上下前歯の中央位置がずれていませんか?(気になる子どもの歯ならび)
更新日:1月17日
はじめに
上下の歯をかみ合わせた時、前歯の中央位置が左右どちらかにずれていませんか?
前歯の中央位置のことを歯科用語で正中(せいちゅう)とよびます。

「平成28年歯科疾患実態調査」のデータによると、12〜20歳の109人を対象とした「正中のずれ」に関する調査では、約56%の人に正中のずれがありました。つまり約半数の人が正中部分にずれがあることがわかります。

ただ、「正中がずれている=歯並びやかみ合わせが悪い」ということではありません。
歯の大きさは左右対称ではないため、少しのずれは発生する場合があります。
問題は「何が原因でずれてしまったのか?」「今後もずれが悪化するリスクがあるのか?」です。そこで今回は正中のずれを「歯の位置がずれている」「上下のあごの骨がずれている」の2つのタイプに分け、原因と対策についてまとめてみました。
▼目次
歯の位置がずれているタイプの正中のずれ
中央の正しい位置を確認するためには「正しい目印」が大切です。「方角がわからなくなった時、夜空の北極星を見つけられたら北がわかる。」と聞いたことがあるのではないでしょうか?身体やお口の中にも北極星のような目印があります。

顔では「鼻」「人中」、お口の中では「上唇小帯」「下唇小帯」「舌小帯」とよばれる「すじ」が正中の目印です。


この目印を基準にして歯列の中心部分がずれている場合は、
1. 乳歯が早く脱落してしまった
2. 永久歯で左右の歯が生えてくる時期に差がある
3. 同じ形の左右の歯で幅の差がある
4. 永久歯が本来とは違う位置から生えてきた
5. 癒合歯がある
などの「左右非対称で起こった歯の問題」が考えられます。
特に歯のスペース不足の時に、乳歯の脱落と永久歯の生え出しが左右対称に起こらないと、左右非対称に空いたスペースに歯が移動し、中心位置のずれが起きやすくなります。
この場合「歯自体の位置のずれ」ですので、永久歯のスペースを歯科矯正治療で確保すると、自然に解消することがあります。
上下あごの骨の位置がずれているタイプの正中のずれ
上あごの骨は他の骨と接続されているため、日常生活の中でずれることは少ないですが、下あごの骨はあごの関節をはさんで垂れ下がっているだけなので左右にずれることが比較的多くあります。
下のあごをずらす原因として「片咬み」があります。片咬みとは「食事をする際に片側ばかりで咬むこと」です。
片咬みが続くと、かみこんでいる方の歯がすり減り、さらに低くなるためさらに片咬みがひどくなります。片咬みが解消されなければ下あごのずれは悪化する恐れがあります。そのため片咬みを改善し下あごのずれを治すことが大切です。
片咬みの原因は多く、乳児から発生している場合もある
「片咬みによるあごのずれ」には以下のように様々な原因があります。

この図をみると、原因が多く存在し、「赤ちゃんの時〜永久歯の生え変わり」まで幅広い期間に及んでいることがわかります。
「食事の時家族で座る場所が常に決まっている」ような家庭での慣例が片咬みにつながってしまうことがあります。ちなみに人間の90%が右利きであり、日本人は右手で箸を使用し右から左奥に入れるので左咬みが多く、欧米諸国の人は左手にフォークを持ち左から右奥に食べるので右咬みが多いといわれています。
ほおづえは片手だと片方のあごに強い力で押し付けるため、正中のずれや歯列の歪みを短い期間で起こす場合があります。また同じ方向での横向き寝やうつ伏せ寝も、あごを押し付けてしまい歯列が左右非対称になる歪みの原因となります。

またバイオリンなどの楽器やスポーツによる「偏った動き」で大きな左右差があると、歪みの原因となります。

片咬みは原因の期間が長いほど修正が困難になりやすい
片咬みは原因となる悪習慣の期間が長い方が修正に時間がかかり、期間が短い方が治りやすい傾向があります。
原因を特定することが治療への一歩ですが、1つの悪い習癖が新しい悪い習癖を発生させることもあるため、複数の原因が存在すると修正が難しくなる場合があります。
あごの変形を予防するには小学生までの対策が大切
小学校高学年以降まで片かみが続いてしまうと、骨格が歪んだ状態に合わせて成長してしまうため、男の子であれば14歳まで、女の子であれば12歳までに片咬みを解消することが望ましいです。
歯科での子どもの片咬みへの対応
歯科の検査ではお口の中の状態を確認して片咬みが発生しているかを確認します。かみ合わせを測定する機器を使用してデータで測定する場合もあります。

子どもと保護者の方にカウンセリングを行い、片咬みの原因を探していきます。この際、お子さんが自分自身の行動を振り返り、原因に気づくことが大切です。
治療・対策方法としては、「生活習慣の改善」「かみ合わせを妨害している原因を解消する」「筋機能訓練」があります。筋機能訓練の例としてはガムを使った咬み方トレーニングや、正中を鏡で合わせるトレーニング等があります。
筋機能訓練と同時に、歪んでしまった悪い形の歯列に矯正装置を併用することで、良い歯列に整え片咬みを解消する方法もあります。
ただし、原因に対して何も対策されていない状態で、矯正装置だけで解決する方法はおすすめできません。原因が矯正装置の作用を妨げてしまったり、仮に歯が並んでも歯ならびやかみ合わせが崩れる「後戻り」の恐れがあるからです。矯正装置より先に原因となる悪い習癖の改善をすることは大切です。
まとめ
1. 正中のずれは「歯の位置がずれている」「上下のあごの骨がずれている」の2つのタイプがある。
2. 歯の位置がずれている場合は、左右非対称で起こった歯の問題が考えられ、永久歯のスペースを歯科矯正治療で確保することで自然に解消する場合がある。
3. 上下のあごの骨がずれている場合は片咬みが原因として挙げられる。
4. 片咬みの原因は多く存在し、幼児〜永久歯生え変わり時期まで幅広い期間に及んでいる。
5. 片咬みは原因となる悪習慣の期間が長い方が修正に時間がかかり、期間が短い方が治りやすい傾向がある。
6. 小学校高学年以降まで片かみが続いてしまうと骨格が歪んだ状態に合わせて成長してしまうため早期に解消することが望ましい。
7. 歯科医院での片咬みの対応としては、「生活習慣の改善」「かみ合わせを妨害している原因を解消する」「筋機能訓練」がある。
この記事を書いた人

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
①厚生労働省. 平成28年度歯科疾患実態調査. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html
②吉田友英. "右利き, 左利きの考え方." Equilibrium research 69.3 (2010): 147-150.
③荻本多津生, et al. "問診による習慣性咀嚼側の判定法の検討ならびに臨床診査結果との関連." 日本顎関節学会雑誌 10.2 (1998): 398-409.