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乳歯列のすき間について:すき間がない歯並びは正常?歯科医師が解説します

はじめに


乳歯は生まれてから約8ヶ月で下あごの前歯が生え始め、3歳頃までに20本の乳歯が生えそろいます。永久歯に生え変わるまでの乳歯だけの歯列を「乳歯列」と呼びます。この乳歯列の時期にも、開咬、反対咬合、交叉咬合(こうさこうごう)、過蓋咬合(かがいこうごう)などの歯の並びやかみ合わせの異常が見られます。





しかし、「一見良い歯並びに見えながら将来的に歯並び異常を起こす可能性が高い状態」も存在します。その一つが「閉鎖歯列弓(へいさしれつきゅう)」です。


隙間がない乳歯列
画像1:乳歯がきっちりとすき間なく並んでいる

画像1の歯並びは、歯と歯の間に隙間がなく、かみ合わせも正常です。しかし、乳歯だけの時期にこのような歯並びは、将来的に歯の重なりやかみ合わせ異常を引き起こす原因となる恐れがあります。


各所に隙間のある乳歯列
画像2:乳歯の前歯部分にすき間がある

画像2に示されるような歯並びが、乳歯の時期には理想的とされています。歯と歯の間には所々に隙間があります。「食べ物が歯の間に挟まりやすい」という意見もあるかもしれませんが、なぜ乳歯列には隙間がある方が良いのでしょうか?


今回は、「乳歯の隙間について」と「乳歯の隙間がないことによる歯並びへの影響」についてまとめてみました。


▼目次


 

乳歯の歯並びにはすき間がある


永久歯の歯並びでは、すき間が存在するとそれは歯並びの異常とされますが、乳歯列においては、歯と歯の間にすき間があることが正常とされています。


霊長空隙と発育空隙
画像3:霊長空隙と発育空隙

これは歯科関係の教科書などにも記載されており、「霊長空隙(れいちょうくうげき)」と「発育空隙(はついくくうげき)」と呼ばれるものです。ちなみに、霊長空隙や発育空隙がない先ほどの画像1のような歯並びは閉鎖歯列弓(へいさしれつきゅう)と呼ばれます。


霊長空隙は、尖った歯である犬歯の周りに存在するすき間です。


発育空隙は、「霊長空隙以外のすき間」として定義されますが、奥歯の間にはほとんど見られないため、主に前歯の間のすき間を指します。この霊長空隙や発育空隙は、永久歯が生える際に重要な役割を担います。


乳歯と永久歯の幅
画像4:乳歯の根本部分に永久歯がみえている

画像4では、透明な模型で、乳歯の根の先から今後生えてくる永久歯を確認することができます。


上あごの中央にある「乳前歯」と呼ばれる乳歯は、6歳から8歳の頃に抜け始めます。乳前歯が抜けると、その部分から永久歯が生えてきます。乳歯から永久歯への生え変わり時期についての詳細は以下のリンクをご覧ください。


乳歯と永久歯の前歯を比較すると、永久歯は乳歯よりも横幅が広いことが分かります。乳歯の幅だけでは、大人の歯がきれいに生えるのは難しいと言えます。


乳歯と永久歯の大きさの差
画像5:乳歯と永久歯の大きさの差

前歯と前歯の間に適度なすき間がある場合、それは大人の歯が生えるためのスペースを確保していることを意味します。つまり、「霊長空隙」と「発育空隙」という2種類のすき間は、大人の歯が生えるためのスペースとしての役割を果たしています。


すき間がない乳歯列はどのようなデメリットがあるの?


では乳歯列の時に「歯と歯の間にすき間がない」「乳歯が重なっている」場合は、この先放っておくとどうなるでしょうか?


永久歯が生えるためのスペースが不足するため、


1. 傾いた状態で生えてくる

2. 後ろから重なって生える

3. 永久歯が生えくる時期に遅れが出てしまう

4. 永久歯が生えない状態で埋まっている


など、歯の重なりや歯の生える時期の異常などの悪影響が考えられます。


特に乳歯列の時期に乳歯が重なっている場合は、永久歯が生え変わった時の重なりが強くなります。


このすき間がない乳歯列は、幼児の歯科検診の際にチェックする項目はありません。歯ならびやかみ合わせについての項目はありますが、歯の重なりがある場合は指摘されますが、すき間がない状態だけでは正常として扱われることもあります。


すき間のない乳歯列の歯科矯正治療


乳歯列の時期に床矯正装置や急速拡大装置などで拡大装置を使用することは、「奥歯の歯並びが内向きに傾いている」「あごの骨の幅が明らかに狭い」場合を除いては、あまり良い方法とはいえません。


6歳臼歯が生えた時に再度矯正装置を変える場合があるため、幼児や小学生低学年の子どもにとって負担の方が大きいからです。


そのため、原因次第では、筋機能訓練とよばれるお口周りのクセを取り除くためのトレーニングであごの育成をすることが中心となります。


口腔周囲筋のトレーニング
口腔周囲筋のトレーニング

拡大する矯正装置を使用する時期は、永久歯が生え出してくる時期(6歳前後〜)が適切と考えられます。ただし、検査結果で歯の重なりが大きいと判断された場合、後から治療をする「2期治療」と呼ばれる方法がお勧めされることがあります。この場合、永久歯が生えそろってから矯正方法をしていきます。


 

まとめ


1. 正常な乳歯の前歯の歯並びにはすき間がある。


2. 乳歯のすき間は永久歯を生えさせるためのスペースである。


3. すき間がない乳歯列は将来歯並び異常を起こす恐れがある。


4. すき間がない乳歯の歯並びの時は歯科医院に相談をお勧めします。


 

この記事を書いた人


歯科医師の川邉滋次

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 歯科医師 川邉滋次

 

参考文献


1. Proffit著, 高田健治訳: 新版プロフィトの現代歯科矯正学.クインテッセンス出版,2004: 215-219.


2. 日本小児歯科学会: 日本人の乳歯歯冠並びに乳歯列弓の大きさ 乳歯列咬合状態に関する調査研究. 小児歯科学雑誌, 31(3): 375-388, 1993.

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