はじめに-受け口・反対咬合とは?
上下の歯をかみ合わせた時に「下の前歯が上の歯より前に出ている状態」を専門用語では「反対咬合」(はんたいこうごう)、一般では「受け口」と呼んでいます。厳密に言えば、3本以上前歯のかみ合わせが逆になっている状態です。
反対咬合・受け口のような歯並びの異常は早ければ3歳頃から見つかります。
反対咬合の発生率は、全体の1.8%(平成28年度歯科疾患実態調査「12歳〜20歳の107人を対象とした歯列・咬合の状況」)です。
反対咬合の影響としては「上の歯列が重なりやすい」「前歯でうまく食べ物を咬みきれない」などがあります。さらに、かみ合わせの負担が偏りやすいため将来の8020達成者(80歳で20本以上歯が残っている人)が0%と、歯を失うリスクが高くなるという調査結果もあります。
また、横から見ると下あごが突き出て見えるなど容姿に影響を与える恐れがあり、発音の面でも「サ行やタ行」が「シャシュショ」「チャチュチョ」と、はっきりとしなくなる傾向があります。
早い時期の適切な治療が大切ですので、今回は反対咬合の原因と治療方法についてまとめてみました。ご参考になれば幸いです。
▼目次
反対咬合・受け口は放っておいても自然に治らないの?
大人になってでも反対咬合は治療は可能です。しかし、大人になると治療の難易度が上がる可能性が高くなるため、早い時期の治療をおすすめします。
上あごは下あごよりも早く成長がはじまり、永久歯が生えそろう頃(12歳頃)にはピークが過ぎてしまいます。この時期に前歯のかみ合わせが逆になっていると、上の前歯が下の前歯にブロックされてしまい、上あごの骨の成長が抑えられてしまうのです。
下あごは思春期に大きく成長します。この時期に反対咬合を放置すると、下あごがどんどん成長していくのに対し、上のあごが抑え込むことができず、顔の形が変わっていきます。下あごの骨が発達しすぎてしまった場合は、歯科だけでなく口腔外科での治療も併用することがあります。
では、乳歯列の時に反対咬合だった場合、永久歯が生えてくれば自然に治ることはあるのでしょうか?永久歯の前歯が生え変わるまでに反対咬合が自然に解消する確率は約6%であり、自然治癒する可能性は低いと考えられます。
そのため、「放っておけば、いずれ治る」という安易な考え方は危険で、治療の機会を逃してしまう結果になることがあります。反対咬合が見つかったら乳歯列の時期であっても、すぐに歯科医院に相談することをお勧めします。
歯の問題・骨の問題が反対咬合を引き起こす?
反対咬合の要因は、「歯の生える位置や傾き」「上あごの成長不足」「下あごの過度な発達」などいくつかパターンがあります。
1. 歯の生える位置や傾き
「上あごの前歯が、本来の歯列より内側に生える・傾く」
「下あごの前歯が、歯列より前に移動または傾いて生える」
これらが片方、または両方が起こることで、前歯のかみ合わせが反対になることがあります。
2. 上あごの成長不足または下あごの過度な発達
「上のあごがうまく前に成長しない」
「下あごの骨が発達しすぎてしまう」
反対咬合の疑いがある場合、矯正歯科で使用される横顔のレントゲン写真(セファログラム)を撮影し、骨の状態を分析していきます。
また、反対咬合の中でも構成咬合と呼ばれる症状の場合、患者さんに下あごを引いてもらい、上下の前歯の先端が同じ位置に並ぶかどうか見るという検査方法もあります。
3. 下あごを前に出すクセがある
前歯のかみ合わせが反対で、乳臼歯が生えていない、または生えてきてもまだ噛み合っていない3歳未満の場合、お子さんが下あごを前に出してかんでいることもあるため、本当に噛み合わせが反対咬合であるかを確認する必要があります。
歯科医師が下あごを誘導して確認したり、かみ合わせに使う歯科用の紙「咬合紙(こうごうし)」を使用して確認する方法があります。
反対咬合になってしまう2つの原因
反対咬合になってしまう根本的原因として、以下の2つが挙げられます。
1.舌が下がっている
舌は、口を閉じた時に上のあごに触れているのが正しい位置です。けれど、何らかの理由によって舌が下がってしまっていると、下のあごが発達してしまう場合があります。
舌が下がってしまう理由としては「扁桃腺の腫れなどによって鼻づまりが起き、口呼吸が習慣化してしまう」「舌の筋(舌小帯)がうまく伸びない」「上のあごが狭く舌が置けない」などが考えられます。
2. 遺伝
血縁者に反対咬合の方がいらっしゃる場合、お子様も将来的に下あごが急成長することがあります。この場合、小学生の時に矯正治療で一時的に反対咬合が解消しても、第二次性徴期(成長期)に、下あごの過度の成長によって反対咬合が再発する可能性があります。
遺伝的な要素があれば、小児矯正だけでなく将来成人矯正が必要になる可能性もあります。
日本人は反対咬合になりやすい?
