はじめに
風邪や感染症と聞くと、通常は冬に流行するイメージがありますよね。しかし、中には夏に増える風邪や感染症も存在します。
幼稚園や保育園、認定こども園にお子さんが通っている親御さんは、プール熱、手足口病、ヘルパンギーナという病気を耳にしたことがあるかもしれません。
プール熱は国立感染症研究所によると2023年11月5日までの1週間に1医療機関あたりの患者数が過去10年間で最多となっています。(全国約3000の小児科の報告より)
ヘルパンギーナは2023年6月22日に東京都全域に警報が出されています。
プール熱、手足口病、ヘルパンギーナは夏に流行するため、「3大夏風邪」と呼ばれています。これらの病気は口の中にも症状が現れることがあります。そこで、今回は3大夏風邪の特徴と口の中での症状について詳しく解説していきます。
口の中の症状から早期に3大夏風邪を発見できる可能性もあるため、参考にしていただけたら幸いです。
目次▼
プール熱について詳しく
プール熱は正式には「咽頭結膜熱」と呼ばれ、原因はアデノウイルスによる感染です。感染症法では、プール熱も5類感染症に指定されており、6月頃から増加し始め、7〜8月にピークを迎えます。主な症状には38〜39℃の発熱、のどの痛み、目の充血があります。プールの水を介した感染や、タオルやゴーグルの貸し借りによる感染が多いためプール熱と呼ばれています。高熱は5日くらい長く続くこともあります。潜伏期間は2〜14日です。
プール熱は夏にピークを迎える感染症ですが、1年中感染する恐れがあります。実際2023年では11月に患者数が増えています。子どもの集団生活の中で拡大しやすいため、保育園や幼稚園で手洗いやおもちゃの消毒、タオルを共有しないこと等が大切です。
※5類感染症とは?
5類感染症とは、国が発生や広がり具合などを把握するために調査し、必要な情報を国民に公開することで発生・拡大を防止する対象となる感染症のことです。感染症は人から人へ広がることで大流行を起こす恐れがあります。正確な情報を発信することで感染症への対策をとることが可能になります。
手足口病について詳しく
手足口病は、2歳以下に多く見られますが、6歳以下の未就学児全ての年齢で感染が報告されています。手足口病の原因はエンテロウイルス(クサッキーウイルスAなど)であり、夏の時期に流行します。感染症法では、手足口病は5類感染症に指定されており、通常は7月頃にピークを迎え、9月に収束することが多いですが、静岡県では2022年9月に手足口病の感染者が急増したとの報告もあります。
手足口病の一般的な症状には、38℃程度までの発熱(発熱しない場合もあります)、全身のだるさ、頭痛、のどや口の中の軽度の痛み、食欲不振などがあります。潜伏期は3〜5日で、口の中や手のひら、足の裏や甲などに水疱の発疹が見られます。また、ひじやひざ、お尻にも発疹が現れることがあります。
通常、手足口病の症状は軽症であり、数日間のうちに自然に治る病気ですが、まれに髄膜炎や脳炎などの合併症を引き起こす場合もあります。手足口病に一度かかると免疫ができますが、原因となるウイルスは多くの種類が存在するため、何度も感染して発症してしまうことがあります。
ヘルパンギーナについて詳しく
ヘルパンギーナは、「水疱」という意味の「ヘルペス」と、「痛み」という意味の「アンギーナ」を組み合わせた言葉です。感染症法では、ヘルパンギーナも5類感染症に指定されています。日本では5月頃より増加しはじめ、7月頃にピークを迎え、8月には減少し、9月と10月にはほとんど見られなくなります。ヘルパンギーナの原因はエンテロウイルス(多くがコクサッキーウイルスA)です。5歳以下の感染者が90%以上を占めており、1歳代が最も多く、2歳、3歳、4歳の順で多く見られます。
ヘルパンギーナの感染経路は接触感染と飛沫感染です。感染力は、発熱など症状が出るときに強くなります。潜伏期は2〜4日であり、38℃〜40℃の高熱とのどの痛み、口の中に赤く囲まれた1〜5mmの小さい水疱が現れます。これらの水泡は壊れやすく、潰れるとのどの痛みや飲み込みの困難感が生じます。全身のだるさ、吐き気、手足の痛みも一緒に現れることがあります。
2〜4日で熱が下がり、遅れて水疱の症状も消失していきます。ほとんどの場合、ヘルパンギーナの予後は良好です。
似ているような病気の違いは?
