「ぽかんと口が開いてる」「なんで口を閉じないの?」と気になったら…口唇閉鎖不全をご存じですか?
- 歯科医師 川邉滋次
- 7月1日
- 読了時間: 10分
更新日:5 日前
はじめに-いつも口が開いてる…それって注意のサイン!?

お子さんの「ぽかんと開いたお口」、気になったことはありませんか?
実はこの「お口ポカン」、専門的には口唇閉鎖不全(こうしんへいさふぜん)と呼ばれ、無意識のうちに口が開いてる状態を指します。
2021年に全国66か所の小児歯科医院で行われた調査では、3歳から12歳の子ども3,000人以上の保護者を対象に、「健康状態や生活習慣に関するアンケート」が実施されました。

その中の「日中、お子さんの口がよく開いていますか?」という質問に対して、約3人に1人(30.7%)の保護者が「そう思う」と回答しています。
このようにお口が開いてる状態は、口を閉じる筋肉(口唇周囲筋)がうまく働いていないことが一因とされています。また、年齢が上がるにつれて症状が目立ってくることが多く、自然に治るケースは少ないといわれています。
放っておくと、口呼吸の習慣や歯並びの乱れ、あごの発育への影響など、さまざまな問題につながる可能性があるため、できるだけ早く気づいてあげることがとても大切です。
当院では、診察時に口まわりの筋力や、唇の乾燥・めくれ(翻転)、歯の着色の有無などを丁寧に確認します。さらに「お口を閉じてね」と指示したときに、あごの先(オトガイ)にぐっと力が入るようであれば、口唇閉鎖不全が疑われます。
「お口ポカン」は一見、ただのクセのようにも見えますが、実際には歯並びの乱れやむし歯のリスクを高めるだけでなく、全身にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。。
見た目だけでは気づきにくい「お口ポカン」ですが、お子さんの将来の健康を守るためには、まず気づくこと、そして正しく対処することが大切です。
とはいえ、日常生活の中で「お口が開いていること」自体を問題だと認識していない方も多いのが現実です。まずは、この状態がどのような影響をもたらすのかを知ることから始めてみましょう。
お子さんの健やかな成長のために、私たちと一緒にサポートを考えていきませんか?
目次▼
お子さんがお口ポカンになっていないかチェック
まずは、お子さんの様子をよく観察してみましょう。以下の12項目にどれくらい当てはまるかをチェックしてみてください。当てはまる項目が多いほど、「お口ポカン」の傾向が強いです。

1. 唇の異常についての解説

口唇閉鎖不全の唇の形には特徴が出る場合があります。口を閉じようとしても、唇はきちんと閉じられず、上の前歯が常に見えており、上唇は富士山型で下唇はたらこ状になるのが特徴です。
2. 食事の異常
お子さんが口を開いてる状態で食べてしまい、「クチャクチャ」と音を立てて咀嚼する場合、それは単なる癖だけでなく、口まわりの筋力が十分に発達していないことや、食べ方の習慣が影響している可能性があります。
多くの場合、本人に悪気はなく、自分では音を立てていることに気づいていないことがほとんどです。周囲の反応を通じて初めて気づくこともあります。
3. 睡眠時の異常

