はじめに-かみ合わせが深い過蓋咬合(かがいこうごう)
上下の歯をしっかりとかみ合わせたとき、前歯のかみ合わせが深くなり、下の前歯が隠れて上の前歯が目立ってしまう状態を歯科用語で「過蓋咬合(かがいこうごう)」と呼びます。このかみ合わせの特徴は、「乳歯だけの時期」「永久歯が生え変わっていく時期」「永久歯が生えそろった時期」の各時期に見られることがあります。
上下の前歯の重なり具合を評価する際に、「オーバーバイト(深さ)」と「オーバージェット(奥行き)」という二つの指標が使用されます。過蓋咬合は、オーバーバイト(深さ)が大きい状態を指します。対照的に、オーバージェット(奥行き)が大きい場合は、それが「上顎前突」、すなわち出っ歯の状態を意味します。
この深さの方が乳歯・永久歯どちらも下の前歯の隠れた部分が長さの3分の2以上である場合に過蓋咬合と診断されます。かぶり方が大きいと、正面からは下の前歯が上の前歯に完全に隠れてしまって見えにくくなる場合もあります。
この記事では、過蓋咬合の原因とその対策について詳しく解説します。歯並びやかみ合わせに関する悩みを抱えている方々にとって、この内容が参考になればと思います。
▼目次
過蓋咬合の原因は?
1. くいしばり
くいしばりとは、歯をかみしめ続けてしまう状態です。
寝ている時だけでなく日中でも無意識にしてしまうことが多いという特徴があります。
くいしばりは、子どもの生活の変化(入園・入学・受験)によるストレスとも関係していると考えられています。歯に無理な力を長期間かけ続けると、かみ合わせの高さが低くなり、前歯が深くかぶってしまうことがあります。
2. ほおづえ・うつぶせ寝
ほおづえやうつぶせ寝は、あごに非常に強い力がかかります。これによって、上下のあごのゆがみや歯列のゆがみを短期間で引き起こされることがあります。また、下あごを過度に押しつけることによって、くいしばりと似た状態となる場合もあります。
3. 唇をかむ
唇をかむことによって、上下の前歯にそれぞれ圧力がかかります。この圧力によって、上の前歯が前方へ押し出され、下の前歯が後ろに倒れてしまいます。その結果、上下の歯の隙間が大きくなり、さらに唇が入りやすくなります。
4. 口呼吸
口呼吸をすることで、口の周りの筋肉が弱くなってしまいます。そのため、口を閉じるためにその下にあるオトガイ筋を使うことになります。オトガイ筋を長期間使い続けることで、下あごのの成長が抑えられ、下あごが前へ成長しにくくなります。
5. 先天性欠損歯
下の前歯の本数が生まれつき少なく隙間がない歯列の場合、上の歯列よりも下の歯列が大幅に小さくなるため過蓋咬合になる場合があります。
過蓋咬合を放っておくと危険な3つの理由
1. 下の前歯が内向きに倒れ歯が重なる
過蓋咬合は、かみ合わせの力の影響を大きく受けます。特に下の前歯は上の前歯と比べて小さいため、かみ合わせの力が後方にかかり、下の前歯が後ろに傾いてしまいます。そのため、下あごの歯列が狭くなり、歯が重なりやすくなります。
2. 下の前歯が上あごの歯ぐきに突き刺さってしまう。
過蓋咬合が強い場合、下の前歯は上の前歯ではなく、その後方部分の歯ぐきにぶつかってしまう場合があります。突き刺さった部分の歯ぐきは下の前歯の跡がついていることもあります。
3. 下あごの骨の大きさ・形・位置の異常につながることも
上のあごに対して下のあごの大きさや形、位置の異常によって過蓋咬合が発生する場合があります。この診断には「セファログラム」とよばれる矯正用のレントゲン検査が必要です。
かみ合わせが深い状態を放っておくと、あごの骨の成長が制限されてしまい、顔つきや歯並びに悪影響を与えてしまうことがあります。
当院の歯科矯正治療(過蓋咬合)
乳歯だけの歯並びの時期(乳歯列期)は、骨格異常や奥歯の位置関係に異常がある場合に矯正治療を開始することがあります。
乳歯から永久歯に生え変わっていく時期(混合歯列期)には、何もしないで自然に過蓋咬合が解消していくことは難しいため、矯正治療の対象となります。
過蓋咬合の小児矯正として、「あごの骨の成長を利用し奥歯のかみ合わせを上げる」「下のあごを前に成長させる」ことを目標としていきます。まず、過蓋咬合の原因を特定するための検査やカウンセリングをします。その後、原因を取り除くためのトレーニングを行って、奥歯のかみ合わせを上げて前歯のかぶりを減少させていきます。
過度にかみ合わせが深い場合は、「奥歯の咬み合わせ部分に樹脂素材を足す」「奥歯のかみ合わせを上げる装置を入れる」方法があります。
ただし、レントゲンなどの検査により、骨格の成長に大きな問題がみられる場合には口腔外科を含む成人矯正をおすすめする場合があります。
まとめ
1. 過蓋咬合とは、上下の前歯のかみ合わせが深くなり、上の前歯が目立つ状態である。
2. 過蓋咬合は、乳歯列期、混合歯列期、永久歯列期の、どの時期でもみられる。
3. 過蓋咬合の原因は、くいしばり、ほおづえ、うつ伏せ寝、唇をかむ、口呼吸などがある。
4. 過蓋咬合の特徴として、下の前歯が内向きに倒れ、上あごの歯ぐきに突き刺さったり、奥歯の高さが低くなっていることがある。
5. 幼児から小学生までの治療方法として、過蓋咬合の原因を特定し、矯正装置やトレーニングで奥歯のかみ合わせを高く上げる方法がある。
6. 骨格の成長に問題がある場合、成人矯正が必要になることがある。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 歯科医師 川邉滋次
参考文献
1. Mew J. The cause and cure of malocclusion. Heathfield: John Mew (2013).
2. Manfredini, Daniele, et al. "Bruxism is unlikely to cause damage to the periodontium: findings from a systematic literature assessment." Journal of periodontology 86.4 (2015): 546-555.
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