はじめに-フロスと歯間ブラシの使用率は約50%
「皆さんは普段、歯を磨く際に何を使用して口の中をきれいにしていますか?」
歯ブラシや歯磨き剤はすぐ思い浮かぶと思います。しかし、デンタルフロスや歯間ブラシは毎回使っていますでしょうか?
参考として、厚生労働省の平成28年歯科疾患実態調査によると、デンタルフロスや歯間ブラシを使用している人は、全体の36.7%(3人に1人ほどの割合)であり、40%未満の状況でした。
令和4年歯科疾患実態調査では、使用率が50.9%まで上昇しています。しかし、それでも2人に1人の割合のため、日本ではデンタルフロスや歯間ブラシの使用率は低いと考えられます。
世代や男女別で見ると、歯間ブラシを使い始める40代から60代で使用率がやや高くなっています。また、女性の方が男性よりも多く使用している傾向があります。平成28年度と令和4年歯科疾患実態調査を比較すると、女性のデンタルフロスや歯間ブラシの使用率が令和4年の方が大きく上がっており、男女の使用率の差は大きくなっています。
デンタルフロスや歯間ブラシは「気が向いたら使う」「そもそも家に置いてない」という方も多いのが現状です。
今回、歯ブラシや歯磨き剤だけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスのような「清掃補助用具」を積極的に使っていただけるように、1問1答形式でまとめました。この記事を読んで少しでも歯間ブラシやデンタルフロスに興味を持っていただき、使用していただけると幸いです。
▼目次
なぜ歯ブラシだけでは清掃が不十分なのか?
歯ブラシだけではみがききれない場所があるからです。
歯ブラシだけで丁寧に磨いても、お口の中を清潔に保つことはできません。なぜなら、歯ブラシでは届きにくい部分があるからです。
磨き残しは、歯の根本部分や舌の歯の内側にもよく見られますが、特に多いのが歯と歯の間の部分です。歯ブラシだけでいくら頑張ってもこの部分のプラークはなかなか除去しきれない場合がほとんどです。
では、歯科医療従事者でない方の歯の間の清掃はどの程度されているのでしょうか?
これについて、日本で詳細に調べられた調査は少ないため、1980年代に茨城県牛久市で一般市民を対象に行われた調査をご紹介します。
それによると、頬側(歯の外側部分)、舌側(歯の内側部分)、隣接面(歯の間部分)のうち、隣接面のプラーク付着度が他の部分よりも高く、多くの人に磨き残しが見られました。また、歯肉炎も多く見られたとのことです。
もちろん、これはかなり古いデータのため、歯科医療の進歩やホームケア商品の充実によって、現在ではもっと改善されているとは思います。しかし、これだけ磨き残しが多いという事実は受け止めておくべきと考えます。
歯の間やその付近の根本部分は、歯ブラシでは届きにくく、磨き残しが発生しやすい部分です。
磨き残しはプラークとよばれる細菌のかたまりです。放置しておくと、みがき残し場所から、むし歯や歯周病が発生してしまうことがあります。
そのため、歯ブラシだけではなく、デンタルフロスや歯間ブラシのような補助清掃用具を使用することで、磨き残を少なくすることが可能になります。
歯間ブラシとデンタルフロスの違いは?
どちらも「歯と歯の間を掃除」する道具ですが、歯と歯の間の状態によって使い分けます。
1. 歯と歯の間の隙間の大きさ
デンタルフロスは、歯と歯の間の部分であればどの部位でも使用することができます。一方、歯間ブラシは歯と歯の間の根本部分に「一定の大きさのすき間」がある場合のみ使用できます。
そのため、歯ぐきが健康で下がっていない人は、無理に歯間ブラシを使用すると歯ぐきが下がってしまう恐れがあります。
2. 両隣の歯と歯が接する部分
両隣の歯と歯が接する部分を「コンタクトポイント」とよびます。デンタルフロスを歯と歯の間に通したときに、抵抗がある場所です。このコンタクトポイントは、歯と歯のあいだに食べ物が挟まることを防ぎ、むし歯や歯周病を予防する役割があります。
この部分はデンタルフロスで清掃することができますが、歯間ブラシは入れることができません。
3. 歯の凹凸面
1と2の説明を聞くと、「歯間ブラシよりもデンタルフロスの方がいいのでは?」と考えてしまいますが、歯間ブラシのメリットは「清掃効率」です。
歯間ブラシは、周りに毛がついているため、歯と歯の間の汚れを効率良くかき出すことができます。そのため、短時間でお口のケアを行うことができます。
また歯の根本は凹凸が激しく、ゴツゴツしている部分が多いため、凹んだ部分には、直線のフロスよりも毛がついている歯間ブラシの方が清掃できる可能性が上がります。
デンタルフロスの種類と選び方は?
