黒糖やハチミツは白砂糖と比べて栄養があるの?むし歯のなりやすさは違うの?
- 歯科医師 川邉滋次

- 11月4日
- 読了時間: 6分
はじめに-黒糖やハチミツは栄養があって身体に良さそうだけど、むし歯のなりやすさも変わるの?
▼目次

「黒糖」や「ハチミツ」は自然の恵みからできた甘味料として、「体に良さそう」「砂糖より安心」と思われる方も多いのではないでしょうか。たしかに、黒糖にはミネラル、ハチミツには抗菌作用など、健康にうれしい成分が含まれています。
しかし、「むし歯になりやすさ」という視点で見るとどうでしょうか?実は、自然由来の甘味料でも「糖」を多く含んでいるため、むし歯菌のエサになりやすく、歯の健康には注意が必要なのです。
今回は、砂糖の歴史や種類の解説と、黒糖やハチミツと「むし歯のリスク」との関係を歯科の分野からわかりやすく紹介します。
砂糖の原料は?

砂糖の原料として、サトウキビやてんさい(サトウダイコン)が挙げられます。
暖かい地域ではサトウキビが、寒い地域ではてんさいが栽培されています。
サトウキビの歴史と日本の黒糖との関係

皆さんが砂糖の原料として最初に思いつくのがサトウキビではないでしょうか?
サトウキビは東南アジアからニューギニアにかけての熱帯地域が原産で、紀元前4000年頃にはすでに甘味の源として利用されていました。その後、インドで「砂糖を煮詰めて固める技術」が発達し、これがシュガー(Sugar)の語源となりました。やがてアレクサンダー大王の遠征を通じて中東・地中海へ伝わり、イスラム圏で精製技術が発展します。ヨーロッパでは「白い黄金」と呼ばれるほど高価な嗜好品でした。
15〜16世紀の大航海時代にコロンブスがサトウキビをカリブ海地域へ持ち込み、プランテーションが拡大。世界の砂糖生産が急増しました。日本には16世紀、琉球王国を経て伝わり、温暖な気候のもとで「黒糖」として生産が広まりました。今でも沖縄・奄美地方では伝統的な黒糖づくりが受け継がれています。
日本の砂糖の原料の8割を占めるてんさい(サトウダイコン)とは?

てんさいは地中海沿岸が原産で、もとは家畜のエサでした。1747年にドイツの科学者マルクグラフがてんさいから砂糖を抽出することに成功し、19世紀には産業化が進みます。ナポレオン戦争時の「大陸封鎖」を契機にヨーロッパ諸国で栽培が拡大し、寒冷地でも生産できる重要な甘味資源となりました。

現在では、日本で作られる国産の砂糖のうち約8割がてんさいから作られています。また、日本全体の砂糖の消費量のうち約3割がてんさい糖です。北海道・帯広市には「ビート資料館」という施設があり、てんさい糖の歴史や砂糖作りの技術を学ぶことができます。てんさい糖は、北海道の農業や産業、そして地域の文化を支える大切な存在となっています。
こんなにもあった!?砂糖の種類
上白糖

上白糖は、日本で最も一般的に使われている砂糖です。サトウキビやてん菜から作られ、不純物を取り除いて白く精製されています。しっとりした質感とまろやかな甘さが特徴で、料理やお菓子作りに幅広く使われます。
三温糖

三温糖は、上白糖などを作る過程で出る糖液を再び煮詰めて作られた砂糖です。茶色い色はカラメル化した成分によるもので、香ばしい風味があります。コクのある甘さが特徴で、煮物や佃煮などに向いています。
和三盆

和三盆は、主に徳島や香川で作られる高級砂糖です。サトウキビの一種「竹糖(ちくとう)」から作られ、手作業で何度も精製されます。上品でやさしい甘さと、口どけの良さが特徴で、和菓子に使われます。
黒糖

黒糖は、サトウキビの絞り汁をそのまま煮詰めて作る砂糖です。独特のコクと香ばしさがあります。沖縄や奄美地方の特産です。
黒糖はむし歯の原因になるの?
黒糖(黒砂糖)は精製度が低く、カルシウムやカリウムなどのミネラルがわずかに含まれています。しかし主成分は約90%がショ糖であり、白砂糖とほぼ同じです。
むし歯菌(ミュータンス菌)は糖を分解して酸を作り、歯を溶かすため、黒糖を摂取してもむし歯のリスクは白砂糖と変わりません。
栄養面だけで黒糖を選んではいけない理由
黒糖には確かにカルシウム・カリウム・鉄分などのミネラルが含まれていますが、その量はごくわずかです。

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によると、黒糖100g中のショ糖は約90g以上を占めます。
成人のカルシウム推奨摂取量は1日660mgですが、これを黒糖で補うには約275gもの摂取が必要です。一方、糖類の1日摂取目安は25g前後とされるため、黒糖で栄養補給をしようとすると糖質過多になり、むしろ健康を損なうおそれがあります。
つまり、砂糖でミネラルを補うのは現実的ではなく、「健康によい砂糖」は存在しないといえます。黒糖を選ぶ際は味や風味を楽しむ目的にとどめる方が良いでしょう。
ハチミツはむし歯の原因にならないの?

ハチミツは、花の蜜に含まれるスクロース(ショ糖)をミツバチの酵素でグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)に分解したものです。
抗菌作用はありますが、糖分が非常に多く、砂糖と同様にむし歯の原因になります。
自然由来であっても「糖」を多く含む甘味料は、むし歯のリスクを持つことを忘れてはいけません。
まとめ
黒糖やハチミツは自然由来でも糖が多く、むし歯の原因になりやすい。
砂糖の歴史は古く、サトウキビが甘味料の源として世界に広がった。
日本では琉球で黒糖文化が発展し、今も伝統的な製法が受け継がれている。
てんさい糖はヨーロッパで発展し、北海道を中心に日本でも生産が続く。
黒糖はミネラルを含むが糖分が90%以上で、健康目的での摂取は不適切。
ハチミツや水飴も糖を多く含み、砂糖と同様にむし歯のリスクがある。
この記事を書いた人

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
砂糖やハチミツより注意が必要なのが、ジュースや炭酸飲料に多く使われる「異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)」です。これはデンプンを分解して作る甘味料で、体に吸収されやすい果糖を多く含みます。吸収が早いため血糖値が急上昇しやすく、肥満や脂肪肝、糖尿病の原因になることもあります。また、むし歯菌のエサにもなるため、砂糖と同じようにむし歯のリスクも高まります。
参考文献
1. 独立行政法人 農畜産業振興機構. 砂糖の種類. https://www.alic.go.jp/consumer/sugar/variety.html
2. 文部科学省 科学技術・学術審議会資源調査分科会 編.日本食品標準成分表(八訂)増補2023年.東京都:文部科学省. 2023.
3. 伊藤直人. カリエスブック .医師薬出版. 2020, 58.
4. Neff, D. "Acid production from different carbohydrate sources in human plaque in situ." Caries Research 1.1 (1967): 78-87.
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