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非常時・災害時に歯磨きできない!? 防災対策として知っておきたい口腔ケア

更新日:9月25日

はじめに-防災用品を揃えることは大切。その中に歯磨きグッズはありますか?


▼目次


災害時の歯磨き

地震や豪雨といった大きな災害が起こると、まず優先されるのは食料や住まいの確保です。そのため、歯磨きやうがいといったお口の中のケアはどうしても後回しにされがちです。しかし、お口の健康は「食べる」「話す」といった生活の質に直結するだけでなく、虫歯や歯周病、さらには全身の感染症予防にもつながる大切な要素です。


私自身も過去に災害で停電や断水を数日間経験しました。暗い部屋での生活や、給水車からいただく限られた水でのやりくりは、普段の快適さを痛感させられるものでした。その中で特に困ったのが、災害時は歯磨きが思うようにできないこと。口の中が不衛生な状態になると不快感が続くだけでなく、体調を崩すリスクまで高まるのだと実感しました。


だからこそ、防災用品を揃える際には食料や水と同じくらい「歯磨きグッズ」を意識していただきたいのです。今回は「災害時に欠かせない口腔ケア」について、その重要性と具体的な対策をご紹介します。


災害時は思うように歯磨きができない理由


地震や台風などの災害が起きると、普段の生活が大きく変わってしまいます。その中で歯みがきが思うようにできなくなるのは様々な理由があります。


1. 水が自由に使えない


断水

まず、水が自由に使えないことが大きな理由です。断水になると、どうしても飲み水や料理に使う水が優先され、歯みがきやうがいにまわす余裕がなくなります。


2. 避難所では環境が限られる


避難所

避難所ではたくさんの人が一緒に生活するため、洗面所が混んでいたり、ゆっくり歯を磨ける場所や時間がとれなかったりします。


3. 歯ブラシや歯磨き粉が手元にない場合がある


歯ブラシと歯磨き粉

災害直後は食べ物や毛布などが優先的に配られるため、歯ブラシや歯みがき粉が手に入らないことも少なくありません。


4. 気持ちに余裕がない


災害のショックや優先しなければいけないことが山積みのため、心や体に余裕がなくなり、歯みがきは後回しになってしまうこともあります。


5. 高齢者や子供は特に大変


子供への歯磨きが中断した理由
子供への歯磨きが中断した理由

避難生活では入れ歯を外す場所の不便さや、入れ歯を使っている方は洗う水や容器がなくて困ることがあり、口の中が不潔になりやすくなります。小さなお子さんは生活リズムが乱れて歯みがきの習慣が続けにくくなります。


このように、水や道具、環境や気持ちの余裕がなくなることで、災害時には歯磨きが難しくなってしまうのです。


なぜ災害時に歯磨きが必要なの?


災害が起こり避難生活が長くなると、水が不足して歯みがきができないだけでなく、栄養不足や睡眠不足、強いストレスなどによってお口の機能が低下しやすくなります。


お口を清潔に保てない状態が続くと、虫歯や歯周病が進むだけでなく、風邪やインフルエンザといった感染症にもかかりやすくなります。特に高齢者では、お口の中の細菌が誤って肺に入り、炎症を起こす「誤嚥性肺炎」の危険が高まります。研究によっても、お口の中のケアをしっかり行うことで肺炎の発症を大幅に減らせることがわかっています。


実際に東日本大震災や熊本地震では、多くの方が「災害関連死」として避難生活中に命を落としました。その一因に、誤嚥性肺炎をはじめとする感染症があります。


避難所でのリスクは年齢や状況によっても異なります。子どもは菓子パンなど甘い食べ物を食べる機会が増え、歯みがきができないことでむし歯が進みやすくなります。成人は歯周病が悪化しやすく、それが糖尿病などの全身の病気を悪化させることにもつながります。


