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高齢者に増える歯の根元部分の虫歯(根面う蝕)-原因と予防を歯科医が解説

はじめに-高齢者に増えている「歯の根元の虫歯」とは?


歯の根元の虫歯

日本では高齢化が急速に進んでおり、総務省統計局の発表によると65歳以上の高齢者人口は3,619万2千人、総人口の29.4%を占めています(令和7年4月確定値)。世界的にも類を見ない「超高齢社会」を迎える中で、高齢者のお口の健康問題はますます重要なテーマとなっています。


高齢者の口腔トラブルというと「歯周病」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし近年、歯の根元部分にできる虫歯(根面う蝕)が増加していることをご存じでしょうか?


「歯の根元が黒くなってきた」「歯ぐきの近くがしみる」「同じ場所ばかり虫歯になる」

こうした症状は、歯の根元の虫歯の典型的なサインです。加齢による唾液量の減少や歯ぐきの退縮で歯の根元が露出すると、虫歯のリスクが高まります。


この記事では、歯科医の立場から「なぜ歯の根元部分に虫歯ができやすいのか?」「高齢者に根面う蝕が増えている理由」「予防法・治療法はどうすればよいか?」をわかりやすく解説します。


高齢のご家族がいる方、介護や医療に携わる方、自分の歯を一生守りたい方にとって、役立つ内容になっています。ぜひ最後までご覧いただけたら幸いです。


目次



データから見る高齢者の虫歯の現状


むし歯を持つ者の割合の年次推移
厚生労働省「令和4年度歯科疾患実態調査」よりグラフを抜粋

厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」によると、日本では子どもの虫歯は年々減少している一方で、65歳以上の高齢者では虫歯の増加が続いていることがわかっています。


1993年から2022年の約30年間で、高齢者の虫歯経験者の割合は一貫して増加傾向にあります。かつては「年を取ると歯が抜けて総入れ歯になる」という時代でしたが、現在は8020運動の普及や歯科医療の進歩により、自分の歯が多く残る人が増えました。しかしその一方で、残った歯に虫歯が増えるという新たな問題が生じています。


高齢者に虫歯が増える主な4つの理由


1 . 唾液の分泌量が減る


唾液は、虫歯菌の出す酸を中和し、溶けた歯の修復も助けてくれる大切な存在です。


しかし、高齢になると自然に唾液の分泌量が減少します。加えて、多くの高齢者が服用する薬の影響で口が乾燥しやすくなり、唾液の虫歯予防効果が低下します。


また、複数の薬を服用している場合には口の中が乾燥しやすくなるため、唾液の量が少なくなってしまいます。そのため、唾液によるむし歯予防の効果が低下し、むし歯にかかるリスクが上がります。


口腔内乾燥の原因「服用薬」

国内で使用されている薬剤のうち、700〜800種類以上の薬が口腔内乾燥を引き起こすといわれています、唾液分泌の低下の原因となる薬剤には「抗うつ薬」「抗精神薬」「高血圧治療薬」「痛み止め(鎮痛薬)」「抗パーキンソン薬」「アレルギーの薬(抗ヒスタミン薬)」などがあります。


服用している薬が明らかにお口の乾燥の原因となっていても、全身の病気の具合などを考慮すると服用を中止することが困難な場合が多いです。


他にも放射線治療などによって唾液を出す組織がダメージを受けてしまった場合にも唾液の量は少なくなります。


また、舌や唇の筋力低下で唾液が口内に行き渡りにくくなることや、口が開きやすくなることも口腔乾燥の一因です。


2 . 「かむ」機能の低下


かむことで唾液が分泌され、口内の洗浄や抗菌効果が期待できます。しかし、高齢者はかむ力が弱くなり、やわらかい食品を選びがちになることで咀嚼回数が減り、唾液の分泌も減少します。


3 . 残っている歯が多くなった


1人平均喪失歯数の年次推移
平成28年度歯科疾患実態調査より

日本では、高齢になっても多くの歯が保たれるようになり、平成28年度歯科疾患実態調査では8020達成者が50%を超えました。自分の歯が残ることは望ましい一方で、残った歯が虫歯になるリスクも高まっています。


