子供の前歯がガタガタ…原因は「あごの成長」?抜歯を避けるための治療タイミングを矯正に携わる歯科医師が解説
- 歯科医師 川邉滋次

- 5 日前
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▼目次

はじめに-子供の健やかな歯並びのために親ができること
「子供の歯並びが悪い」と聞いたとき、多くの方がイメージするのが、前歯が重なり合ってガタガタしている状態ではないでしょうか。
これを歯科用語で「叢生(そうせい)」と呼びます。札幌市の調査では不正咬合の約47.2%が叢生であり、12歳〜20歳の日本人では4〜5人に1人がこの症状を抱えているというデータもあります。

前歯のガタガタは、見た目だけでなく虫歯のリスクや将来の歯の寿命にも直結します。今回は、なぜ前歯が重なるのか、そして早期治療の重要性について分かりやすく解説します。
歯の重なりは「5〜6歳」から要注意?
永久歯の前歯が生え始める5〜6歳頃にガタガタが目立ち始めます。しかし、実はそれ以前の「乳歯だけの時期」から予兆は現れています。
<乳歯だけの時期に歯と歯の間に「すき間」がない場合は要注意>
乳歯よりも永久歯の方がサイズが大きいため、乳歯だけの時期に隙間がないと、永久歯がきれいに並ぶスペースが足りず、重なって生えてくる可能性が高くなります。
なぜ前歯がガタガタになるのか?(2つの原因)
歯が並びきらずに前後左右にずれてしまう根本的な理由は、「歯の大きさと、あごの広さのアンバランス」にあります。
<アンバランスの2つの原因>
歯に対してあごの骨が小さい→歯をきれいに並べるための「器」が足りない状態です。これは、あごの成長が不十分であるか、あるいは顎に対して歯のサイズが大きいことが原因と考えられます。
乳歯のトラブル→重度のむし歯や乳歯の早期脱落によって隣の歯が移動してしまうと、次に生えてくる永久歯のためのスペースが狭まってしまいます。
あごの成長を妨げる「意外な原因」
遺伝だけでなく、日常の習慣(癖)があごの成長を妨げ、歯並びを悪化させているケースが多く見られます。
原因 | 内容と影響 |
低位舌(ていいぜつ) | 舌の位置が低いと上あごが広がらず、 歯並びが狭くなります。 |
くいしばり | 強い食いしばりが下あごを内側に圧迫し、歯列を狭めます。 |
片かみ | 左右どちらかだけでかむと、 あごの形が左右非対称に歪みます。 |
頬杖や寝方 | 頬杖(ほおづえ)や寝方に偏りがあると、外圧で歯列が歪みます。 |

永久歯を抜かないための「早期矯正」
小児期(特に混合歯列期)であれば、あごの成長をサポートすることで、将来的に永久歯を抜かずに歯並びが改善される可能性が高まります。
<当院の主な治療法>
マイオブレース(マウスピース型)
あごの育成と同時に、口呼吸や舌の癖を改善します。痛みが少なく、自然に近い状態で治療が可能です。
バイオブロック・急速拡大装置

バイオブロック 大きな重なりがある場合、あごの骨ごと拡大してスペースを確保します。これは単に歯を並べるだけでなく、再発防止にもつながります。
<拡大治療には年齢制限があります>
上あごの成長は10代前半でピークを迎えます。それ以降は骨の成長が期待できないため、「抜かない矯正治療」を希望され
る場合は早めのご相談が鍵となります。
矯正治療症例紹介(叢生-歯並びガタガタ)
【症例1】 お子様の「歯がガタガタに生えてきた」という主訴で来院されました。 抜歯をせず、マウスピース型の矯正装置「マイオブレース(K-1)」と、お口周りの筋肉を鍛えるトレーニング(MFT)を併用した症例です。

