子供の下の歯が見えないのは大丈夫?かみ合わせが深い「過蓋咬合」の原因とリスク
- 歯科医師 川邉滋次

- 3 日前
- 読了時間: 10分
更新日:4 時間前
▼目次

はじめに
「仕上げ磨きをしている時、下の前歯がほとんど見えないことに気づいた」 「うちの子、上の歯が下の歯に深く被さっているけれど、これって出っ歯なの?」
実は、お口を閉じた時に「子供の下の歯が見えない」という状態は、歯科医院では
過蓋咬合(かがいこうごう)、またはディープバイトと呼ばれるかみ合わせの異常かも
しれません。

一見、歯が綺麗に並んでいるように見えても、深い噛み合わせは将来の歯の寿命や
顎の成長に大きな影響を与えます。この記事では、原因や放置するリスク、
治療のタイミングについて分かりやすく解説します。
なぜ子供の下の歯が見えない?過蓋咬合を引き起こす5つの原因
理想的な噛み合わせは、上の前歯が下の前歯を2〜3mmほど覆っている状態です。しかし、下の歯が半分以上、あるいは全く見えない場合は、以下のような原因が考えられます。
1. 無意識の「食いしばり」
子供でも、ストレスや集中している時に歯を強くかみしめることがあります。強い力がかかり続けると、奥歯の成長が抑えられたり沈み込んだりして、前歯の重なりが深くなってしまいます。
2. ほおづえ・うつぶせ寝の癖

「ほおづえ」や「うつぶせ寝」は、成長期の柔らかいあごの骨に大きな負担をかけます。これによりあごが正しく成長できず、かみ合わせのバランスを崩す原因になります。
3. 下唇をかむ癖

下唇をかむ癖があると、上の歯は前へ押し出され、下の歯は内側へと倒れ込みます。その結果、上下の重なりが深くなり、さらに唇を噛みやすくなるという悪循環に陥ります。
4. 口呼吸による筋肉の影響

口呼吸が続くと、お口周りの筋肉のバランスが崩れます。特にあごを閉じる筋肉(オトガイ筋)が過剰に働くと、下あごの前方への成長が抑えられ、深いかみ合わせになりやすくなります。
5. 生まれつきの歯の本数不足
下の前歯が生まれつき足りない場合、下の歯のアーチが上の歯に比べて小さくなります。すると、上の歯が下の歯をすっぽりと覆い隠すようなかみ合わせになります。
「かみ合わせが深いだけ」と放置するのが危険な3つの理由
「痛みがないから」と様子を見られがちですが、過蓋咬合を放っておくと将来的に以下のようなトラブルを招く恐れがあります。
1. 下の前歯の歯並びがガタガタになる

上の歯に押される形で、下の前歯が内側に倒れ込んでしまいます。スペースがなくなるため、成長とともに下の歯が重なり合い、ガタガタの歯並びになりやすいのです。
→ガタガタの歯並びについて詳しく知りたい方はこちら
2. 下の歯が「上あごの歯ぐき」に突き刺さる


かみ合わせが深すぎると、下の前歯が上の歯の裏側の歯ぐきを直接刺激します。これにより歯ぐきが傷つき、痛みや炎症を引き起こすことがあります。
3. 顎関節症のリスクと顔立ちへの影響
下顎が後ろに押し込められた状態になるため、あごの関節に大きな負担がかかります。将来的に「あごが鳴る」「口が開きにくい」といった顎関節症を招くほか、顔の下半分が短く見えるなどの外見的な影響も出てきます。
何歳から始める?子供の過蓋咬合の矯正治療
乳歯の時期や生え変わりの時期(混合歯列期)に過蓋咬合を治療することは、「将来の抜歯リスクを下げる」ことにもつながります。
治療の目標
あごの成長を活かして奥歯の高さを適切に整え、下あごを理想的な位置へと誘導します。そのために当院では、主に以下の2つの手法を用いて矯正治療を行っています。
お口周りのクセの改善:根本原因である食いしばりや口呼吸などを整えるトレーニングを行います。
矯正装置:必要に応じて、奥歯のかみ合わせを上げる装置を使用し、自然なかみ方へと導きます。
他にもレントゲン検査(セファログラム)を行うことで、骨格的な問題がないか精密に診断し、お子様一人ひとりに適したタイミングを提案します。