プール熱は目の症状や経路、集団の感染等で特定できる場合があります。
手足口病とヘルパンギーナは同じウィルスが原因であり、水泡や発熱など似ている部分があるため、発熱の度合いと水疱の場所が判別のカギとなります。
1. 手足口病は口の中の前半部分に症状が出やすい(舌や唇、頬)
2. ヘルパンギーナは口の中の奥の部分に症状が出やすい(のど近く)
3. 手足口病は手や足に水泡が発生する
4. ヘルパンギーナは高熱、手足口病は38℃くらいまで(熱が出ない場合も)
水泡だけで熱がない場合には、手足口病はヘルペスや口内炎とも似た症状になります。
3大夏風邪の根本的な治療法はない
プール熱、手足口病、ヘルパンギーナはウイルスが原因ですので抗生物質(抗菌薬)は効きません。つまり特効薬がないのが現状です。
そのため、病気や症状の原因を取り除くのではなく、熱や痛みを鎮痛剤で和らげる対症療法(たいしょうりょうほう)や、水分や栄養をしっかりと摂り安静にすることで対応します。
口の中に病変がある場合には飲食時に痛みがあり食欲が出ない場合もあります。刺激を避けるために柔らかく酸味や塩味の少ない食事や、少量ずつ食べることで水分補給や栄養補給に努めてください。
数日で自然に良くなることが多いですが、水分が取れない、尿の回数や量が減った場合、いつもと様子がおかしい場合には医療機関を受診してください。
お子さんが3大夏風邪にかかってしまった場合、感染を広げないことも大切です。口からの飛沫感染、便や水疱の内容物による接触感染があるため、手洗いを徹底することと、咳エチケットの徹底、お子さんのおむつ交換の際に排泄物を適切に処理することが大切です。またウイルスは治癒後も3〜4週間は便に残る場合があるため、1ヶ月は排泄物の扱いに気をつけましょう。
3大夏風邪に出席停止期間はあるの?
子どもが病気になって出席停止期間が設けられているかどうかは、学校保健安全法で定められています。例えばインフルエンザであれば、発症後5日経過していてかつ解熱後2日経過(幼児は3日)、新型コロナウイルスならば、発症後5日を経過しかつ症状が軽快した後1日経過するまで(2023年5月8日より)となっています。
この学校保健安全法では、手足口病とヘルパンギーナは出席停止期間の定めがないため、元気になったら登園・登校が可能です。一方、プール熱は主な症状がなくなってから2日間出席停止期間があるため他の夏風邪と扱いが違いますので注意が必要です。
大人が感染すると重症化しやすいため要注意
3大夏風邪はお子さんが感染しやすい病気ですが、大人の方も感染する場合があります。
さらに、大人が感染した場合重症化する場合もあります。
例えば、手足口病の場合子どもと比較しても、
1. 発疹が強く出る
2. 40℃の高熱が出る場合がある
と強い症状が出るという報告があります。子供からうつった親が重症化しダウンすることが意外と多く親自身がうつらないように気をつけてください。
先ほど、出席停止期間についてお話ししましたが、大人の場合は学校保健安全法は適用されないため、企業との相談となります。医療機関で診断書を作成してもらうことをお勧めします。
まとめ
1. 夏に流行する「3大夏風邪」には、プール熱、手足口病、ヘルパンギーナがある。
2. プール熱はプールの水を介して感染し、発熱とのどの痛み、目の充血が症状として現れる。
3. 手足口病は口の中の前半部分に症状が出やすく、手や足に水泡が現れる。
4. ヘルパンギーナは口の中の奥の部分に症状が出やすく、のどの近くに水泡が現れる。
5. 3大夏風邪はウイルスによる感染病であり、特効薬は存在せず、対症療法が主な治療方法である。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. 厚生労働省. 手足口病に関するQ&A.
2. 佐野貴子, et al. "手足口病, ヘルパンギーナ患者の発生動向およびウイルスの検出動向に関する解析." 神奈川県衛生研究所研究報告= Bulletin of Kanagawa Prefectural Institute of Public Health/神奈川県衛生研究所 編 46 (2016): 22-26.
3. 国立感染症研究所. 咽頭結膜熱とは.
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