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高齢者のむし歯が増加している理由は?

更新日:1月13日

はじめに


現在、日本の65歳以上の高齢者(65歳以上)の人口は総務省統計(令和4年5月確定値)で3624万9千人で、総人口の29.0%と超高齢社会(21%以上)に突入しています。


高齢者のお口の中のトラブルで思いつくのは「歯周病」ではないでしょうか。しかし、近年増えてきているのは「むし歯」です。


平成28年歯科疾患実態調査という厚生労働省の大規模調査では、5歳〜19歳までのむし歯になっている方の割合が1993年から2016年まで大きく減少していますが、65歳以上のむし歯の割合が増加していることが報告されています。


むし歯を持つ者の割合の年次推移
平成28年度歯科疾患実態調査より

今回は「なぜ高齢者のむし歯が増えているのか?」その理由についてお話ししていきたいと思います。


▼目次

高齢者のむし歯の原因は?

なぜ歯の根本部分のむし歯は進行しやすいの?

根本むし歯の予防方法・治療方法は?

まとめ

参考文献


 

高齢者のむし歯の原因は?


1 . 唾液量の低下


唾液にはお口の中を清潔に保つ機能があり、むし歯から歯を守ってくれます。

つまり、「唾液の量が少なくなる」=「むし歯にかかるリスクが増える」といえます。


歳をとるにつれて、唾液を出す組織の働きが弱くなるため、唾液の量は若い人と比べ少なくなります。


また、持病等で複数の薬を服用されている場合、一部の薬の影響として口の中が乾燥しやすくなることがあります。


その結果、お口の中の唾液量が低下し、むし歯になりやすい環境になってしまうのです。


2 . 「かむ」機能の低下


かむことで唾液が出やすくなり、唾液の洗浄・抗菌作用によって食べ物の残りや菌を洗い流してくれます。


高齢者の場合、「かむ力が衰えてしまう」、「入れ歯になりかむ力が弱くなる」ことにより、かまずに食べる食品を選んでしまうようになります。


その結果、唾液を出す機会を少なくしてしまい、むし歯の危険性が高くなります。


3 . 昔よりも歯が多く残るようになった


1人平均喪失歯数の年次推移
平成28年度歯科疾患実態調査より

こちらのデータから、25歳よりも上の年齢において歯の失った数が、平成初期と比較して減少していることがわかります。これは歯科医療の進歩や歯や口の中に関心を持つ方が多くなったこと、ホームケアグッズの普及等が奏功しているのではないかと推測されます。


65歳以上でも同様の結果が出ていることから昔よりも歯が多く残るようになった分、むし歯の本数も増えていることが考えられます。


4. 歯の根本部分のむし歯の増加


歯根のむし歯
歯の根本に発生したむし歯

歯の根本部分にできるむし歯のことを根面う蝕(こんめんうしょく)とよびます。高齢者だけでなく、成人の方でも発生する場合があります。


歯根の露出
歯根が露出し削れている

本来歯の根本部分は歯ぐきに包まれていますが、歯周病や不適切なブラッシングなどで歯ぐきが下がるとむき出しになります。この根本部分が歯ブラシなどで磨きにくい場所のため、プラークがたまりやすく、むし歯ができやすいのです。


歯の根本部分のむし歯は症状が少なく自分自身ではなかなか気づくことが少ないため、発見が遅れることもあります。


なぜ歯の根本部分のむし歯は進行しやすいの?


歯は「歯冠」という歯の頭の部分と、歯根とよばれる歯の根部分に分かれています。下の模型画像で見ていただいてもわかるように、歯冠と歯根は形や色だけでなく組成にも違いがあります。


歯の歯冠と歯根
前歯(左)と奥歯(右)の歯冠と歯根

歯と歯の周りの構造
歯と歯の周りの構造

歯の頭部分は、エナメル質とよばれるカルシウムやリンなどミネラルが豊富な硬い層が約2mmあり、内側にある象牙質を保護しています。


一方、歯の根本部分はセメント質とよばれる約0.3mmの薄いコーティングと、内部に象牙質があります。セメント質や象牙質の硬さはエナメル質と比較して低いです。


セメント質や象牙質は、エナメル質よりミネラルが少なくコラーゲンとよばれる有機質を多く含んでいるため、エナメル質よりも硬さは劣ります。


理科の授業で酸性・アルカリ性の度合いを表すpH(英はピーエッチ ドイツはペーハー)という尺度があります。pH7が中性で、pHが7より小さければ酸性、大きければアルカリ性です。


