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子どもが歯をぶつけた時どうする?すぐにやることは?事故の応急処置ガイド

はじめに-上の前歯が事故でぶつけやすい部分


歯をぶつけた時役に立つガイド

お子さんは、「頭と身体のバランスが未熟」「歩き方や筋肉の発達が未完成」「周囲への注意が行き届かない」といった発達段階にあるため、転倒や衝突による事故が起こりやすく、思わぬケガにつながることがあります。


特に、歯をぶつけるようなケガは、見た目に大きな変化がない場合でも、歯の内部で深刻なダメージを受けていることがあります。中でも永久歯のケガは、その後の成長や将来の歯の健康に大きく影響する可能性があり、注意が必要です。


旅行中や部活動の遠征、夜間・休日など、すぐにかかりつけの歯科医院に行けない場面でケガが起こることもあります。突然の出来事に、お子さんはもちろん、そばにいる保護者の方も動揺してしまい、冷静な判断が難しくなることがあります。


こうした時に「とりあえず様子を見よう」と判断するのではなく、できるだけ早く歯科医院を受診することが大切です。


この記事では、万が一お子さんが歯をぶつけてしまったとき、保護者の方や周囲の大人がどのように対応すれば良いのか、冷静に適切な行動がとれるよう、知っておきたいポイントをご紹介します。


▼目次



統計で見る歯のケガの実態


大学病院の小児歯科外来に初めて来院された1,816名のお子さんのうち、「歯のケガ」で来院した192名(乳歯238本、永久歯107本)を対象に調査した結果以下のようなことがわかっています。


1. 上の前歯に多い


歯のケガの多くは、前歯(特に上の前歯)に集中します。転倒したときに、顔や口をぶつけることが多いためと考えられます。ただし、奥歯のケガも「何かをくわえながら衝突した」ケースでは稀ではありますが見られます。


2.年齢的に2歳が多い


歯のケガで来院した子どもたちの中で、2歳が最も多く、2歳以下の低年齢の子どもが全体の約44%を占めました。つまり、小さなお子さんほど歯をケガするリスクが高いことがわかります。


3. 男の子の方が多い


乳歯・永久歯どちらも男の子の受傷が多いという結果でした。活発な行動が影響していると考えられます。


4. 原因で多いのは「転倒」


歯のけが(外傷)の多くは、転んだり、どこかにぶつかったりしたときに起こります。原因の多くは「転んでしまったこと」でした。乳歯・永久歯ともに約半分のケースが転倒によるもので、日常生活の中で起きやすい事故です。


特に子どもの場合、以下のようなタイミングが多いです。

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歩き始め〜幼児期(1〜4歳):運動がまだ不安定なため転倒しやすい

小学校低学年(7〜10歳):運動量が増え、外で活発に遊ぶ機会が多くなる

スポーツの試合や練習中:衝突や転倒によるケガが増える


5. 乳歯と永久歯で症状や場所の傾向に違いがある


乳歯では「歯が抜けそうになる・動いてしまう(脱臼)」が58%永久歯では「歯が欠ける(歯冠破折)」が41%このように、乳歯と永久歯で症状の傾向に違いが見られました。


また乳歯では家の中でのケガが多く、永久歯では外での事故が増加していました。

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歯をぶつけた時どうする?対処の流れを図説


緊急でこの記事を見ている方もいると想定し、ここでは歯をぶつけた時、まずどのように行動すればいいのかを図でまとめてみました。



ただし、ケガで身体がうまく動かせない場合や、意識がはっきりしない等、全身の状態に問題がある場合には救急車を呼ぶまたは病院(医科)へ直行するなどが優先されます。


ここからは、ぶつけた時に起こりうる歯の症状と対策について解説していきます。


歯が歯ぐきの中にめり込んでしまう-陥入(かんにゅう)


歯が歯ぐきの中にめり込んでしまうケガのことを「陥入」といいます。

乳歯や、生えて間もない永久歯の場合は、自然に元の位置に戻ることを期待して、しばらく様子を見るのが基本です。特に問題がない場合は、最大で1年ほどレントゲンを撮りながら経過を確認していきます。