一生涯自分の歯を保って、自分の歯でなんでも食べられることは大切です。高齢になって残った歯を健康に保つためにはより丁寧なお口の中のケアが必要です。


4. 歯の根元部分の虫歯(根面う蝕)が増加


歯根のむし歯
歯の根本に発生したむし歯

歯の根元部分にできる虫歯のことを「根面う蝕(こんめんうしょく)」と呼びます。高齢者だけでなく、成人でも発生することがあり、「大人の虫歯」と呼ばれています。


歯根の露出
歯根が露出し削れている

歯の根元部分は本来、歯ぐきに覆われていますが、歯周病や不適切な歯磨きによる傷つきなどで、歯ぐきが下がってむき出しになってしまうことがあります。


この部分は歯ブラシなどで磨きにくく、プラークがたまりやすいため、虫歯ができやすくなります。


根元部分の虫歯は、初期の段階では色の変化などの特徴がなく、症状がほとんどありません。症状が悪化・進行した時に着色や、穴が開くなどの症状でようやく発見するケースが多いため、歯ぐきが下がっている時は普段からの予防処置と口腔ケアが大切です。


歯の根元が虫歯になりやすい理由


歯は「歯冠」という歯の頭の部分と、歯根とよばれる歯の根部分に分かれています。以下の模型画像で見ていただいてもわかるように、歯冠と歯根は形や色だけでなく、組成にも違いがあります。


歯の歯冠と歯根
前歯(左)と奥歯(右)の歯冠と歯根

歯と歯の周りの構造
歯と歯の周りの構造

歯の頭部分は「エナメル質」とよばれるカルシウムやリンなどミネラルが豊富な硬い層が約2ミリメートルあり、内側にある象牙質を保護しています。


一方、歯の根元部分は「セメント質」とよばれる、約0.3ミリメートルの薄いコーティングと、内部に象牙質があります。セメント質や象牙質は、エナメル質と比較して、ミネラルが少なくコラーゲンとよばれる有機質を多く含んでいるため、硬さは劣ります。


また、歯の根の表面はツルツルではなくザラザラしているためプラークがくっつきやすい環境になっています。そして根は形が複雑なことが多いため、歯ブラシが行き届きにくい部位です。また象牙質の表面には目には見えない穴(象牙細管)があります。この穴を通じて細菌が侵入したり、酸が入り込むことで虫歯の進行が速くなります。


歯の根元部分は物理的にも虫歯になりやすいですが、科学的にもなりやすい理由があります。


理科の授業で酸性・アルカリ性の度合いを表すpH(英はピーエッチ、ドイツはペーハー)という尺度があります。pH7.0が中性で、pHが7.0より小さければ酸性、大きければアルカリ性です。


エナメル質のミネラルが溶け出すpHは5.5以下、象牙質・セメント質のミネラルが溶け出すpHが6.0〜6.7以下と、歯の根元部分は虫歯原因菌が出す酸の影響を受けやすくなっています。


歯が溶け出す酸性度
歯の成分(エナメル質・象牙質・セメント質)が溶け出す酸性度

象牙質とエナメル質の溶けやすさ

以上をまとめると、歯の根元はプラークがつきやすく、取れにくく、酸で溶けやすいといったむし歯に対して弱いことがわかります。


歯の根元の虫歯は、歯の頭部分の虫歯と比較して約2倍の速さで進行しているというデータもあります。


 歯の根元の虫歯を防ぐには?


虫歯ができた時、もちろん処置や治療は必要です。そして今後同じようなむし歯を発生させないように、「なぜむし歯ができてしまったのか?」という原因を探り、予防や対策することが大切です。


