先進の歯科クリーニング:エアフロークリーニングとは?
- 歯科医師 川邉滋次
- 5月7日
- 読了時間: 9分
更新日:17 時間前
はじめに-エアフロークリーニングをご存知ですか?

この記事では、歯科医療で使用される先進的なクリーニング方法「エアフロークリーニング」の特徴と効果について紹介します。エアフロークリーニングは、別名「ジェットクリーニング」「パウダークリーニング」「エアアブレーション」などとも呼ばれ、むし歯や歯周病の予防・改善に効果的な方法として注目されています。
▼目次
エアフロークリーニングとは?
エアフロークリーニングは、圧縮空気でパウダー(粉)を歯に吹き付ける機器です。パウダーの飛散や詰まりを防ぐため、同時に水を噴射させています。この方法は、従来の歯のクリーニングに比べて歯を傷つけることなく、効率的に汚れを落とすことが可能です。エアフローは、高圧で噴射された微細なパウダーを使用し、歯周ポケット内の細菌や汚れを取り除きます。

エアフローの大きなポイントは、歯周病に悩む患者さんにとって有効な治療法であることです。歯ぐきの中にたまるプラークを効果的に除去することで、歯周病の進行を防ぐことが期待されます。
臨床研究では、エアフロークリーニングを毎月行うことで、歯周病菌の数が減少し、歯周病の改善が見られたという結果が報告されています。これにより、定期的なエアフロークリーニングが歯周病の進行を防ぐために有効であることが確認されています。
歯周ポケット内でバイオフィルムが増殖すると、自分の身体の免疫反応で細菌を排除しようとする白血球や抗体が出現しますが、細菌はバイオフィルムで保護されており、それらの攻撃を受けません。さらに、バイオフィルム内部の細菌は代謝活性が低下しているため、抗菌薬などの化学療法が効かず、物理的な除去が必要となります。
その効率的な方法として、近年、エアアブレージョンを使用したメンテナンスが注目を集めています。特に予防歯科が進んでいる北欧では、この施術方法がすでにスタンダードとなっています。
過去にもエアフロークリーニングは存在していた!?
エアフロークリーニングは、近年注目される先進的な清掃方法ですが、その起源は西暦2000年頃にさかのぼります。初期のエアフロークリーニングは、現在の歯周病ケアやプラーク除去を目的としたものではなく、主にむし歯の切削や着色除去が目的でした。
むし歯の切削には、「酸化アルミナ」という粉を使用し、強い圧力で歯に吹き付けることで、回転切削器具に比べて痛みの少ない切削が可能となります。また、バイオガラスという粉を使用すると、知覚過敏やう蝕(初期う蝕)の予防効果が期待できるとも報告されています。
着色の除去には、「重炭酸ナトリウム」「炭酸水素ナトリウム」「炭酸カルシウム」などのパウダーが使用され、これらが歯の表面に付着した着色を効果的に除去します。
ただし、これらの粉が歯ぐきや口腔内(歯ぐきや頬の内側)に触れると、チクチクした感覚を覚えることがあります。そのため、事前に歯ぐきを保護したり、当たらないように注意して施術する必要があります。
また、使用後に粉が溶けにくく、口の中に残ってザラついたり、塩辛く感じることがあり、不快に思うこともあります。他にも、この方法には一部の患者に対して使用制限があり、高血圧の方や塩分摂取制限がある患者には適さない場合があるなど、使用機会が限られるという欠点も存在します。
エアフロークリーニングが海外で一般的になった理由とは?
過去に問題点が多かったエアフロークリーニングですが、近年海外で一般的なメンテナンス方法となった理由として、主に「パウダーの進化」が挙げられます。ここでは、パウダーの進化について2つのポイントを紹介します。
1. 水で溶ける
エアフロークリーニングに使用される水溶性パウダー(グリシン、エリスリトール、トレハロースなど)が登場しました。これらのパウダーは、お口の中の水分と反応して溶ける特性があり、クリーニング後のザラつきが非常に少ないため、快適に施術を受けることができます。また、この「溶ける」特性により、従来の機械的なクリーニング方法に比べて、痛みや不快感が軽減される点が大きなメリットとなっています。
2. 甘み
水溶性パウダーには甘みがあり、使用感が不快ではありません。また、これらの成分は高い安全性を誇り、口腔内での使用において問題ないとされています。
<グリシン>
グリシンはアミノ酸の一種で、食品や医薬品にも広く使用されています。細菌の繁殖を抑える働き(静菌作用)があり、食品には静菌剤として使用されるほか、旨味があるため調味料としても利用されています。
歯科では、導入当初から最も使用されている粉の一つで、臨床研究が他のパウダーと比べて豊富です。歯ぐきの上のプラーク(バイオフィルム)だけでなく、歯ぐき内部にも安全に使用することができます。頑固な着色は除去しにくいため、その場合は他のパウダーと併用されることがあります。
粒子はほぼ球体ですが、表面に若干の凹凸があり、直径は18〜25マイクロメートルと細かい粒子であるため、歯ぐき内部にも安心して使用できます。
使用感は優しく、若干の甘みがあり、お子さんでも受け入れやすいです。
<エリスリトール>
エリスリトールは、とうもろこしを原料に発酵製造されます。キシリトールの仲間である「糖アルコール」の一種で、食品添加物や砂糖の代用品として使用されています。砂糖(ショ糖)の約60〜70%の甘さを持っていますが、エリスリトールはカロリーがほとんどなく(0.2キロカロリー)、血糖値に影響を与えることなく、むし歯の原因にもなりません。
また、抗菌作用があり、プラークを減少させ、むし歯抑制効果が期待されています。グリシンよりも甘みが少なく、すっきりとした後味があります。
粒子は14マイクロメートルと非常に細かく、パウダーを触っても粒子感を感じることはありません。
<トレハロース>
トレハロースは、グルコース(ブドウ糖)が結合してできた二糖類で、自然界にも存在します。特に、きのこ類に多く含まれ、「マッシュルーム」とも呼ばれることがあります。
粒子の大きさにはばらつきがあり、直径は30〜60マイクロメートルです。
エアフローの良い点は?
1. 歯や歯ぐきへの負担が少ない
エアフローの大きなメリットの一つは、その「優しさ」です。従来のスケーリング(超音波を使用して汚れを取り除く方法)では、歯に直接触れるため、敏感な方は痛みやしみる感覚を感じることが多いですが、エアフローは歯に優しく、痛みを感じることが比較的少ないです。また、知覚過敏を持っている人でも、エアフローを使用した場合、痛みを感じにくいとされています。
2. むし歯・歯周病の予防と改善が期待できる
エアフロークリーニングと従来のクリーニング(PMTC-ブラシなどを使った機械的クリーニング)は、虫歯や歯周病の原因となるバイオフィルムを除去できる点で共通しています。しかし、エアフローは小窩裂溝(しょうかれっこう)と呼ばれる歯のかみ合わせ面の深い部分や、矯正装置が歯に接着している状態、一部だけ見えている親知らず(半埋伏智歯)、被せ物や詰め物の境目、歯の根本部分、歯並び異常(凸凹)など、従来のクリーニングでは届きにくかった部位にもアプローチできるため、よりむし歯や歯周病の予防と改善が期待できます。

