高齢者の方で増加している歯根面むし歯ってどんなむし歯?

更新日:9月4日

現在日本の65歳以上の高齢者(65歳以上)の人口は総務省統計で3617万人と過去最多で、総人口の28.7%と超高齢社会(21%以上)に突入しています。

その中で子どものむし歯は減少しているのに、高齢者の方のむし歯が増えています。

平成28年歯科疾患実態調査では5歳〜19歳までのむし歯になっている方の割合が1993年から2016年まで大きく減少しているのがわかりますが、逆に65歳以上のむし歯の方の割合が増加していることが報告されています。これは8020運動の普及などで高齢者の残存歯数が増えていることと歯根面むし歯の発生と関係しています。歯が残ったのにむし歯の数が増えたと聞くと矛盾に聞こえますが、今回「歯根面むし歯」のお話でその理由について説明していきたいと思います。



1歯根面むし歯とは


歯根面むし歯は本来歯ぐきに覆われた歯の根の部分が歯周病等でむき出しになったあとでむし歯になってしまう現象です
歯根面むし歯

歯の根の表面にできるむし歯です。子どもや中学生、高校生では見られませんが、高齢者だけでなく成人の方でもかかる場合があります。


歯周病等で歯肉が退縮すると歯根面が露出します。
歯の根がむき出しになった部分

通常、歯の根の部分は歯ぐきに包まれていますが、歯周病などで歯ぐきが下がると歯の根の部分がむき出しになります。この歯の根の部分が歯ブラシなどで磨きにくくむし歯ができてしまうことがあります。



2歯根面むし歯の5つの特徴



①むし歯が進行しやすい


②自分自身では発見しづらい


③神経までの距離が近い


④歯ぐきの近くに発生するため治療が難しい


⑤細い根の部分で発生・進行するので、歯の頭の部分が折れることがある



3歯根面むし歯の原因


①唾液量の低下


成人後歳をとるにつれて、唾液腺とよばれる唾液を出す部分の機能が低下するため、唾液の出る量は若い人と比較して少なくなります。


また、高齢者の多くは持病等で複数の薬を服用されており、一部の薬の影響として口の中が乾燥しやすくなるケースがあります。


この唾液はお口の中を清潔に保つ働きがあり、むし歯から歯を守ってくれるため、唾液量の減少はむし歯になりやすくなるリスクとなります。


②咬む機能の低下


かむことで唾液が分泌されやすくなり、唾液の洗浄作用や抗菌作用によって食べ物の残りや菌を洗い流してくれます。しかし高齢者の場合かむ力が衰えてしまう、歯を失い入れ歯になることでかむ力が大幅に減りかまずに食べる食品を選んでしまうなどで唾液を出す機会を少なくしてしまいます。



4なぜ歯根面むし歯は他のむし歯よりもかかりやすく進行しやすいのか?


歯は歯冠という歯の頭の部分と、歯根とよばれる歯の根の部分に分かれています。歯冠と歯根は形や色だけでなくミクロの構造にも違いがあります。


歯は歯冠と歯根に分けられます。これは前歯だけでなく小臼歯や大臼歯も一緒です。
歯冠と歯根

歯の頭部

歯は歯冠はエナメル質、歯根はセメント質で構成されています。その内部は象牙質になっており歯髄とよばれる歯の神経や血管の入っている部屋を保護しています。
歯の構造

分はエナメル質とよばれるカルシウムやリンなどミネラルが豊富な硬い層が約2mmあり、内側の象牙質を保護しています。


一方歯の根の部分はセメント質とよばれる約0.3mmの薄いコーティングしかなく、セメント質やその中の象牙質の硬さもエナメル質と比較して低いです。

そのため、エナメル質のミネラルが溶け出すpH(臨界pHといいます)が5.5象牙質・セメント質のミネラルが溶け出すpHが6.5と歯の根の部分はむし歯原因菌が出す酸の影響を受けやすくなっています。


エナメル質のミネラルが溶け出すpH(臨界pHといいます)が5.5象牙質・セメント質のミネラルが溶け出すpHが6.5と歯の根の部分はむし歯原因菌が出す酸の影響を受けやすくなっています。
エナメル質と象牙質・セメント質の臨海pH

また。セメント質や象牙質はエナメル質よりミネラルが少ない分コラーゲンとよばれる有機質を多く含んでいます。このコラーゲンが歯ぐきや唾液などに含まれるタンパク分解酵素などで分解されるとミネラルも一緒に溶け出してしまい、早い速度でむし歯が進行してしまうことがあります。



5歯根面むし歯の予防方法・治療方法は?


①歯を強化する


フッ化物は子どものためのむし歯予防方法だと思っている方も少なくありません。実はフッ化物は大人のむし歯予防にも使用でき、特に歯根面むし歯には効果的です。歯根面むし歯になりやすい露出した部分は歯ぐきが近く、表面も凹んでいることもあり歯ブラシのテクニックだけに頼れないことがあります。


むし歯予防のためのフッ化物配合歯みがき剤の使用は、歯ブラシの向きや動かし方という従来重視されたみがき方の工夫よりも大きな役割を果たします。


フッ化物以外でクロルヘキシジンとよばれる薬剤を使用した予防方法もありますが、研究の結果から歯根面むし歯の予防効果としては根拠が弱く、フッ化物を使用した方が効果的であると報告されています。


②歯ぐきが下がらないようにする


歯の根元がむきだしにならないように歯周病への予防やケア、無理な力のブラッシングを行わないこと、食いしばりの防止なども予防の1つです。

その方法としてお家での丁寧なブラッシング、歯科医院での歯周治療や定期検診・メインテナンスがあります。


③むし歯を除去してから埋める


むし歯を除去した後、コンポジットレジンとよばれる樹脂材料やグラスアイオノマーセメントとよばれるフッ化物イオンやカルシウムイオンを出してくれる材料を使用して穴を埋めていく処置を行います。

歯根面むし歯は歯ぐきで一部覆われているところも多く、歯肉圧排とよばれる糸を使用して一時的に歯ぐきを動かす方法や歯肉弁根尖側移動術という歯周手術で歯ぐきを下げてから材料を埋めていくこともあります。



まとめ


①65歳以上のむし歯にかかっている人の割合はふえており、その理由に歯根面むし歯と齢者の残存歯が昔より多くなったことがある。


②歯根面むし歯は高齢者だけでなく成人でも発生する。


③歯根面むし歯は進行が早い。(エナメル質と比較してセメント質と象牙質は酸に弱い)


④歯根面むし歯を防ぐにはフッ化物と歯ぐきを下げないケアが必要。




この記事を書いた人



医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


暑くなりましたね。この時期は熱中症を防ぐという理由でついついスポーツドリンクを飲んでしまうという方も少なくないと思います。しかし、スポーツドリンクの糖質等を考えると飲み過ぎはお口の中だけでなく、体全体にも悪影響を与える場合があるので、麦茶と梅干しのような水分+塩分で補給する習慣をつけていただけたらと思います。次回は歯の酸蝕症についてお話しします。


参考文献


①厚生労働省. 平成28年歯科疾患実態調査, https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html,2017


②公益財団法人日本医療評価機構.MIndsガイドラインライブラリ, 8根面う蝕への対応 VQ20 初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。, 2013.



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