【症例1の治療の経過】
初診時(左上):下の歯が重なり合い、並ぶスペースが不足しています。
12ヶ月経過(右):装置の装着とトレーニングにより、顎が正しく発達。叢生がほぼ解消されました。
36ヶ月経過(左下): 治療開始から3年。後戻りすることなく、歯並びがしっかりと維持されています。
【症例1のメリットデメリット】
(メリット)
抜歯の可能性を低減:顎の成長を促すため、将来的に永久歯を抜くリスクを減らせます。
根本原因にアプローチ:歯を動かすだけでなく「口呼吸」「舌の癖」「飲み込み方」など、歯並びを悪くする原因自体を改善します。
痛みが少ない:ワイヤー矯正に比べ、締め付けられるような痛みがほとんどありません。
日中1時間+就寝時のみ:学校に装置を持っていく必要がないため、紛失やいじめの心配がありません。
(デメリット・注意点)
本人のやる気が不可欠:毎日装着し、トレーニングを継続する必要があります。
適応年齢がある:混合歯列期(乳歯と永久歯が混ざった時期)が最も効果的で、大人になってからでは骨の成長が止まってしまうため適応できない場合があります。
骨格的な問題には限界がある:あごのズレが非常に大きい場合は、他の矯正方法を併用することがあります。
【症例2】 前歯の重なりと、むし歯を主訴に来院されたお子様の症例です。 マウスピース型装置「マイオブレース(K-1)」と口腔筋機能訓練(トレーニング)を組み合わせて治療を行いました。

【症例2の治療の経過】
初診時(左):前歯が重なって生えており、歯並びのガタガタ(叢生)が見られます。重なっている部分はブラッシングが難しく、一部にむし歯も確認されました。
3ヶ月経過(右):装置の装着とトレーニング開始からわずか3ヶ月。顎のスペースが広がり、重なっていた前歯が並び始め、叢生がほぼ解消されています。
【症例2のメリットデメリット】
(メリット)
短期間で変化を実感しやすい: 適切な時期に開始することで、この症例のように数ヶ月で目に見える変化が現れることがあります。
お口の衛生環境が向上する: 歯並びが整うことでブラッシングがしやすくなり、むし歯や歯肉炎のリスクを下げることができます。
正しい発育をサポート: 歯を強制的に動かすのではなく、あごの正常な成長を促すため、顔立ち(口元)のバランスも整います。
(デメリット・注意点)
装着時間のルール遵守: 1日1時間の日中装着と、就寝中の装着が必須です。これを守らないと治療期間が延びる場合があります。
トレーニングの継続: 装置を入れるだけでなく、舌の動きや呼吸を整えるトレーニングを並行して行う継続性が必要です。
むし歯管理の重要性: 矯正中もむし歯治療や予防処置を並行して行う必要があります。
【症例3】 上下の歯列に大きな重なり(叢生)が見られたお子様の症例です。 マウスピース型の「マイオブレース」に加え、あごの骨格的な拡大を促す「バイオブロック」という着脱式の矯正装置を併用し、さらに口腔筋機能訓練(トレーニング)を行うことで、理想的なアーチとかみ合わせを実現しました。

【症例3の治療の経過】
初診時:上下の前歯が重なり合い、並ぶスペースが著しく不足していました。
12ヶ月経過(中央下):装置の併用により、顎が正しく広がり、歯が並ぶ土台が整いました。
4年経過(右):治療開始から4年。歯並びが整えられただけでなく、「かみ合わせ」も理想的な状態で安定しています。
【症例3の治療のメリットデメリット】
(メリット)
骨格から改善できる:バイオブロックを併用することで、歯だけでなく「あごの顔立ち(骨格)」からアプローチでき、より健康的な口元になります。
かみ合わせの安定:単に見た目を整えるだけでなく、上下の歯が正しくかみ合うように導くため、将来的な歯の寿命にもプラスになります。
「後戻り」しにくい:歯並びが悪くなった原因(口の周りの筋肉の癖)をトレーニングによってアプローチするため、治療後の安定感が高くなりやすいです。
(デメリット・注意点)
治療期間とステップ:複数の装置(バイオブロックからマイオブレースへの移行など)を使用するため、治療計画が長期にわたる場合があります。
家庭での協力が不可欠:取り外し式の装置であるため、装着時間やトレーニングをご家族でしっかり管理していただく必要があります。
一時的な話しにくさ:装置の種類によっては、慣れるまで少し話しにくいと感じる時期があります。
【症例4】初診時、上下の歯列に大きな重なり(叢生)が見られたお子様の症例です。 顎の成長を根本から整える「バイオブロック」と、正しい口の使い方を習得する「マイオブレース」、そして「口腔筋機能訓練(MFT)」を組み合わせることで、抜歯をせずに理想的な口元へと導きました。