デンタルフロスには糸巻き型(ロール型)とハンドル・ホルダー型の2種類があります。デンタルフロスは操作が難しい器具ですので、歯科医院で指導を受けていただくことをお勧めします。
1. 糸巻き型(ロールタイプ)
糸巻き型はコンパクトなケースに巻き取られており、適切な長さのフロスを切って取り出し、左右の指に巻いて使用します。
糸巻き型は、ワックスありとワックスなしのタイプがあり、ワックスありは糸にワックスがコーティングされているため滑りが良く歯に出し入れしやすくなっています。ワックスなしは糸の繊維が開きやすく汚れを絡め取りやすくなっています。
他にもミント等の香りがついているものや、唾液で膨らんでいくタイプなどがあります。
使用方法としてはフロス部分を歯間に優しく挿入します。歯ぐきを傷つけないよう、ギリギリのところまで挿入し、歯の面を擦りながら歯と歯の間や歯と歯ぐきの境界を清掃します。
歯間ごとにフロスの部分を新しい部分に変えながら、全ての歯間を清掃します。使用後のフロスは捨てて、再利用しないようにしましょう。
2. ハンドル型( ホルダー型)
ハンドル型は、フロスを持ちやすくするためのハンドルやホルダーを備えた装置です。プラスチックでできた小さなハンドルにフロス(歯間糸)がついています。ハンドルは握りやすく、使いやすい形状になっています。これにより、フロスを持ちやすくなり、歯と歯茎の間の隙間に正確にアクセスしやすくなります。特にフロスを使い慣れていない人にとっては便利だと考えられます。
歯の隙間にフロスを挟み込み、歯の面を擦りながら動かすことで、食物の残渣や歯垢を取り除きます。ハンドル型フロスは、Y型とF型があり、Y型の方が奥歯に挿入しやすい形となっています。
ハンドル型フロスは便利である一方、一回汚れを取った後にそのまま他の部位に挿入してしまうと汚れを移動させてしまう恐れがあるため、拭き取るか水洗いをして汚れを取ってから次の部位の清掃を始めてください。
3. デンタルフロスは使い方が難しい
デンタルフロスは適切に使用することが難しい器具です。ただ単に歯と歯の間に入れて出すだけでは十分に清掃ができたとはいえません。
以前、アメリカ歯周病学会では「Floss or Die」というフレーズで、過剰ともいわれるほどデンタルフロスを推奨していましたが、アメリカの大手通信社が「フロスが有効であることを示す証拠はほとんどない」と発表しました。その理由として「多くの人がフロスの使い方を間違えている」ことを挙げています。
これは、フロスに清掃効果がないわけではなく、人々がスーパーや薬局、歯科医院でなんとなく買ってみたものの、正しい使用方法が分からないまま使ってしまった結果だと考えられます。
適切な使用方法を習得するには、まずは歯科医院で歯科医師や歯科衛生士にアドバイスを受けていただくことが大切です。
歯間ブラシの種類と選び方は?