1 . 歯を強化するためにフッ化物配合歯磨き粉を使用する


フッ化物は、子どもの虫歯予防に使用されることが一般的ですが、実は大人のむし歯予防にも効果があり、歯の根本部分にも有効です。


歯の根元部分は歯ぐきに近く、表面も凹んでいるため、歯ブラシが届きにくい場所です。


フッ化物配合歯みがき粉を使用することで、歯ブラシの向きや動かし方のようなテクニックよりも効果的に歯を強化することが可能です。


さらに、歯磨き粉に加えてフッ化物入りの洗口液を使用していくことでより虫歯予防をすることが可能です。


クロルヘキシジンとよばれる薬剤を使用する方法もありますが、研究の結果、歯根面の虫歯予防効果としてはフッ化物の方が効果的であると報告されています。


2 . 歯ぐきが下がらないようにするための対策


歯の根元が露出しないようにするには、歯ぐき周りを清潔に保つことが大切です。また、歯ブラシ等で歯ぐきに無理な力がかからないように気をつけましょう。


このためには、歯周病の予防やケアを行うこと、自分に合ったブラッシング方法を歯科医師や歯科衛生士からアドバイスを受けることをお勧めします。


3 . 虫歯を除去した後の処置方法


進行して穴が開いてしまったむし歯を治療する際には、まずはむし歯を除去します。その後、除去された穴には「コンポジットレジン」と呼ばれる樹脂材料や、「グラスアイオノマーセメント」と呼ばれる歯に有益なイオンを出す材料を使用して、埋める処置を行います。


コンポジットレジン修復
コンポジットレジン修復

歯の根元部分に発生する虫歯は、歯ぐきで一部隠れている場合が多く、特殊な糸を使用して一時的に歯ぐきを動かす方法や、手術で歯ぐきを下げてから材料を埋めていく方法があります。

歯ぐきを一時的に動かす糸
歯ぐきを一時的に動かすための糸

4 . 定期的に歯科メインテナンスを受けること


歯科医院での定期的なメインテナンスや予防歯科処置に通うことは、歯の根元部分の虫歯を早期に発見できるだけでなく、虫歯が発生することを防ぐためにも大切です。


歯の形態はとても複雑なため、丁寧にブラッシングを行っても完全にきれいにすることは難しいです。そこで歯科医院では専門的な機器を使用して磨き残したプラークだけでなく着色汚れなど通常のブラッシングでは取り除けない汚れを除去します。


歯の根元部分は、歯の頭部分よりもフッ素を取り込みにくい性質があるため、歯磨き粉のフッ化物濃度(1,500ppm以下)だけでは不十分なため、定期的に歯科医院で高濃度のフッ化物(9,000ppm〜22,500ppm)を塗布していくことをお勧めします。塗布は3〜6ヶ月の間隔で行います。


フッ化物コーティング剤
高濃度のフッ化物を含むコーティング剤



まとめ


1. 高齢者は唾液量の減少、噛む力の低下、歯の根元の露出などにより「歯の根元の虫歯」リスクが高まる。


2. 歯の根元の虫歯は発見が遅れやすく、進行が速い。


3. 歯の根元の虫歯を防ぐにはフッ化物の活用、歯ぐきのケア、定期メインテナンスでしっかり予防をすることが大切。



この記事を書いた人


予防歯科担当川邉滋次(歯科医師)

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次(歯科医師)

静岡県菊川市で予防歯科と小児矯正歯科を中心に行なっている医院の院長です。



参考文献


1. 総務省統計局. 統計トピックスNo.142 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで. 2024.


2. 厚生労働省. 令和4年歯科疾患実態調査の概要, https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001112405.pdf,2023.


3. 公益財団法人日本医療評価機構.MIndsガイドラインライブラリ, 8根面う蝕への対応 VQ20 初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か,2013.


4. 伊藤直人.カリエスブック 5ステップで結果が出るう蝕と酸蝕を予防するカリオロジーに基づいた患者教育,2020.


5.Burgess, John O., and John R. Gallo. "Treating root-surface caries." Dental Clinics 46.2 (2002): 385-404.


6. 高柳篤史 , 鈴木誠太郎. 根面う蝕の予防. 「サイエンス」×「超高齢社会」で紐解く 根面う蝕の臨床戦略. 東京. クインテッセンス出版. 2018.


7. Petersson, Lars G. "The role of fluoride in the preventive management of dentin hypersensitivity and root caries." Clinical oral investigations 17 (2013): 63-71.


8. 山本浩正. Dr Hiroのペリオ図鑑. 東京. クインテッセンス出版. 2022.

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