矯正治療症例紹介(下の歯が見えない過蓋咬合)
【症例1】「かみ合わせが深く、下の歯がほとんど見えない(過蓋咬合)」および「前歯の重なり」を主訴に来院された患者様です。 お子様の成長段階に合わせて3種類のマイオブレースを順次使用し、お口周りの筋肉トレーニング(MFT)を併用することで、理想的なかみ合わせと歯並びを維持することができました。

【症例1の治療の経過】
初診時(左上):上の歯が下の歯を深く覆い、かみ合わせが非常に深い状態です。
10ヶ月経過(右上):装置の効果により、かみ合わせが浅くなり、隠れていた下の歯が見えるようになってきました。
15ヶ月経過(左下):ここから本格的に歯の重なり(叢生)の治療が進みます。
36ヶ月経過(右下):3年後。歯並びが整っただけでなく、上下のかみ合わせのバランスも良い状態で維持されています。
【症例1のメリットデメリット】
(メリット)
顔立ちも改善される可能性:深いかみ合わせが改善されると、あごの位置が適正化され、口元のシルエットやフェイスラインが整うことがあります。
顎関節の健康を守る:深すぎるかみ合わせはあごへの負担が大きいですが、早期に改善することで将来の顎関節症のリスクを軽減できます。
歯の寿命を延ばす:正しいかみ合わせは、特定の歯に負担が集中するのを防ぎ、将来的な歯のすり減りや割れを防ぎます。
(デメリット・注意点)
装置のステップアップが必要:今回の症例のように「3種類の装置」を使い分けるなど、成長に応じた細やかな調整と定期的な通院が必要です。
就寝時の装着が鍵:かみ合わせの高さ(垂直的な改善)を出すためには、寝ている間の装着が必要になります。
長期的な経過観察:かみ合わせは成長とともに変化するため、並んだ後もしばらくは定期的なチェックが欠かせません。
【症例2】「上の歯が下の歯を深く覆っている(過蓋咬合)」ことに加え、「上下の歯の中心位置(正中)が左右にズレている」ことを主訴に来院された症例です。 2種類のマイオブレースと口腔筋機能訓練(トレーニング)を併用し、歯並びだけでなく「かみ合わせのバランス」を整えていきました。

【症例2の治療の経過】
初診時(上):かみ合わせが深く、上下の歯の中心位置が大きくズレているのがわかります。
5ヶ月経過(中):装置の装着とトレーニングにより、かみ合わせが目に見えて浅くなってきました。
15ヶ月経過(下):ズレていた歯の中心位置(正中)がピッタリと合ってきました。左右のかみ合わせのバランスが整っています。
【症例2のメリットデメリット】
(メリット)
顔の歪みの予防:歯の中心がズレていると、成長とともに顔の輪郭が非対称になることがありますが、早期改善で左右バランスの良い顔立ちをサポートできます。
効率的な咀嚼(そしゃく):左右均等に力がかかるようになるため、食べ物をしっかりと効率よくかめるようになります。
短期間での変化:本症例のように、適切なトレーニングを併用することで、数ヶ月という短い期間で変化を実感できる場合があります。
(デメリット・注意点)
丁寧なトレーニングが必要:中心位置を合わせるには、舌の位置やかみ合わせる力のバランスを整えるトレーニング(MFT)が大切になります。
習慣化のハードル:短期間で効果を出すためには、毎日の装着ルールをしっかりと守り、生活習慣の一部にする必要があります。
成長に合わせた管理:中心が合った後も、あごの成長が止まるまでは定期的にバランスをチェックし続ける必要があります。
【症例3】「かみ合わせが深く、下の前歯がほとんど隠れてしまっている(過蓋咬合)」状態を主訴に来院されたお子様の症例です。 マウスピース型のマイオブレースと口腔筋機能訓練に加え、仕上げに「咀嚼訓練」を取り入れることで、見た目だけでなく機能的にも良好なかみ合わせを構築しました。