【症例4の治療の経過】
初診時(左上):上下の歯列に重なりがあり、前歯が窮屈に並んでいる状態です。
16ヶ月経過(右中):装置の併用により、叢生(ガタガタ)がほぼ解消されました。 この段階で、正しい歯の並ぶスペースが確保されています。
6年経過(左下):治療開始から6年後(治療完了から3年後)。成長期を過ぎても、歯並び・かみ合わせ共に維持されています。
【症例4の治療のメリットデメリット】
(メリット)
長期安定性が非常に高い:筋肉の癖を治すだけでなく、骨格(土台)から整えるため、大人になっても後戻りしにくくなります。
顔立ちのバランスが整う:あごの骨を正しい位置・大きさに導くことで、鼻呼吸がしやすくなり、口元全体のシルエットが引き締まります。
将来的な抜歯リスクを最小限に:早期に土台を広げるため、健康な歯を抜かずに済む可能性が高まります。
(デメリット・注意点)
治療のステップが多い:成長に合わせて装置を使い分けるため、保護者様とお子様、 そして歯科医院がチームとなって数年単位で取り組む必要があります。
就寝時の装着管理:治療後長期にわたって歯並びやかみ合わせを安定させるには、 成長のピークに合わせて適切に装置を使用することが求められます。
重なりの強い場合は慎重な対応:合計10ミリメートルを超えるような強い歯の重なりが見られる場合、永久歯の抜歯も治療の選択肢に入ってきます。 一度矯正相談を受けていただくことをお勧めします。
まとめ
叢生(ガタガタの歯並び)は日本人の子供に多く、見た目だけでなく将来のむし歯リスクや歯の寿命にも悪影響を及ぼす。
5〜6歳頃の乳歯の時期に「歯と歯のすき間」がない場合は、永久歯がきれいに並ぶスペースが足りなくなる予兆。
歯が重なる根本原因は「あごの小ささ」にあり、舌の位置や食いしばりなどの日常的な癖があごの成長を妨げている。
小児期にマイオブレースやバイオブロックで骨格から整えることで、将来的に永久歯を抜かずに済む可能性が高まる。
早期治療は「後戻り」しにくい体質を作り、歯並びだけでなく正しい呼吸や整った顔立ち(シルエット)への成長をサポートする。
監修者プロフィール
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科(静岡県菊川市) 理事長 川邉 滋次(歯科医師)
小児矯正・予防歯科を中心に、お子様の健やかな成長をサポートしています。
参考文献
1. 河合 聡, 口腔習癖 実践編 アイコンで見える化する口腔機能の問題点, 医歯薬出版株式会社, 東京, 2021.
2. 河合 聡, 口腔習癖 見逃してはいけない小児期のサイン, 医歯薬出版株式会社, 東京, 2019.
3. Hafez, Hend Salah, et al. "Dental crowding as a caries risk factor: a systematic review." American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics 142.4 (2012): 443-450.
4. 河合 聡, 萌出障害 先天欠如, 歯胚位置異常, 過剰歯, 捻転歯 臨床対応CASEBOOK,ヒョーロン パブリッシャーズ, 東京, 2022.
5. 藤井元太郎, et al. "若年者における不正咬合の発現に関する疫学的研究." 北海道矯正歯科学会雑誌 25.1 (1997): 69-75.
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