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歯医者さんが苦手な子には、ちゃんと理由があります:発達障害のある子どもの歯科治療で大切にしたいこと

▼目次


はじめに-歯科で困っている発達障害のあるお子さんとご家族へ


「歯医者さんに行くだけで泣いてしまう」

「診療台に座ることができない」

「口の中を触られるのをものすごく嫌がる」

「家でも歯磨きをさせてくれない」


お子さんの歯科受診について、こんな悩みを抱えている保護者の方はいませんか?

特に、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)など、発達に特徴のあるお子さんでは、歯医者さんがとても苦手ということがあります。


でも、それを単純に「怖がりだから」「我慢ができないから」「わがままだから」と考えてしまうのは、少し違うかもしれません。


実は、その子にしかわからない「苦手な理由」が隠れていることがあります。

今回は、発達に特徴のあるお子さんが歯医者さんを苦手とする理由と、私たち歯科医院にできる工夫についてお話しします。



歯医者さんは刺激だらけの場所です


大人にとっては何でもない歯科医院の診療室。でも、子どもの目線になって考えてみると、実はいろいろな刺激があります。


たとえば、

  • 「キーン」という機械の音

  • 顔の近くを照らす明るいライト

  • 水を吸う機械の音や感触

  • 口の中に器具が入る感覚

  • 薬や材料の独特な味・におい

  • 診療台が後ろに倒れる感覚

  • 知らない人に顔や口を触られること

などです。


歯医者で不安そうな男の子
子どもにとって歯科医院は刺激が多い

発達に特徴のある子どもの中には、音や光、触られる感覚などを人一倍強く感じる子がいます。たとえば掃除機の音を極端に嫌がったり、洋服のタグを嫌がったり、特定の食感のものをどうしても食べられなかったりすることがあります。


同じように、歯科医院の音や光、口の中を触られる感覚が、本人にとって非常につらいこともあるのです。


ですから、治療を嫌がっているように見えても、

「治療したくない!」ではなく、「この音がつらい!」「この感触が苦手!」

なのかもしれません。


何をされるかわからないのも怖い


もう一つ、子どもが不安になりやすいのが、「次に何が起こるかわからないこと」です。


大人でも、何の説明もなく突然口の中に器具を入れられたら怖いですよね。


そこで歯科医院では、いきなり治療を始めるのではなく、

①これから何をするか説明する、②使うものを見せる、③できそうなら実際にやってみる

というように、順番に進める方法があります。


たとえば、いきなり口の中に風をかけるのではなく、「ここから風が出るよ」と器具を見せて、まず手に風を当ててみる。「大丈夫そうだね。じゃあ今度は歯にやってみようか」と進めます。


ほんの少しの違いですが、「何をされるかわからない」という不安を減らすことができます。


言葉だけでは理解しにくい子には、写真やイラストを使った方がわかりやすいこともあります。


子供用説明資料
当院のイラストを使った説明資料

最初から全部できなくても大丈夫


初めて来院した日に、診察も歯磨きも治療も全部できれば理想的です。でも、すべての子がそうとは限りません。


特に歯科医院が苦手な子の場合、最初は「歯医者さんに来る練習」でもいいと考えることがあります。


今日は診療室まで入れた。次は診療台に座れた。その次は口を開けられた。さらに次は歯ブラシを口に入れられた。このように、少しずつ進める方法です。


大人から見ると小さな一歩かもしれません。でも本人にとっては、大きな一歩です。「できなかったこと」よりも、「今日はここまでできたね」を積み重ねる。それによって、歯科医院が「怖いところ」から「ここなら大丈夫かもしれない場所」に変わっていくことがあります。


歯磨きが苦手なのにも理由があるかもしれません


発達に特徴のある子では、歯科医院だけでなく、自宅での歯磨きを嫌がることもあります。

これも単なる「歯磨き嫌い」とは限りません。


歯ブラシが歯ぐきに触れる感覚が嫌なのかもしれません。歯磨き粉の味が苦手なのかもしれません。口の中に泡がたまるのが嫌なのかもしれません。長い時間じっとしていることが難しいのかもしれません。


原因が違えば、工夫の仕方も変わります。歯ブラシの種類を変える、歯磨き粉を変える、短時間で終わらせる、磨く順番を毎回同じにするなど、その子に合ったやり方を探すことが大切です。


偏食も好き嫌いだけではありません


歯科では「食べること」について相談を受けることもあります。


たとえば、

「やわらかいものばかり食べる」

「特定の食感を嫌がる」

「丸飲みしてしまう」

「食べるのにものすごく時間がかかる」

「食べこぼしが多い」

などです。


もちろん単純な好き嫌いの場合もあります。一方で、食べ物の硬さや舌触り、におい、温度などにとても敏感な子もいます。その場合、「好き嫌いせず食べなさい」と言われても、本人にとってはかなり難しいことがあります。


