top of page

子供のいびきは無呼吸のサインかも?放置すると歯並びにも悪影響!?

更新日:8月2日

はじめに-子供のいびきは放置NG!?睡眠時無呼吸が隠れているサインかも?


目次


睡眠時無呼吸

皆さんは「睡眠負債」という言葉を聞いたことがありますか?


睡眠負債とは「睡眠不足は積み重なってしまうため、どこかで睡眠不足を返さない限り体や心に悪影響が出てしまう」というスタンフォード大学(アメリカ)の教授が提唱した言葉です。


令和元年の国民健康・栄養調査報告によれば日本に居住している方の平均睡眠時間が、6時間未満の割合は20代で約37%、30代で約42%、40代で約47%、50代では約51%と米国国立睡眠財団の推奨している平均睡眠時間7〜9時間に達していない方も多くいます。


中には遺伝的に睡眠時間が短いショートスリーパーの方もいますが、毎晩6時間の睡眠だけで脳のパフォーマンスを保つことができる人は1〜3%しかいないと言われています。そのため、自身で鍛えて必要な睡眠時間を少なくすることはできません。


アメリカ睡眠医学会のガイドライン
睡眠の目安(アメリカ睡眠医学会)

では子供の場合、どのくらいの睡眠時間が必要なのでしょうか?年齢によって多少異なりますが、上記の表を参考にしていただくと小さなお子さんほど大人と比べるとより多くの睡眠時間を必要とすることがわかります。


日本は世界と比較すると、大人だけでなく子どもも平均睡眠時間が少ないといわれています。日本を含むアジア(中国、韓国、インド)の9〜18歳の子どもの平均睡眠時間はヨーロッパの子どもと比べて1日あたり1〜2時間短く、アメリカの子どもより40〜60分短いことが報告されています。


日本ではこの対策として2013年に文部科学省が「中高生を中心とした子供の生活習慣づくり検討委員会」を設置、2014年に厚生労働省が「健康づくりのための睡眠指針2014」を発表し、子どもの睡眠習慣への支援を行なっています。


このような中で見落とされがちなのが子供のいびきです。いびきは単なる音の問題ではなく、睡眠の質を大きく損なうサインであり、特に子供の場合は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の予兆であることも少なくありません。OSAになると成長ホルモン分泌や脳への酸素供給に悪影響を与え、発育や認知機能にリスクが生じます。さらに、口呼吸の習慣化による歯並び・あごの成長への悪影響も無視できません。


実際、当院に歯並びの相談で来院されるお子さんの中には、「眠り」に問題を抱えているケースが多く見られます。これを放置したまま歯科矯正治療をしても、歯並びの再発や治療の進行遅延を招く恐れがあります。そのため、矯正治療と並行して睡眠環境の改善や医科との連携を進めることが重要です。


ここから先は、子供のいびきと睡眠時無呼吸の関係、歯並びへの影響、治療法、そして医科と歯科の連携について解説します。この記事がお子さんのいびきで悩んでいる親御さんの参考になれば幸いです。



いびきはなぜ起こるの?


いびきは「酸欠気味の浅い眠り」のことです。


正常な睡眠状態は気道が塞がれることなく、十分な幅があるため、息がスムーズに通ります。その後、肺から全身・脳に十分に供給されるため、細胞の修復や代謝が行われて、疲労が回復し成長も順調に促されます。「寝る子は育つ」ということわざがありますが、睡眠は子どもの成長に必要です。


ところが、眠っている状態で、気道とよばれる息の通り道が何らかの原因で狭くなってしまうと、息が通る時に空気や軟組織がふるえていびきが発生します。酸欠の前段階で十分な酸素が供給されないため、眠りが浅くなり疲労が回復しにくくなります。


子供のいびきが要注意な理由


子供は疲れた時や、風邪などの体調不良の時はいびきをする場合があります。


しかし、日常いびきをかく場合は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)という「寝ている時に気道が塞がり無呼吸が起こる症状」が考えられます。無呼吸は10秒以上呼吸をしていない状態です。


ここで、いびきと無呼吸の違いについて説明します。いびきは気道と呼ばれる空気の通り道が狭くなり、周りの組織が振動したり、狭い部分に高速の気流が流れるために起こる音です。無呼吸は舌などの沈下で気道が閉鎖されてしまい気道が確保できない状態です。この状態では呼吸することができないため無呼吸となります。


無呼吸といびきの違い

大人の場合この無呼吸症状が1時間あたり5回以上だと軽度、15回異常だと中等度、30回異常だと重度の睡眠時無呼吸と診断されます。一方、子どもの場合は1時間に1回でも軽度の睡眠時無呼吸と診断されます(重度は10回以上)


以下の症状がある場合には、閉塞性睡眠時無呼吸の可能性が考えられます。


  • いびきをかく日が週に5日以上ある

  • 寝ている時に口を開けていることが多い

  • 寝ている時に呼吸が止まる

  • 寝相が悪い

  • 寝汗をかく

  • 何度も寝返りをうつ

  • よだれが出る

  • 口臭がある

  • 睡眠中にせきこむことが多い

  • 食事時間が長いように感じる

  • 肉や繊維質の野菜を食べにくそうにしている


いびきが激しく呼吸が途中で止まってしまう子供は、しっかりとした睡眠をとることができません。睡眠不足の子どもは成長ホルモンの分泌がうまくいかず、発育障害のリスクもあります。


小児の睡眠時無呼吸は、脳と体の酸素が不足することでIQ(知能指数)が最大20ポイント低下し、ADHD(注意欠如・多動性障害)のリスクは5倍上がる可能性があることが報告されています。


そのため、子供のいびきは早期の対策が必要と考えられます。


子供のいびきの原因は?