歯間ブラシはサイズと毛束・柄の形の違いがあります。特にサイズ選びが大切です。
1. 歯間ブラシのサイズ
歯間ブラシのサイズを選ぶ際には、まず「歯と歯の間のすき間の大きさ」を確認する必要があります。歯と歯の間の隙間よりも歯間ブラシのサイズが大きい場合、歯や歯ぐきにダメージを与えてしまいます。逆に小さい場合は、プラークがうまく取れないため、効率が悪くなり、プラークが残りやすくなります。
国内で販売されている歯間ブラシのほとんどが、日本の自主規格に準じてサイズ表示されていますが、同一サイズ表示の製品でも、メーカーが違うと太さが異なることがあります。
また、歯と歯のすき間は均一ではありません。自分で口の中を見る場合、鏡で見える部分は前歯から歯列の中間くらいまでが「見える限界」で、奥歯の歯と歯のすき間の大きさを目で確かめることは難しいです。そのため、何もアドバイスがない場合、自身がよく見える前歯の間の大きさを基準に歯間ブラシを購入してしまう傾向があります。
その結果、奥歯に試してみたら予想以上にブラシが大きすぎる、小さすぎるなどの問題が出てしまい、頑張っているはずが歯ぐきにダメージを与えてしまったり、プラークが取りきれていなかったりするなどトラブルが発生しやすくなります。せっかく口の健康を真剣に考え、歯間ブラシを今日から使ってみようという熱意があったのに、これではモチベーションも下がってしまいます。
ここでお勧めしたいのが、歯科医院で歯間ブラシの大きさや使用方法をみてもらうことです。特に歯科衛生士は、歯ブラシや歯間ブラシなどのオーラルケアグッズの知識と使い方のプロです。初めて歯間ブラシを使用する場合や、今まで使ってきた歯間ブラシの大きさや使い方のチェックを受けたい際には、ご相談ください。
2. 毛束の形
(円柱型-ストレートタイプ)
ブラシ部の太さが均一になっています。スタンダードなタイプといえます。
(円錐型-テーパータイプ)
テーパーとは「先細り」という意味で、歯と歯の間に入りやすいですが、入り込みすぎると太い部分に引っかかり引き抜きにくいこともあります。
(樽型-バレルタイプ)
バレルとは「樽(たる)」という意味で、先端と奥が細く、中央が太くなっています。歯と歯の間に入り込みやすく、引き抜く時に引っかかりにくいことが特徴です。
円柱型と円錐型のどちらがより清掃性が良いか?という研究では、円柱型の方がよりプラークを取ることが可能というデータがありました。円錐型は挿入した部分の反対側が先細りしたブラシが来ることになるため、そこで清掃性が落ちてしまうことがあります。
ただし円錐形でないと、挿入しにくいケースは多くあるため、個々の部位の形状に応じて器具を選択することをおすすめします。
3. 柄の形(持ち手)
(ストレートタイプ)
前歯部分の清掃に向いています。奥歯へはブラシ部分を曲げて使用してください。
(カーブタイプ)
奥歯部分の清掃に向いています。ストレートタイプで届きにくい場合はお勧めです。
(アングルタイプ)
アングルタイプの歯間ブラシは前歯、奥歯どちらも使用できます。
余談ですが、ゴムタイプの歯間ブラシは軸も毛先もゴムのため、歯ぐきを傷つけにくく洗い流しやすいので衛生的ですが、清掃効率は毛のタイプに劣ってしまいます。
4. 素材
素材としては「金属製のワイヤー芯の周りにナイロンなどの毛束がついているタイプ」と「ラバー(ゴム)で芯と毛束ができているタイプ」があります。
ナイロンと比べるとラバー製の歯間ブラシは清掃性は落ちるため、ナイロンの方が良いと考えられます。しかし、ラバー製の歯間ブラシでもプラークの除去は可能で、柔らかいため、初心者の方が快適に使用できる可能性があります。
歯間ブラシの保管は水洗いだけでいいの?
しっかり水洗いした後、乾燥していただくことをお勧めします。可能であれば洗面所などの湿気の多い場所での保管は避けてください。
歯間ブラシを使用した後、水洗いのみで洗面所に置きっぱなしの状態になっていることありませんか?