海外の方と比べると、日本人の顔は鼻が小さく平面的なイメージがありませんか?
これは日本人の顔の骨格の特徴で上あご部分が成長しにくいからです。
さらに日本人は口呼吸をしている人の割合が多いです。口呼吸があると上あごの成長不足になりやすいため、上あごと下あごのアンバランスが起こり反対咬合になることが少なくありません。
かみ合わせが深いタイプと浅いタイプ どちらが治療が難しい?
一般的に、かみ合わせが浅い方が治療が難しいとされています。
前歯の関係を改善するために上の前歯を前方に押し出すと、歯が前に傾きます。そのため歯の高さが低くなり、かみ合わせは浅くなります。
・深いかみ合わせの治療 →正常に近くなる
・浅いかみ合わせの治療 →前歯部分が開いてくる
となるわけです。また前歯部分が開いている場合、上の前歯を前に押し出せても後戻りしやすくなります。そのため、浅いかみ合わせの方が治療の難易度は高くなりやすいのです。
幼児〜小学生までの反対咬合の治療方法
反対咬合は、できれば乳歯列期(3歳)〜混合歯列期(11歳)の治療を推奨します。
当院の受け口・反対咬合治療症例も3症例ご紹介しながら説明していきます。
乳歯列の時は、既成のマウスピース装置を使用して治療を始めます。マウスピースは鼻呼吸を促し、舌を正しい位置に戻す働きがあり、上あごの成長をサポートします。
他にも上顎牽引装置(じょうがくけんいんそうち)とよばれる上のあごを前に引っ張る装置を使用して上あごの成長を促す治療やムーアプライアンスと呼ばれる反対咬合の矯正装置を使用していく場合があります。
永久歯の前歯が生え出してくる頃になると、矯正装置を併用することも検討していきます。
また、前歯の位置や傾きが原因である場合には、前歯を前方向に押していきます。上あごの成長不足が原因の場合は、上あごを矯正装置で前に成長させる方法があります。
前歯のかみ合わせは早めに介入すると改善しやすい一方、前歯のかみ合わせが改善されただけで満足してしまい歯の生え変わり時期に放っておくと反対咬合が再発することもあるため、骨の成長が落ち着くまで(男の子だと14歳くらい・女の子だと12歳くらい)は引き続き歯並びとかみ合わせを維持することが必要になる場合が多いです。
下あごの骨が著しく成長している場合には、一期矯正(永久歯が生えそろうまでの矯正)だけでは難しい場合が多いです。そのため、「将来の外科手術を利用した矯正治療を回避すること」を目標に、上のあごを引っ張って成長させ、ブラケット装置等の二期矯正(成人矯正)を計画する場合があります。
まとめ
1. 反対咬合は発見した時に歯科医院に相談することがお勧め。
2. 反対咬合の自然治癒率は6%と低い
3. 「歯の生える位置や傾き」「上あごの成長不足」「下あごの過度な発達」のパターンがある。
4. 原因として「舌が下がっている」「遺伝」が挙げられる。
5. 反対咬合を少しでも予防するには、「原因となるクセを除去する」ことが大切。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. 竹内史江, et al. "Dental Prescale® を用いた 8020 達成者の咬合調査." 2005.
2. 菊池 誠, 鼻呼吸機能と反対咬合 機能は形態を整える, 東京臨床出版株式会社, 2022.
3. 相馬邦道, et al. 歯科矯正学 第5版. 医歯薬出版. 2010.
4. 町田幸雄. 乳歯列期から始めよう咬合誘導, 一世出版, 2006.
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