お子さんが眠っている間に口を開けている場合、鼻が詰まっていて自然と口呼吸になっている可能性があります。
口呼吸が続くと、口の中が乾燥しやすくなり、朝起きたときに口臭が気になることがあります。また、口呼吸は睡眠の質にも影響を与えることがあるため、日中の集中力や疲れやすさにもつながる場合があります。
4. その他の異常
お子さんに「口がよく乾く」「日中に口臭がある」といった症状が見られる場合、日中に鼻が詰まっていて口呼吸になっていることが一因かもしれません。
口呼吸が続くと、唾液の分泌が減り、口の中が乾燥しやすくなり、それに伴って口臭も起こりやすくなります。また、常に口が開いている状態が続くことで、前歯が前方に押し出され、いわゆる「出っ歯」の傾向が見られることもあります。
お口ポカン(口が常に開いている)の原因は?
お子さんが「お口ぽかん」になってしまう原因には、さまざまなものがあります。以下のような要因が複数関係していることもあります。
1. 口のまわりの筋力不足
唇やほほ、あごの筋肉が弱く、自然に口を閉じる力が足りない状態です。
2. 唇を閉じる意識が薄い
普段から口を開けたままのクセがついてしまい、閉じる習慣が身についていないケースです。
3. 歯ならびやかみ合わせの異常
上の前歯が前に出ている(上顎前突)や、かみ合わせにズレがあると、唇が閉じづらくなります。
4.お口周りのクセ(口腔習癖)
舌を前に突き出すクセや、乳児期のクセが長く残っていることも影響します。
5. 上唇小帯の付着異常
唇の内側にあるスジ(上唇小帯)が、前歯の近くまでついていると、唇が閉じにくくなる場合があります。
6. 口呼吸(鼻づまりなど)
鼻で息がしにくいと、口で呼吸するクセがついてしまい、口が開いたままになることがあります。
お口ポカン(口唇閉鎖不全)の問題点とは?
お口ポカンは単なる癖や見た目の問題だと思われがちですが、実はさまざまな悪影響を及ぼします。
まず、口が開いていると鼻呼吸ではなく口呼吸が習慣化しやすくなります。口呼吸は、空気が直接喉に入るため、乾燥しやすく、ウイルスや細菌をろ過する鼻の働きが十分に機能しません。その結果、風邪をひきやすくなったり、アレルギー症状や気管支炎などの呼吸器疾患を起こしやすくなります。

さらに、お口ポカンは歯並びや顎の成長にも大きな影響を与えます。口を閉じる力が弱いと、舌や唇、頬の筋肉のバランスが崩れ、歯が正しい位置に並ばなくなります。これにより、出っ歯や開咬などの不正咬合を引き起こしやすく、顎の成長がアンバランスになることで顔つきにも変化(アデノイド様顔貌など)が出る場合があります。
また、口が常に開いていることで口腔内が乾燥しやすくなり、唾液の自浄作用が低下します。唾液はむし歯を防ぐ働きがありますが、それが弱まることでむし歯や歯肉炎などのリスクも高まります。
お口ポカンは、発音や嚥下(飲み込み)の機能にも影響を与えます。舌の正しい位置を保ちにくくなるため、サ行やタ行などの発音が不明瞭になったり、飲み込むときに舌を突き出す癖がついてしまい、それがまた歯並びを乱す原因にもなります。
さらに、口呼吸による睡眠の質の低下も問題です。口呼吸は鼻呼吸に比べて酸素の取り込み効率が悪く、睡眠時にいびきや無呼吸を引き起こすこともあります。十分な酸素が取り込めないと眠りが浅くなり、日中の集中力の低下や疲れやすさにつながることもあります。
お口をしっかり閉じる力を測ってみよう!
お口をポカンと開けたままの「口唇閉鎖(こうしんへいさ)不全」の子どもは、お口をしっかり閉じる力が弱いことがあります。ただ見た目で強い弱いを判断するのは難しいですよね!?

そのため、「リップデカム」「りっぷるくん」という測定器を使って、数値でお口を閉じる力をチェックします。子どもは年齢とともにお口まわりの筋肉が発達していきますが、その発達のペースには個人差があります。ですので、同じ年齢の子と比べて力が明らかに弱い場合は、早めにトレーニングなどを考えることが大切です。
検査の流れはこんな感じです