3. 着色汚れに対しても高い除去効果が期待できる
タバコのヤニやお茶、コーヒーなどによる着色汚れに対しても高い除去効果が期待できます。

4. 不快な音や振動が少ない
歯科医院で不快と感じる理由の一つに「音」と「振動」があります。エアフロークリーニングは、キーンという機械の回転音がなく、歯に直接触れずに清掃を行うため、振動を感じることもありません。
エアフローメインテナンスのデメリット
エアフロークリーニングは安全性が高く快適な清掃方法ですが、欠点として「使用できない症例」「使用上注意した方が良い症例」「粉の種類による禁止症例」「処置後の注意事項」が存在することが挙げられます。
1. エアフロークリーニングが使用できない症例
ぜんそくなどの呼吸器系の病気がある方
アレルギー・過敏症体質のある方
お口の中にケガや骨の異常のある方
2. エアフロークリーニングを使用上注意した方が良い症例
妊娠中および授乳中の方
妊娠中や授乳中の方は歯ぐき周りのポケット内の清掃はできませんが、歯の表面のクリーニングは可能です。
重度の歯周病がある方
3. 粉の種類による禁止症例
高血圧・高ナトリウム血症などのナトリウム摂取制限がある方
→炭酸水素ナトリウムパウダーが使用できません
香料成分(シトラス・ミントなど)にアレルギーがある患者
→炭酸水素ナトリウムパウダーが使用できない場合があります
歯の表面(エナメル質)にむし歯や損傷部位がある・エナメル質形成不全
→トレハロースが使用できない場合があります
4. 処置後の注意点
処置後すぐに喫煙や色素沈着しやすい飲食は控える
処置後、歯の表面は清掃で汚れが除去されており、色素が沈着しやすい状態です。術後2時間は喫煙や色素沈着のしやすい飲食は控えるようにしてください。
エアフロークリーニングも定期的な施術が大切
エアフロークリーニングは、歯周病の予防だけでなく、全体的な歯の健康を保つためにも重要です。歯周病が進行している方は、少なくとも3ヶ月に1回のペースでエアフロークリーニングを受けることをおすすめします。それによって、歯周ポケット内の細菌を効果的に除去でき、歯周病の進行を防ぐことができます。
また、3ヶ月ごとのクリーニングだけでなく、歯周病がかなり進行している場合は、月に1回のペースでクリーニングを行うことが推奨されています。
まとめ
1. エアフロークリーニングは圧縮空気で粉を歯に吹き付ける方法。
2. エアフロークリーニングは歯周病予防に有効で、歯周ポケット内の細菌を除去する。
3.使用される水溶性パウダーは、吹き付け時に痛みや不快感を軽減する。
4. 歯や歯ぐきに優しく、知覚過敏のある人にも安心できる清掃法
5. むし歯や歯周病の予防、着色汚れの除去に効果的
6. 粉の進化で甘みがあり、快適に施術が可能。
7. 定期的な施術が重要で、歯周病の進行防止に役立つ
エアフロークリーニングは、歯周病の予防や改善に非常に効果的であり、痛みが少ないため、敏感な方にも安心して受けられるクリーニング方法です。定期的にエアフロークリーニングを受けることをお勧めします。
この記事を書いた人

かわべ歯科院長 歯科医師 川邉滋次
参考文献
1.佐藤かおり, et al. "噴射切削装置 Whisper-jet (KCP1000) の臨床応用に関する研究 第二報 人工的に軟化させた象牙質に対する噴射切削効果." 日本歯科保存学雑誌 43.2 (2000): 547-554.
2.Bühler, J., et al. "A systematic review on the effects of air polishing devices on oral tissues." International journal of dental hygiene 14.1 (2016): 15-28.
3.Barnes, Caren M., et al. "An in vitro comparison of the effects of various air polishing powders on enamel and selected esthetic restorative materials." J Clin Dent 25.4 (2014): 76-87.
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