ただし、歯が歯ぐきの内側に深く入り込んでしまったり、下の歯とぶつかってしまっている場合は、歯の位置を元に戻す処置(整復)を行うこともあります。


多くの場合は自然に生えてきますが、必ずしもそうなるとは限りません。また、乳歯の場合は、後から生えてくる永久歯に影響が出ることもあるため、永久歯がきちんと生えてくるまで長期的に様子をチェックしていくことが多いです。


  歯がグラグラする/出血がある


歯が揺れている状態も、ケガの程度によって対応が異なります。


1.軽度の揺れの場合


軽い揺れの場合は、歯を固定せずに、硬いものを噛まないようにして安静に過ごしてもらい、1年ほどかけて経過を観察します。ただし、見た目ではわかりにくくても、歯の神経が死んでしまっていることがあるため、注意が必要です。


乳歯の場合は、後から生えてくる永久歯に問題が出ないかどうかを確認します。また、生えたばかりの永久歯では、歯の根がきちんと成長しているかをレントゲンでチェックします。もし歯の神経が死んでしまっていたり、歯の中や外側が溶け始めていた場合(内部吸収・外部吸収)、歯の根の治療が必要になります。


2. 強く揺れている場合


強く揺れている場合は、乳歯であれば、歯の位置を戻して固定するか、抜歯を行うことがあります。永久歯の場合は、基本的に整復(元の位置に戻す処置)と固定を行います。


歯の周りの骨に骨折がない場合は、固定期間はおおよそ2週間です。骨折がある場合は、6週間程度しっかりと固定する必要があります。骨折がはっきりしない場合でも、歯のダメージが大きいときは、長めに固定することがあります。


歯が抜けた


事故やケガで歯が抜けた場合には歯を元の位置に戻す「再植(さいしょく)」という治療が行われます。歯の根っこの表面には、「歯根膜(しこんまく)」という薄くて大切な組織があります。これは歯を骨とつなげる役割があり、再植の成功に関わる重要なポイントです。


再植の成功を左右するのは、次の3つです。

  1. できるだけ早く歯科医院を受診すること

  2. 抜けた歯の保存方法が適切であること

  3. 歯の根っこには触らないこと(歯の頭の部分=歯冠だけを持つ)


1. 乳歯の脱落の場合


乳歯が脱落した場合、再植は原則として行いません。理由は、再植処置によって次に生えてくる永久歯の芽(後継永久歯)に悪影響を与えるおそれがあるからです。


ただし、まれに特別な条件が揃っている場合に限り、保護者の方とよく相談のうえ再植を検討することもあります。通常は、永久歯の健康と発育を最優先に考え、再植しない対応が推奨されています。


2. 永久歯の脱落の場合


永久歯が抜けてしまった場合は、再植を最優先に考えます。特に子どもの歯(生えたばかりの幼若永久歯)の場合、うまく処置をすれば歯の根が再び成長を続けることもあるため、早期の対応が大切です。


ただし、再植できたとしてもその後、歯が内部や外部から溶ける(内部吸収・外部吸収)

・根の先に炎症が起きる(根尖性歯周炎)などのトラブルが起こる可能性があります。

そのため、再植後は数年間にわたって定期的なレントゲン検査と経過観察が必要になります。


ガイドラインでは、受傷後1か月・2か月・3か月・6か月・1年とさらにその後も少なくとも3年間は定期観察を行うことが推奨されています。


3. 歯が抜けたときの保存方法


歯を適切に保存することで、再植の成功率が大きく上がります。以下の方法が有効です。


抜けた歯の保存方法
歯の保存液
歯の保存液

聞き慣れない方も多いかもしれませんが、歯の保存液とは、ケガなどで歯が抜けてしまった際に、その歯を乾燥やダメージから守るために入れておく専用の液体です。購入後は冷蔵庫で保管すれば、数年間常備することが可能です(製品によって保管期限が異なります)。


正式には「歯牙保存液(しがほぞんえき)」や「歯の保存用培養液」と呼ばれ、一部の薬局やネット通販サイトで購入できるほか、学校やスポーツ施設などに常備されていることもあります。


生理食塩水とは、体液とほぼ同じ濃度(0.9%)の塩分濃度を持つ水溶液で、鼻うがいやうがい、傷の洗浄などに使用されることがあります。家庭でも作成可能ですが、衛生面には十分注意してください。