【症例3の治療の経過】
初診時(左):かみ合わせが非常に深く、下の前歯が上の歯に完全に覆われて見えない状態です。
2ヶ月経過(中央):装置の装着開始からわずか2ヶ月で、かみ合わせが浅くなり始め、隠れていた下の歯が見えてきました。
28ヶ月経過(右):上下のズレが改善され、バランスの良いかみ合わせになりました。最終段階では咀嚼訓練を行い、正しくかむ習慣を定着させています。
【症例3のメリットデメリット】
(メリット)
「かむ力」が身につく: 歯列を整えた後に正しいかみ合わせ方を訓練することで、治療後の後戻りを防ぎ、消化を助ける健康的な食生活をサポートします。
早期の変化によるモチベーション維持: 本症例のように短期間で変化が見えると、お子様自身の「頑張ろう」という気持ちが続きやすくなります。
顔立ちのバランス: 正しい位置でしっかりかめるようになると、口周りの筋肉が引き締まり、顔全体の表情が豊かになります。
(デメリット・注意点)
ご家庭での食生活の意識:咀嚼訓練の効果を高めるためには、食事の際の姿勢やかむ回数など、日常生活での親御様のサポートが大切になります。
継続的な通院とチェック:かみ合わせの高さや左右のバランスを微調整するため、長期間にわたる定期的な経過観察が必要です。
装置の適切なステップアップ:成長に合わせて装置の種類やトレーニング内容を柔軟に変更していく必要があります。
【症例4】初診時、かみ合わせが深く下の前歯が隠れて見えない状態でしたが、マイオブレース3種と口腔筋機能訓練を併用して治療を行いました。治療完了後も保定用リテーナーを使用し、成長の変化に合わせた管理を行った症例です。

【症例4の治療の経過】
初診時(上): かみ合わせが深く、下の前歯が上の歯に隠れてしまっています。
3ヶ月経過(中):短期間でかみ合わせの深さが改善され始め、同時に歯の重なり(叢生)も解消に向かっています。
12歳時(下):治療開始から完了まで26ヶ月、さらに完了から2年が経過した状態です。多感な時期や成長期を過ぎても、歯並びと噛み合わせがしっかりと維持されています。
【症例4のメリットデメリット】
(メリット)
「後戻り」への不安を解消:治療直後だけでなく、2年後の安定した状態を見せることで、治療後の安定性を伝えることができます。
正しい成長を見守っていく:乳歯から永久歯への生え変わり、そしてあごの成長が終わる時期まで一貫して管理することが大切です。
保定の必要性:完了後も保定用リテーナーを適切に使用することで、ズレを防ぎ、歯並びとかみ合わせをキープすることが可能です。
(デメリット・注意点)
長期的な通院が必要:治療自体は26ヶ月で完了していますが、その後の経過観察も含めると、数年にわたる歯科医院とのお付き合いが大切です。
矯正装置の自己管理:矯正装置を指示通りに使用しないと、矯正治療が長引くリスクがあります。
成長に伴う変化:12歳前後は顎が大きく成長するため、定期的なチェックを怠ると変化に対応できない場合があります。
まとめ
1. 過蓋咬合とは、上下の前歯のかみ合わせが深くなり、下の前歯の大部分が見えない状態。ただし出っ歯(上顎前突)とは異なる。
2. 過蓋咬合の原因は、くいしばり、ほおづえ、うつ伏せ寝、唇をかむ、口呼吸などがある。
4. 過蓋咬合の特徴として、下の前歯が内向きに倒れ、上あごの歯ぐきに突き刺さったり、奥歯の高さが低くなっていることがある。
5. 幼児から小学生までの治療方法として、過蓋咬合の原因を特定し、矯正装置やトレーニングで奥歯のかみ合わせを高く上げる方法がある。
6. 骨格の成長に問題がある場合、成人矯正が必要になることがある。
執筆・監修者プロフィール

小児矯正&予防歯科の歯医者さん かわべ歯科 歯科医師 川邉滋次
過度にかみ合わせが深い場合は、「奥歯の咬み合わせ部分に樹脂素材を足す」「奥歯のかみ合わせを上げる装置を入れる」方法もあります。
ただし、レントゲンなどの検査により、骨格の成長に大きな問題がみられる場合には口腔外科を含む成人矯正をおすすめする場合があります。
参考文献
1. Mew J. The cause and cure of malocclusion. Heathfield: John Mew (2013).
2. Manfredini, Daniele, et al. "Bruxism is unlikely to cause damage to the periodontium: findings from a systematic literature assessment." Journal of periodontology 86.4 (2015): 546-555.
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