はじめに-過剰歯とは?
ヒトの歯は種類と本数が決まっていますが、生まれつき歯の数が多い場合や、一定数より歯が多く存在する状態を「過剰歯(かじょうし)」と呼びます。
上あごの歯は親知らずを除いて14本あり、前歯6本、小臼歯4本、大臼歯4本が一定数です。これより多い歯が存在すると過剰歯となります。また、この一定の本数より生まれつき少ない場合は先天性欠損歯(せんてんせいけっそんし)といいます。ただし、過剰歯と先天性欠損歯が同時に起こった症例も存在するためこの場合は本数で判断することができないと考えられます。
過剰歯の原因については不明です。上あごの中心部分に出現することが多く、「正中過剰歯」や「正中歯」とよばれています。
過剰歯は生えるまでは自覚もありませんし、親御さんも未然に発見できる症状ではないため、「急に生えてきた」「レントゲン画像で写ってきた」など偶然発見されることが少なくありません。
今回は過剰歯について、発生や影響、対策についてまとめてみました。わかりやすく説明していますので、ご参考にしていただけたら幸いです。
▼目次
過剰歯はどのくらいの割合で発生するの?
過剰歯の発生頻度は約3%です。男子の方が女子よりも約3倍過剰歯が発生する確率が高いという報告があります。過剰歯がある場合の本数別の内訳は、1本が約70%、2本が約30%で、3本以上はまれです。
過剰歯の形は正常な歯に近いものから、細く小さいものまで様々です。中には円すい型もあるため、歯の形に近いとは限りません。
過剰歯が発生する部位としては、上の前歯の中央部分が最も多く、他は上あごの親知らず、下あごでは小臼歯と呼ばれる中間の歯の近くもあります。
過剰歯は自然に生えてくるの?
過剰歯は生えてくるタイプと、あごの骨の中で埋もれているタイプがあります。
過剰歯が生えてきた場合、歯列に収まる可能性が非常に少なく、歯と歯が重なるなど歯並びやかみ合わせに影響するため、早めに抜歯することをお勧めします。
あごの骨の中で埋もれている場合、「歯の頭の部分がどの方向を向いているか」が自然に生えてくるかどうかの判別となります。過剰歯の頭の部分が他の正常な歯と同じ向きであると「順生過剰歯」と呼び、逆に遠ざかる向きならば「逆生過剰歯」といいます。この順生と逆生の出現は半数ずつと言われています。
順生過剰歯の多くは、そのまま生えてくることも多いため、生えてくるのを待って抜歯することが一般的です。
逆生過剰歯の場合、自然に生えることはほとんど期待できません。時間の経過と共に、鼻の方向へ深い位置に潜り込んでいくこともあり、遅れると抜歯が難しくなることもあります。永久歯に悪い影響を与えてしまっている場合は、歯科大学病院や口腔外科のある病院で抜歯することをお勧めします。
ただし、歯並びなどへの影響がなく、過剰歯が鼻部分に到達していない場合は抜歯せずに、定期的なレントゲンを撮影し、過剰歯の経過を見守っていくこともあります。
過剰歯は出てこなければ問題ないの?
では、あごの中に過剰歯が埋まったままであれば、放っておいても今後問題ないのでしょうか?答えはNOです。あごの中に埋まったままの過剰歯は以下のような悪影響を及ぼすこともあります。
1. 近くの永久歯の進行方向に存在すると、「生えること」を妨害してしまう。
2. 過剰歯が近くの歯を傾け、押すことで、歯並びが悪くなりかみ合わせが悪くなる原因になる。
3. 歯と歯の間に過剰歯が存在すると、すき間ができてしまい閉じない場合がある。
4. 乳歯の根を吸収してしまい、早く乳歯が脱落してしまう。
5. 鼻の方向に過剰歯が移動し、鼻の中に生える場合がある。
6. ブラッシングが難しい部分があると細菌によって感染を起こすことがある。
埋まった過剰歯は、含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)とよばれる、埋まっている歯を巻き込んで大きくなっていく、袋の形をした病変を起こすことがあります。小学生から中学生の年齢でみられますが、高齢者でもみられることがあります。
含歯性嚢胞は自覚症状がなく、レントゲン写真を撮影して発見されることが多い病変です。
痛みが起こることはあまりなく、ゆっくりと大きくなっていきます。場合によっては細菌感染を起こすことがあり、腫れる場合があります。
このように、埋まっている過剰歯でも将来永久歯に影響を与えることがあるため、歯科医院で定期的にレントゲン撮影をして位置や方向の変化を確認することが大切です。
歯の数が多いかを確認するためにはどうすればいいの?
過剰歯は怪しいと思ってレントゲン撮影をして見つかることももちろんありますが、むし歯等の別件でレントゲン撮影を行い、偶然に見つかることも少なくありません。
過剰歯の存在の有無に関しては、パノラマレントゲンとよばれる全体を撮影する方法で確認できる場合があります。ただし、パノラマレントゲンは2次元での撮影のため、永久歯と重なってしまった場合は、過剰歯が発見しにくくなることがあります。
レントゲンと聞くと、子どもにレントゲンを積極的に撮影して放射線は大丈夫なの?と心配してしまう方もいると思われますので、レントゲンの放射線についても説明します。
私たちは常に日常生活の中で宇宙や大地、食べ物から自然に放射線を受けています。この自然放射線は、生命が地球上に存在するようになってからずっと存在しています。
宇宙から地球に降り注ぐ放射線は大気の厚さや標高によって量は変わります。例えば、山の上では海抜0メートルよりも放射線の量が多くなります。
地球の地殻にはウランなどの放射性物質が含まれており、これらから放射線が放出されます。これには、家の建材や食べ物から放出される放射線も含まれます。食べ物や呼吸から取り入れた放射性物質が体内で放射線を放出することもあります。
自然放射線の量は、地域や環境によって異なりますが、多くの地域での平均的な年間の自然放射線量は約2〜3ミリシーベルト (mSv) という量です
1回のパノラマレントゲン撮影による被曝量は0.02~0.03mSv(ミリシーベルト)です。これは国際線の飛行機に4〜5時間くらい乗るのと同じくらいです。つまり、歯科用レントゲン撮影によって受ける被曝の影響は問題がないことがわかります。
正確な方向や、他の歯に影響を与えているかを調べるためには、歯科用の3次元のレントゲン撮影をおすすめします。
まとめ
1. 本来の数よりも存在する歯のことを過剰歯という。
2. 過剰歯の発生頻度は約3%。
3. 過剰歯は生えてくるものとあごの骨の中に埋まり続けるものがある。
4. あごの骨の中に埋まっている過剰歯が悪影響を起こす場合がある。
5. 永久歯等に悪い影響を与えてしまっている過剰歯は抜歯した方が良い。
6. 過剰歯の有無や方向等を詳しく調べるには3次元のレントゲン撮影がおすすめ。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
過剰歯を取り除いた後、残った永久歯の位置を戻すために歯科矯正が必要な場合があります。
参考文献
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