このように災害時の口腔ケアは「歯の健康」を守るだけではありません。感染症や肺炎を防ぎ、命を守ることにつながるのです。非常用持ち出し袋に歯ブラシや口腔ケア用品を入れておくこと、避難生活でもできる範囲でお口を清潔に保つ工夫をすることがとても大切です。


歯ブラシや水がない時でも歯磨きをする方法があります


<水が少量しかない場合>

  • 少量の水で歯ブラシを湿らせて磨く

  • 汚れたらその都度ティッシュペーパーやウェットティッシュなどで歯ブラシを拭く

  • 少量の水しかない場合は1回でゆすぐよりも2〜3回に小分けにしてうがいをする。


<水が使えない場合>


  • 液体歯磨きを使えばうがい不要

  • 洗口液(マウスウォッシュ)のみある場合は、歯磨き後に使用

  • 刺激が少ない子ども用タイプもあるため、備蓄におすすめです。


<歯ブラシがない場合>


  • 食後に少量の水やお茶でぶくぶくうがい

  • 水分をしっかり摂って耳下腺・顎下腺・舌下腺をやさしくマッサージして唾液分泌を促す。唾液には汚れを洗い流す働きがあります。

  • タオルやティッシュで歯の表面を拭って汚れを除去

  • 防災グッズとして「歯磨きシート」があるため指に巻いて拭くのもOK


歯磨きシートの使用方法
歯磨きシートの使用方法→指に巻く

防災袋(非常用持ち出し袋)に入れておきたい歯磨き用品チェックリスト


  • 歯ブラシ・歯磨き粉

  • 液体歯磨き

  • デンタルフロス・歯間ブラシ

  • ウェットティッシュ

  • キシリトールガム(キシリトール100%のもの)

  • 洗口液

  • 入れ歯用ブラシ・洗浄剤・入れ歯ケース


緊急時入れ歯のお手入れはどうしたらいいの?


入れ歯は毎日のお手入れが大切です。可能であれば1日1回以上は外し、ウェットティッシュやガーゼで清掃してください。部分入れ歯や金属床の金属部分は汚れが残りやすいため、歯ブラシや綿棒を使って丁寧に磨きましょう。


入れ歯洗浄剤がない場合でも、食器用の中性洗剤を使って洗うことができます。ただし、研磨剤入りの歯磨き粉は入れ歯を傷つける原因になるため避けてください。


また、入れ歯は乾燥に弱いため、外して保管する際は水を入れた容器に浸けておくのが理想です。災害時や水不足などでそれが難しい場合は、湿らせたティッシュや布で包むことで乾燥を防ぐことができます。


災害で入れ歯を紛失・破損!?そんな「まさか」に備えるためのスペア入れ歯は必要なの?


災害で一時避難を余儀なくされて入れ歯を取りに自宅に戻れない、もしくは家屋が倒壊してしまって入れ歯を失ってしまうことも想定されます。実際、東北大学大学院歯学研究科保健学分野では「東日本大震災被災地で入れ歯利用者の17.3 %が入れ歯を喪失した」という報告があり、昭和大学医療救援隊によると「東日本大震災で歯科医療活動をしていた中、入れ歯の不具合が22%と最も多く、続いて入れ歯の紛失が17%と入れ歯関連の受診者が多かった」という報告があります。


いざという時に困らないように、日頃から「失くさない工夫」と「備え」を意識しておきましょう。


入れ歯がない被災者は、お口の中の健康状態が悪化します。また、入れ歯が使えないと食事や会話に大きな支障が出てしまい、健康にも影響します。そのようなまさかに備えてスペアの入れ歯を考える方もいるでしょう。


<保険診療でスペアは作れる?>


保険診療では、同時に2つの入れ歯を作ることはできず、原則1つだけ。新たに作るには前回から6か月以上経過が必要です。どうしても予備が欲しい場合は自費診療で作ることは可能ですが、費用はやや高額になります。