生理食塩水の作り方
生理食塩水の作り方

作り方は、まず500mlの冷蔵庫で冷やしたミネラルウォーターを用意します。水道水はNGです。そこに食塩を4.5g加えます。これは小さじ約3/4杯分に相当します。食塩は、にがりなどの添加物が入っていない精製塩を使用してください。食塩を加えたら、ペットボトルのフタをしっかりと閉め、よく振って完全に塩を溶かします。これで0.9%の生理食塩水の完成です。


ただし、雑菌の繁殖を防ぐためにも、作ったその日のうちに使い切らなければならず、保存することができないため、緊急時には他の方法をおすすめします。


4. 抜けた歯を扱うときの注意点


1. 歯をガーゼやティッシュでこすって汚れを取る・水道水で洗ったり保存するのはNG


抜けた歯には血や異物がつくことが多く、キレイにしようとしてガーゼやティッシュで拭いたり水で洗おうとしてしまいがちです。ガーゼやティッシュなどでこすってしまうと、この歯根膜が物理的にこすり落とされてしまい、再植の成功率が下がります。


水道水には塩素などが含まれており、歯根膜の細胞にダメージを与える可能性があります。また、長く水に浸してしまうことで、根の表面の細胞が水分で破裂したり、栄養不足で死んでしまうこともあります。異物がついて気になってもそのまま保存液に入れるようにしてください。


2.根っこの部分を直接触らないこと(歯の頭の部分を持つこと)


抜けた歯の持ち方
抜けた歯の持ち方

持ち方に関しても注意点があります。歯の根本を指で触ってしまうと、この歯根膜が傷ついたり、はがれたり、乾燥して機能しなくなってしまうおそれがあります。そうなると、歯を再植してもうまく定着せず、抜けた歯を救えない可能性が高くなります。


4. 歯が再植できなかった場合の対応


歯が保存できなかった場合や、再植後予後が悪い場合には、一時的に入れ歯(義歯)で対応します。永久歯の生えかわりの時期やあごの成長に合わせて、最終的な治療(インプラントやブリッジなど)を検討します。


  歯が欠けた

 

事故やケガで歯が欠けた場合、欠けた部分が元の歯に適合するようであれば、破折片を再接着する処置を行います。しかし、欠けた部分が小さい場合や粉砕されてしまっている場合には、歯科用の材料を使って補修を行います。


欠けた部分の大きさにかかわらず、修復する際の形態の参考になるため、可能であれば破折片を歯科医院や病院へお持ちいただくことをお勧めします。


なお、破折片は乾燥に弱いため、歯の保存液、牛乳、生理食塩水などに浸した状態で持参いただくと、より良い状態での処置が可能になります。


治療したからもう安心ではない!?長期的な視点が必要な理由


歯科医院や病院でケガの治療を行なったからもう安心というわけではありません。乳歯・永久歯どちらもケガの後に遅れて何らかの症状が出てくる恐れがあります。


1. 乳歯の場合


乳歯が強くぶつかるなどのケガをすると、次に生えてくる大人の歯(永久歯)に影響が出ることがあります。


主な影響としては、次のようなものがあります。


  1. 歯の表面に白い斑点や黄色いシミができる(エナメル質の変色)

  2. 歯の表面がしっかり作られず、弱くなる(歯の質の形成不全)

  3. 歯の形に異常が出る

  4. 歯の根っこ(歯根)の発育が不十分になる

  5. 永久歯が生えてくるのが遅れたり、変な場所から生えてきたりする


これらのうち、白い斑点や黄色いシミ、歯の質が弱くなるといった問題は、永久歯が生えてきた後になって初めてわかることが多いです。一方、歯の形や歯根の異常については、永久歯がまだ生えていない段階でも、定期的なレントゲン検査で見つかることがあります。


また、永久歯がなかなか生えてこない場合は、乳歯が早く抜けたことで歯ぐきが厚くなってしまっていることが原因の場合があります。その場合は、隣の歯の様子を見ながら対処していきます。さらに、永久歯が正しい位置からずれて生えてくる場合は、乳歯の根っこがうまく吸収されなかったり、乳歯の根の先に炎症(根尖性歯周炎)が起こっていたりすることが原因です。このようなときは、乳歯を抜く必要があります。


このように、たとえ乳歯のケガが治ったように見えても、大人の歯に影響が出る可能性があるため、永久歯に生えかわるまでの間は、レントゲン検査を含めてしっかり経過を観察していくことが大切です。


