safe infant sleeping environment." Pediatrics 138.5 (2016): e20162938.


4. 井上美津子. 指しゃぶり おしゃぶり Q &A 発育に合わせた対応を考えよう. 医学情報社, 2012


5. 日本小児歯科学会ホームページ. 学会からの提言. おしゃぶりについての考え方 指しゃぶりについての考え方. 2006.





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