使用後に簡単に水で流す程度に済ませてしまう方が多く、適切な洗浄がされていない場合があります。食べかすやプラークが歯間ブラシの毛の中に残ったまま放置されることは、衛生的に良いとはいえません。
水洗いを十分しても細菌が0にはなることはありません。研究論文によると、歯間ブラシの水洗のみで除去できる菌と除去できない菌があり、除去できない菌の代表としてむし歯原因菌で有名なミュータンス菌がいるとのことです。つまり十分な水洗を行っても細菌が繁殖することは止められません。
そのため歯間ブラシの中で細菌繁殖しにくい環境をつくってあげることが必要です。
1. マウスウォッシュ等につけて殺菌する
水洗を行った後に歯間ブラシをマウスウォッシュなどにつけて殺菌する方法です。熱湯消毒はブラシの耐熱温度より高い場合「ブラシ部分の劣化」を起こすことが心配されます。
2. 乾燥させた状態で保管
水洗い後にしっかり乾燥させて細菌の繁殖を抑える方法です。水分が残っている状態では細菌が増えやすくなります。歯間ブラシの毛先に水分が残らないように乾燥させてください。
3. 洗面所以外の湿気のない場所で保管を行う
歯間ブラシの中に残った細菌は気温20℃、湿度55%の環境でも増殖したと報告されています。日本の洗面所は風呂場と隣接している傾向があるため、湿度や温度が上昇しやすく、細菌にはとても良い環境を与えてしまっている場合があります。そのため、可能であれば湿気を避けた場所で保管していただくことをお勧めします。
歯間ブラシの交換はいつするの?使い続けてもいいの?
歯間ブラシの毛が乱れる、ワイヤーの弾力が無くなる場合は交換をしてください。使い続けてしまうと歯や歯ぐきを傷つけてしまう恐れがあります。また長期使用は細菌が繁殖し、衛生面での心配もあるため適度に交換しましょう。
歯ブラシの交換については、「約1ヶ月を目安に交換」と聞いたことがある方もいると思いますが、歯間ブラシに関しては、あまり触れられていないのが現状です。歯間ブラシの容器や箱の裏にも交換時期の目安等は記載されていないこともあります。
歯間ブラシの交換時期は歯間ブラシの毛が乱れたり、中心を支えているワイヤーの弾力が無くなった場合は交換してください。これは、乱れた毛先や曲がったワイヤーで歯ぐきを傷つけてしまう恐れがあるからです。ワイヤー部分の劣化によってワイヤーが折れてしまうケースもあります。
先ほど保管の際にも述べましたが、細菌の繁殖は止めることが難しいです。長期使用していれば、保管が十分だったとしても衛生面上良いとはいえません。1〜2週間ごとに定期的に交換してください。
歯間ブラシを使うと歯ぐきが下がるというのは本当?
歯間ブラシを適切に使用することで腫れた歯ぐきが引きしまって、歯ぐきが下がったように見えることがあります。しかし、不適切な歯間ブラシの使用によって歯ぐきが下がってしまうことがあります。
歯間ブラシを使用したから歯ぐきが下がってしまうわけではありません。歯ブラシだけでなくお口の中を清掃する道具は、誤った使い方をすれば害になってしまいます。歯間ブラシも適正サイズを正しく使用することで、歯ぐきが下がってしまうリスクは少なくなります。
つまり、自己流で歯間ブラシを使用するのではなく、歯科医院で歯科医師、歯科衛生士のプロフェッショナルによる清掃グッズの提案や指導を受けていただくことをお勧めします。
まとめ
1. 歯間ブラシ・デンタルフロスどちらも歯と歯の間を掃除するものだが、「歯と歯の間の隙間の大きさ」「両隣の歯と歯が接する部分」「歯の凹凸面」によって得意・不得意があるため、状態に応じて使い分ける。
2. 歯ブラシだけで十分にみがけない「歯の根元周り」の清掃にはデンタルフロスや歯間ブラシは大切。
3. 歯間ブラシはサイズと毛束・柄の形の違いがあり、特にサイズ選びが大切。
4. 歯間ブラシは水洗いした後、乾燥することがお勧め。湿気の多い場所での保管は避けること。
5. 「歯間ブラシの毛が乱れる」「ワイヤーの弾力が無くなる」場合は、交換しないで使い続けてしまうと歯や歯ぐきを傷つけてしまう恐れがある。
この記事を書いた人
かわべ歯科 歯科衛生士スタッフチーム
参考文献
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