2. 永久歯の場合


永久歯の場合、遅れて出てくる症状として「歯の色が変わる」「内部吸収」「外部吸収」「根尖性歯周炎(歯の根の先の炎症)の4つが挙げられます


a.歯の色が変わる(変色)


歯をぶつけたあとに歯の色が変わることがあります。すぐに色が変わった場合は、歯の中の出血によるもので、数か月経ってから色が変わってきた場合は、歯の神経が死んでしまっている(歯髄壊死)ことがあり、そのままにしておくと根の先に膿がたまる「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」に進行することがあります。そのため、定期的にレントゲンで様子を確認することが大切です。


b.内部吸収(ないぶきゅうしゅう)


歯の中の神経が炎症を起こすことで、歯の内側からだんだん溶けてしまうことがあります。この状態は痛みがないことが多く、レントゲンで丸い影として見つかります。早く見つけて神経の治療(根管治療)をすれば進行を止められますが、ひどくなると歯の根がもろくなり、抜かないといけなくなることもあります。


c.外部吸収(がいぶきゅうしゅう)


歯の外側から根っこが溶けてしまうこともあります。これは、歯を支えている膜(歯根膜)がケガで傷ついたことが原因です。外部吸収には2つのタイプがあります。


c-1.置換性外部吸収(ちかんせいがいぶきゅうしゅう)


骨と歯がくっついてしまい(骨性癒着)、少しずつ歯の根が骨に置き換わっていきます。この状態になると、矯正治療で歯を動かすことが難しくなったり、将来的に再びケガをしたときに歯が折れやすくなることがあります。保護者の方にもあらかじめ知っておいていただくことが大切です。


c-2.炎症性外部吸収(えんしょうせいがいぶきゅうしゅう)

歯の根の周りに炎症が起きることで、歯の根っこやその周りの骨がどんどん溶けてしまう状態です。これは、神経が死んでしまっていることが原因のことが多く、早めに治療することで進行を止めることができます。治療が難しいほど進んでしまった場合は、歯を抜いて、骨をできるだけ残すようにします。


d.根尖性歯周炎(歯の根の先の炎症)


ケガによって神経への血流が止まり、神経が死んでしまうと、その後に歯の根の先に炎症が起きることがあります。痛みや腫れが出ることもありますが、ほとんどの場合は症状がなく、ゆっくり進行します。歯ぐきに小さな膿の袋(歯肉膿瘍)ができることもあります。

乳歯でこの状態になった場合、自然に治らないことも多く、永久歯への影響を考えて抜歯をすすめることもあります。


永久歯(特にまだ根が完成していない「幼若永久歯」)の場合は、外傷の程度にもよりますが、少なくとも3〜4年間はレントゲンなどでしっかり経過を観察する必要があります。


ただし、外傷から10年〜20年経ってから問題が出てくることもあるため、違和感が出た場合はすぐに歯科を受診してください。



まとめ


1. 上の前歯のケガが多く、特に2歳前後の子どもに頻発する。


2. 転倒が主な原因で、男の子に多い傾向がある。


3. 歯をぶつけたら見た目に異常がなくても、すぐに歯科を受診することが重要。


4. 永久歯が抜けた場合は再植を最優先、乳歯は基本的に再植は行わない。


5. 抜けた歯は乾燥させず、保存液・牛乳などで適切に保存する。


6. 外傷後の歯は長期的にレントゲンなどで経過観察が必要。


7. 数年〜数十年後に問題が出ることもあるため、違和感があれば早めに受診する。



この記事を書いた人


予防歯科 川邉滋次

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次



  参考文献


  1. 日本小児歯科学会:小児の歯の外傷の実態調査. 小児歯誌、34(1):1-20, 1996.


  1. 浦野絢子, et al. "東京都心の歯科大学小児歯科における歯の外傷に関する実態調査." 小児歯科学雑誌 53.3 (2015): 414-420.


  1. 大野彰久, et al. "小児の歯の外傷に関する実態調査 受傷状況と来院までの経過." 昭和歯学会雑誌 12.3 (1992): 221-229.


  2. 日本外傷歯学会:歯の外傷治療ガイドライン. https://www.ja-dt.org/file/guideline.pdf









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