子供のいびきの原因の多くが扁桃腺が腫れて大きくなることによって気道が狭くなることです。


扁桃腺は児童〜学童期にかけてリンパの発達により異常に大きくなります。鼻やのどに関係する扁桃腺が肥大すると、空気の通り道を狭くしてしまいます。


そのため、鼻から呼吸が難しくなる、鼻詰まりが起きやすい等を引き起こします。


いびきに関係する扁桃腺は、口蓋扁桃(こうがいへんとう)と咽頭扁桃(いんとうへんとう)があります。


1. 口蓋扁桃(こうがいへんとう)


腫れていると口を開けた時に目で確認できる扁桃腺です。5〜7歳が大きさのピークで、小学生後半から小さくなります。


口蓋扁桃

2. 咽頭扁桃(いんとうへんとう)


咽頭扁桃(アデノイド )
寝ている状態での咽頭扁桃(アデノイド )の位置

咽頭扁桃はアデノイドともよばれます。鼻の奥に存在する扁桃腺で、直接目で見ることはできません。3歳から大きくなり7〜8歳がピークです。10歳頃から次第に小さくなっていく傾向があります。


いびきは歯並びに影響するの?


いびきをかく子供は、鼻で呼吸ができず、口で呼吸してしまう傾向があります。


口呼吸

そのため口呼吸によって、「お口周りの筋肉へ悪影響を与える」「成長ホルモンの分泌が少なくなりあごの成長発達が悪くなる」「永久歯が並ぶスペースが不足する」などの歯並び異常をおこすことがあります。


小児のいびき対策は?


小児の閉塞性睡眠時無呼吸の治療として、扁桃腺(口蓋扁桃・アデノイド )が原因の場合は、薬で扁桃腺(口蓋扁桃・アデノイド)の腫れを抑える方法や、扁桃腺を切除する方法などがあります。


睡眠医療をおこなっている医療機関(医科)では、閉塞性睡眠時無呼吸の検査として自宅で可能な簡易検査と、1泊2日入院をして精密な検査をする睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)を行なっています。


睡眠時無呼吸の簡易検査
睡眠時無呼吸の簡易検査

他にも軽度〜中等度の場合はオーラルアプライアンスとよばれるマウスピース型の装置を歯科医院で制作して装着したり、中等度以上の場合は CPAP療法を行うことがあります。


ただし小児の場合オーラルアプライアンスは歯の生え変わり等を考慮するため医科でも処方する機会は稀です。


オーラルアプライアンス(睡眠用マウスピース)
オーラルアプライアンス(睡眠用マウスピース)

睡眠時無呼吸とCPAP

成人の場合は軽度から中等度まではオーラルアプライアンス、中等度以上の場合にはCPAP療法があります。


日常よくいびきをかく場合には、睡眠科・小児科と歯科の連携が大切です。


医科との連携

睡眠時無呼吸はアメリカやヨーロッパでは肥満が多いのに対し、アジア人ではあごの成長不足や変形が原因となることが多いです。そのため、歯科では「上のあごを矯正装置で拡大する」「筋機能のトレーニング等を続けあごの育成をする」ことで、あごの成長を促して、いびきと歯並び・かみ合わせの対策をする場合があります。



まとめ


1. いびきは「酸欠気味の浅い眠り」である。


2. 子供のいびきは発育に影響する。


3. 子供のいびきにはのどの近くの扁桃腺が関係している


4. 子供のいびきは口呼吸に関わりがあり、歯並び異常につながることもある



この記事を書いた人


かわべ歯科 川邉滋次

かわべ歯科(静岡県菊川市半済の歯科医院)

理事長 川邉滋次(歯科医師 日本睡眠学会所属 小児矯正・予防歯科)



参考文献


1. Paruthi, Shalini, et al. "Recommended amount of sleep for pediatric populations: a consensus statement of the American Academy of Sleep Medicine." Journal of clinical sleep medicine12.6 (2016): 785-786.


2. 厚生労働省. 令和元年国民健康・栄養調査報告. 2019: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html


3. Fuligni, Andrew J., et al. "Individual differences in optimum sleep for daily mood during adolescence." Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology 48.3 (2019): 469-479.


4. Tan, Hui-Leng, David Gozal, and Leila Kheirandish-Gozal. "Obstructive sleep apnea in children: a critical update." Nature and science of sleep (2013): 109-123.


5. Caprioglio, A., et al. "Prevalence of malocclusion in preschool and primary school children with habitual snoring and sleep-disordered breathing." European Journal of Paediatric Dentistry 12.4 (2011): 267-271.


6. Vgontzas, Alexandros N., et al. "Sleep deprivation effects on the activity of the hypothalamic–pituitary–adrenal and growth axes: potential clinical implications." Clinical endocrinology 51.2 (1999): 205-215.

コメント


この投稿へのコメントは利用できなくなりました。詳細はサイト所有者にお問い合わせください。
Copyright kawabeshika All Right Reserved.
bottom of page