<昔の入れ歯を保管しておけば問題ない?>


普段使わない入れ歯は何年も経過していると、いざ装着した時に合わないことが多く、痛みやかみ合わせの不具合、部分入れ歯の場合支えている歯の大きな負担になることがあります。また、乾燥状態で保管すると割れやすく、湿った状態で洗わずに長時間放置しているとカビが生えることもあります。


<事前に準備しておくと被災時に入れ歯を届けてくれるサービスとは!?>


光学印象
光学印象(画像での型取り)

歯科医療の発達で型取りも光学印象という3次元の画像データで型取りをすることが可能になりました。今までは石膏模型という物で管理していましたが、地震など模型が衝撃を受けると割れたりして使用できなくなる場合もあります。


入れ歯の3Dデータ
入れ歯の3Dデータ

しかし、3Dデータであればパソコン等が壊れたとしてもクラウドというデータの倉庫等に入れておけばどのパソコンからでも使用することが可能です。この3Dデータを使用して被災を受けていない地域の技工所の3Dプリンターで造形することで速やかに入れ歯のコピーが作成でき、送ることが可能となります。


例として「入れ歯銀行」は義歯の形を3Dデータ化して無料で保管するサービスです。災害や紛失・破損時でも短期間で義歯を作り直せるよう備えており、全国23の歯科医院が提携しています。データの保管は無料で利用できる点が特徴(入れ歯を作る際にはデータ引き出し手数料と入れ歯製作料は発生します)で、犬に噛まれた等平時でも予備の義歯を希望する人が多く、誤嚥性肺炎の予防や生活の質の向上にも役立っています。


もう一つ、「レスキューデンチャー」は新しい入れ歯を作る際に、完成した入れ歯のデータを保管しておき、災害時に入れ歯を短時間で制作し発送するサービスです。


どちらも登録しておくと安心できるサービスですが、データ取得日から長期間経過していると作った入れ歯が合わなかったり、噛み合わせに不具合が生じたりする場合があるため3年に1回は定期的に入れ歯データを更新しておくのが良いと思われます。



まとめ


1. 災害時は断水・避難所環境・道具不足・心身の余裕の欠如で歯磨きが困難になる。


2. 口腔不衛生は虫歯や歯周病だけでなく誤嚥性肺炎など命に関わる感染症リスクを高める。


3. 水や歯ブラシがなくても、少量の水・ティッシュ・液体歯磨き・歯磨きシート等で代用可能。


4. 防災袋には歯ブラシ・歯磨き粉・液体歯磨き・フロス・ガム・洗口液・入れ歯用品を入れておくことを推奨。


5. 入れ歯は毎日清掃・保湿が重要で、洗浄剤がなければ中性洗剤や湿布保管で対応可能。


6. 入れ歯の紛失や破損に備えて、スペアや3Dデータ保管サービス(入れ歯銀行・レスキューデンチャー)の活用を。


災害時こそ、お口の健康を守ることが体を守ることにつながります。日頃から口腔ケア用品を避難袋に入れて備え、非常時にも慌てないようにしましょう。



参考文献


1.小島香, et al. "災害時の口腔保健および栄養ケアに関する支援活動体制の検討~ 能登半島地震の支援活動を通して~." 日本在宅医療連合学会誌 5.3 (2024): 26-28.


2.足立了平. "災害時の口腔ケア." 日本プライマリ・ケア連合学会誌 34.3 (2011): 245-248.


3.Yoneyama, Takeyoshi, et al. "Oral care and pneumonia." The Lancet 354.9177 (1999): 515.


4.Yukihiro Sato, et al. Impact of Loss of Removable Dentures on Oral Health after the Great East Japan Earthquake: A Retrospective Cohort Study. Journal of Prosthodontics(2014)


5.宮﨑隆, et al. "東日本大震災に派遣された昭和大学医療救援隊における歯学部職員・大学院生の活動報告." Dental medicine research 31.2 (2011): 185-199.


 
 
 

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