Step1 はじめに数回、練習します
Step2 測定は3回行い、その平均値を見ます
Step3 年齢ごとの目安と比べて、評価します
Step4 成長の様子を見ながら、必要があれば何度か測ります
この検査の結果は、お子さんのやる気アップにもつながりますし、トレーニングの効果を確かめるためにも役立ちます。
お口ポカン解消するためには?
鼻呼吸ができない場合は、呼吸のために口を開けることになります。そのため、まずは口呼吸を改善することが大切です。歯科では、正しい鼻呼吸の方法を学び、良い習慣に変えていくように指導します。
しかし、鼻づまりの程度によっては、歯科だけでは対応が難しい場合があります。特に、アデノイド肥大は鼻づまりを引き起こし、鼻呼吸を妨げる原因となるため、耳鼻咽喉科と歯科の医療連携が大切です。
口を閉じるトレーニングの最初のステップは、「自分が口呼吸していることに気付くこと」です。鏡や動画撮影、シールやふせんを貼って気づきやすくする方法があります。
その後、唇を閉じる練習を始めます。最初は、頑張って口を閉じようとする意識を持ちながら力を入れ続ける感覚になります。このトレーニングは本人にとって大変なものですが、継続していくことで、唇が閉じる筋力がついてくるため、容易に閉じられるようになります。
筋力不足の場合には、専用のトレーニング器具を使用したり、「風船膨らまし」「吹き戻し」「割り箸くわえ」などのトレーニングを指導することもあります。
唇の筋肉を鍛える専用トレーニング器具をご紹介します
1,りっぷるとれーなー
上下の唇に挟んで引っ張ることにより、お口のまわりの筋肉をしっかり鍛えられる器具です。口をギュッと閉じる力をつけていきます。

2. ポカン✕
上下の唇で挟んで使用するトレーニング器具です。リップルトレーナーと違い動かしたりすることはできません。テレビを見ているときや、絵本を読んでいるときなど、リラックスしている時間に使えるアイテムです。お口を閉じる習慣を楽しく身につけられます。

3. 医療用吹き戻し

医療用吹き戻しとは、呼吸リハビリや口腔機能訓練のために使われる訓練器具で、もともとは玩具の「吹き戻し笛」を応用したものです。細長い紙の筒を吹くとピロッと伸びて戻るおもちゃをヒントに、息をしっかり長く吐き出す練習ができることから、医療や介護の分野で呼吸訓練用に改良されました。
医療用の吹き戻しは、肺活量の維持や呼気をコントロールする力を鍛えることを目的に使われます。高齢者の呼吸リハビリや嚥下障害予防、小児の口唇閉鎖力トレーニングなど、幅広い場面で活用されており、口をしっかり閉じて吹く動作が口周りの筋肉の訓練にもつながります。
おもちゃとは違い、医療用は抵抗や戻り方が適切に設計されており、安全で衛生的に使えるよう配慮されています。自宅で簡単に続けられる呼吸訓練の道具としても利用され、専門職によるリハビリ指導の場面でも活用されています。
まとめ
1. 「お口ポカン」は子どもの約3人に1人に見られ、放置すると歯並びや健康に悪影響を及ぼす。
2. 主な原因は口周りの筋力不足、口呼吸、歯並びの異常、悪習癖などが複合的に関与。
3. 症状としては唇の閉じにくさ、口の乾燥、口臭、舌の低位、睡眠や食事の問題などが挙げられる。
4. 専用の測定器(りっぷるくん等)で口を閉じる力を数値化し、適切に評価できる。
5. トレーニングや器具の使用で唇や舌の筋肉を鍛え、改善が期待できる。
この記事を書いた人

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. Y Nogami. Prevalence of an incompetent lip seal during growth periods throughout Japan:a large-scale,survey-based,cross-sectional study.Environ Health Prev Med 2021.
2. 今井一彰. 鼻呼吸歯医者さんの知りたいことがまるわかり鼻と口の呼吸で何が違う?なぜ違う?. クインテッセンス出版株式会社 2020.
3. 山口英晴 大野粛英 橋本律子. はじめる・深めるMFT お口の筋トレ実践ガイド. デンタルダイヤモンド社 2016.
4. 河井聡.口腔習癖見逃してはいけない小児期のサイン. 医歯薬出版株式会社 2019.
5. Mummolo S.Salivary markers and microbial flora in mouth breathing late adolescents.Biomed Res Int 2018.
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