また、噛む、舌を動かす、飲み込むといったお口の機能そのものがまだ十分に育っていないこともあります。歯科医院では、歯だけを見るのではなく、こうした「食べる・話す・呼吸する」といったお口の働きについて確認することもできます。


ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)だからできないわけではありません


「ASDだから歯科治療は難しい」「ADHDだからじっとできない」と決めつけることはできません。


同じ診断名でも、特徴は一人ひとり違います。音は平気だけれど触られることが苦手な子。初めての場所は苦手だけれど、慣れれば平気な子。言葉だけの説明は苦手だけれど、写真を見ればすぐ理解できる子。一度覚えた手順なら、とても上手にできる子。本当にさまざまです。


だから私たちが知りたいのは、診断名だけではありません。「この子は何が苦手なのか」「何ならできるのか」「どう伝えるとわかりやすいのか」ということです。


保護者の方からの情報が大きなヒントになります


実は、お子さんのことを一番よく知っているのは、毎日一緒に過ごしているご家族です。


ですから、

「大きな音が苦手です」

「触られる前に声をかけると大丈夫です」

「見通しがわからないと不安になります」

「この言い方だと理解しやすいです」

といった情報は、歯科医院にとってとても参考になります。


遠慮せず、受診前や診察時に教えてください。

それだけで対応方法を工夫できることがあります。


無理やり治療するより、できる方法を一緒に探したい


むし歯があると、「なんとか今日治してほしい」と思うのは親御さんの気持ちとして当然です。ただ、緊急性がない場合には、無理に治療を進めることで歯科医院への恐怖心が強くなってしまうこともあります。


その後何年も歯科医院に行けなくなってしまったら、長い目で見ると本人にとって大きな負担になります。


だからこそ、「今日はどこまでならできそうか。次は何に挑戦できそうか。」

その子のペースを見ながら考えることも大切です。


もちろん、痛みや腫れがあるなど緊急の治療が必要な場合には対応が変わります。また、一般の歯科医院での治療が難しい場合には、専門的な医療機関と連携する方法もあります。


大切なのは「その子自身を見ること」


発達障害のある子どもの歯科診療について考えていくと、最終的にはとてもシンプルなところに行き着きます。


「診断名だけで判断しないこと」、そして「その子が困っていることを見つけ、その子ができる方法を一緒に探すこと」


歯医者さんに入れた。椅子に座れた。口を開けられた。歯ブラシができた。そんな一つひとつの経験が、次の「できた」につながります。


むし歯を一本治すことだけがゴールではありません。子どもたちはこれから何十年も、自分の歯と付き合っていきます。だからこそ、子どものころから少しずつ、「歯医者さん、意外と大丈夫だった」という経験を増やしてあげること。それも、子どものお口の健康を守るための大切な歯科医療だと考えています。



まとめ


  1. 歯医者さんを嫌がるのには、音・光・におい・触られる感覚など、その子なりの理由があるかもしれません。


  2. 「何をされるかわからない」不安を減らすため、説明したり、器具を見せたり、少しずつ体験することが大切です。


  3. 最初から全部できなくても大丈夫。「できたこと」を少しずつ積み重ねていきます。


  4. 歯磨きや偏食の苦手さにも、感覚の敏感さやお口の機能などが関係していることがあります。


  5. ASDやADHDという診断名だけで「できない」と決めつけず、その子自身の特徴を見ることが大切です。


  6. 保護者の方から教えていただく「苦手なこと・得意なこと」は、歯科医院での対応を考える大きなヒントになります。


  7. 無理に治療を進めるのではなく、その子に合った方法とペースで「歯医者さん、大丈夫だった」という経験を増やしていくことを大切にします。



執筆者・監修者プロフィール


静岡県菊川市かわべ歯科 院長 川邉 滋次(歯科医師)



参考文献


  1. 白瀬敏臣,加藤雄一:『かかりつけ歯科医院のためのADHD/発達障害入門』デンタルダイヤモンド社,2023.


  2. 公益社団法人 日本障害者歯科学会:障害者歯科診療における行動調整ガイドライン2024, 2024.


  3. 公益社団法人 日本障害者歯科学会:発達期障害児者の摂食機能療法の手引き.


  4. 日本歯科医学会:歯科診療に関する基本的な考え方-口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方.


  5. American Psychiatric Association. Diagnostic and statistical manual of mental disorders. American Psychiatric Association Publishing, 2022.



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