エナメル質のミネラルが溶け出すpHは5.5以下、象牙質・セメント質のミネラルが溶け出すpHが6.5以下と、歯の根元部分はむし歯原因菌が出す酸の影響を受けやすくなっています。


歯が溶け出す酸性度
歯の成分(エナメル質・象牙質・セメント質)が溶け出す酸性度

 根元むし歯の予防方法・治療方法は?


むし歯ができた時、もちろん処置や治療は必要です。そして今後同じようなむし歯を発生させないように「なぜむし歯ができてしまったのか?」という原因を探り、予防や対策することが重要です。


1 . フッ化物で歯を強化する


フッ化物は子どものためのむし歯予防方法だと思っていませんか?実はフッ化物は大人のむし歯予防にも使用でき、歯の根本部分にも効果的です。


歯の根本部分は歯ぐきが近く、表面も凹んでいることもあり歯ブラシが難しい場所です。


フッ化物配合歯みがき剤の使用は、「歯ブラシの向きや動かし方」のようなみがき方の工夫よりも大きな役割を果たします。


クロルヘキシジンとよばれる薬剤を使用した予防方法もありますが、研究の結果から歯根面むし歯の予防効果としては根拠が弱く、フッ化物を使用した方が効果的であると報告されています。


2 . 歯ぐきが下がらないようにする


歯の根元がむきだしにならないように、歯ぐき周りをきれいにしておくこと、歯に無理な力がかからないようにすることがポイントです。


その手段として「歯周病への予防やケア」、「自分に合ったブラッシング方法を提案してもらう」ことが挙げられます。


3 . むし歯を除去してから埋める


むし歯を除去した後、その穴に「コンポジットレジン」とよばれる樹脂材料や、「グラスアイオノマーセメント」とよばれる歯に有益なイオンを出してくれる材料を使用し、埋めていく処置を行います。



歯ぐきを一時的に動かす糸
歯ぐきを一時的に動かすための糸

歯の根本部分のむし歯は、歯ぐきで一部隠れているところも多く、特殊な糸を使用して一時的に歯ぐきを動かす方法や、手術で歯ぐきを下げてから材料を埋めていくことがあります。


4 . 定期的に歯科医院にメインテナンスを行う


歯科医院に定期的にメインテナンスや予防歯科処置に通うことは、歯の根本部分のむし歯を早期に発見できるだけでなく、歯の根本部分にむし歯が発生することを防ぐために大切です。

フッ化物コーティング剤
高濃度のフッ化物を含むコーティング剤

特に歯科医院では市販のフッ化物歯みがき剤よりも高濃度のフッ化物をピンポイントで塗ることも可能なため、むし歯予防効果としては比較的高いと考えられます。


 

まとめ


①65歳以上のむし歯割合は増えており、その理由に「唾液量が減ってしまう」「高齢者の歯が昔より残るようになった」「歯の根本部分のむし歯が増加」ことがある。


②歯の根本部分のむし歯は、高齢者だけでなく成人でも発生する場合がある。


③歯の頭部分のむし歯と比較して、歯の根本部分のむし歯は進行が早い。


④歯の根本部分のむし歯を防ぐにはフッ化物と歯ぐきを下げないケア、歯科医院での定期的なメインテナンスが必要。


 

この記事を書いた人


予防歯科担当川邉滋次(歯科医師)

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次

 

参考文献


①総務省統計局.人口推計-2022年令和4年 10月報,

https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202210.pdf,2022.


②厚生労働省. 平成28年歯科疾患実態調査, https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html,2017.


③公益財団法人日本医療評価機構.MIndsガイドラインライブラリ, 8根面う蝕への対応 VQ20 初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か,2013.


④伊藤直人.カリエスブック 5ステップで結果が出るう蝕と酸蝕を予防するカリオロジーに基づいた患者教育,2020.



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