はじめに
「自分の中ではしっかり時間をとって歯磨きをしたはずなのに、家や歯科医院でプラークを染め出しすると磨き残しが多くて驚いてしまった。」「毎日歯磨きを頑張っていたのにむし歯や歯周病と診断された。」そんな経験はありませんか?
多くの患者様の口腔ケアやメインテナンスを行ってきましたが、「歯みがきをしたことがない」という患者さんに出会ったことはありません。どんなに歯周病が進行している方でも、一応ブラッシングはしています。しかし、それでもむし歯が発生したり歯周病が進行している方がいらっしゃることは事実です。
磨き残しには様々な原因があります。歯科医院での治療や口腔ケアを進めていく中で患者さんの意識が変わり、ブラッシングが習慣から治療、そして自身の健康のために変化していく姿もみられます。このような変化のきっかけを作るのも私たち歯科衛生士の役目だと考えています。
プラークコントロールが良くない場合、その原因は大きく分けて3つあります。1つ目は「本人の口腔ケアに対する考え方」、2つ目は「ブラッシング を行う歯ブラシの問題」、3つ目は「お口の中の環境」です。
今回は「本人の口腔ケアに対する考え方」がなぜ磨き残しを作ってしまうのか?についてまとめてみました。1つでもご自身のホームケアの参考になっていただけたら幸いです。
目次▼
磨いているが磨けていない5つの理由
かわべ歯科では、患者様にブラッシングの習慣を身につけてもらうことから始めます。
「磨いていない」方でも、1日のどこかで多少磨いている方がほとんどです。まずはどの時間帯で磨いているかを確認します。1日の生活状況に応じて回数を増やせるかを確認します。
もちろん、急に生活習慣を変化されることは簡単ではありません。そのため、回数を大幅に増やすのではなく、少しずつ増やすようにしていきます。定期的な来院でブラッシングの回数が増やせたことが確認できたら、次にブラッシングの時間を延ばすようにしていきます。
磨いたつもりなのに磨けてない理由としては、以下の5つの理由が考えられます。
1. ブラッシングが適当になっている
2. 歯ブラシの当て方
3. ブラッシングの順番
4. ブラッシング 時間
5. 歯ぐきから出血することへの恐怖
次の項目からは、これらの理由について詳しく解説していきます。
ブラッシングが適当になっている
なんとなく歯ブラシを口に入れただけで適当になってしまっているケースが多いです。適当といっても「適当なのを自覚している」方もいれば、「自分ではしっかり磨いていると思っている」方もいます。
当院で初診時に時間を設け、プラークを色付けしてブラッシング指導を行っており、「こんなにしっかり歯磨きしたことはなかった」「今までお口の中のケアの仕方を時間をかけてしてもらう機会がなかった」などの声を耳にします。
まずはお家でのブラッシングの大切さを説明し、ブラッシングの知識を習得していただきます。今までの方法と変わるためブラッシングに時間や手間がかかり、最初は面倒に思うことがあるかもしれません。そのためにもなぜ磨くのかという理由を知っていただきたいと考えています。
どうしてもモチベーションが上がらないという方は家でも専用の薬剤で歯の染め出しをして、しっかり目で見えるようにして、歯を磨かざるを得ない状況を作ることも1つの方法です。この歯の染め出しは2020年の研究論文でもプラークの除去効率が上がると報告されているためお勧めです。
歯ブラシの当て方
歯ブラシの当て方については、年齢や手の状態なども考慮しなければなりません。また男性だとブラッシング圧が強め、女性だとお口の中の大きさが小さい傾向など、その方に合った歯ブラシ選択も大切です。
また長期間に診ている患者様が以前はできていたブラッシングが高齢者の場合難しくなる場合があります。その際は、今までの指導方法を変えてその方の状態に合わせたブラッシング方法や歯ブラシに変更する、電動歯ブラシの導入も検討していきます。
全身の病気、例えばリウマチやパーキンソン病、脳血管の病気など、手指の運動に関係する場合はお口の中のケアが疎かになってしまうことがあります。
ブラッシングの順番
ブラッシングの順番が決まっていないと、磨き残しや磨きムラが出てしまいます。本来であれば、
右上外側→左上外側→上のかみ合わせ面→左上内側→右上内側→右下外側→左下外側→左下内側→右下内側→下のかみ合わせ面
のように磨くことが推奨されていますが、患者さんの残った歯の本数や磨き癖などが十人十色のため、どこから磨くと効率よく磨けるかを一緒に考えていきます。
またいつも同じ部位に歯肉の炎症が見られる方も、ブラッシングの順番を変えるだけで、その炎症が軽減する場合もあります。しっかりブラッシングしているつもりでも実際は磨きやすい歯の外側に集中し、歯の内側を磨き忘れていることもあります。入浴時にお腹を洗っても背中を洗わないことはありません。つまり歯の裏側の部分も意識することも大切です。
では、磨き忘れしやすい歯の裏側からブラッシングを始めれば清掃が行き届くのでは?という意見もあると思います。2018年の研究論文によると、歯の表側から始めたグループと裏側から始めたグループの間で、プラークの除去効果に大きな差は見られなかったという報告があるため、スタート位置よりも順序のほうが大切ということになります。
ブラッシングの時間
患者さんから「歯磨きの時間はどのぐらいすればいいですか?」と質問されることがあります。患者さんの残った歯の本数など口の中の環境によって異なりますが、ブラッシングに長く時間をかければプラークコントロール良くなるとは限りません。
どのようなことでもダラダラと続けるよりも、短時間で効率よく行った方が良い結果につながることが多くあり、ブラッシングも一緒だと考えています。少なくとも朝と寝る前に2分間以上のブラッシングを心がけていただけたらと考えています。
ただし、就寝時は唾液の出る量が少なくなり、お口の中の防御機構が弱くなりやすいため、
寝る前は朝よりも口腔ケアが大切になります。そのため、患者さんの生活背景によって異なりますが、就寝前はできるだけ時間を掛けてブラッシングすることをお願いしています。
歯ぐきから出血することへの恐怖
歯肉の炎症が強い方だと歯ぐきから出血させたくないという気持ちでブラッシングがうまくできない場合があります。その理由として出血させることで悪化してしまうのではと考えているからです。つまり出血=ケガのイメージです。
しかし、ケガをしたら何かしらの手当てを行ないます。
例えば、転んで膝に擦り傷ができたとします。その傷の周りにはたくさんの砂がついていました。その傷口を洗わずに放置できるでしょうか?
つまり汚れがついている状態、先に原因であるプラークをとってから手当てすることが大切です。
まとめ
1. なぜ歯を磨くのかを知ることがブラッシングを習慣化させるきっかけとなる
2. 歯ブラシの当て方は一律ではなく、その人のお口の中の状態や、歯ブラシのy使い方で帰ることがある。
3. 磨き残しを防ぐためにも、順番を決めておいた方が良い。
4. 長時間の歯磨き=磨き残しが少なくなるわけではなく、効率の良い磨き方を習得することが大切。
5. 歯ぐきから出血する場合、怖がらずまずは原因であるプラークを取り除くことが大切。
この記事を書いた人
かわべ歯科 歯科衛生士スタッフ
参考文献
1. Magda Mensi, et al. "Plaque disclosing agent as a guide for professional biofilm removal: A randomized controlled clinical trial." International journal of dental hygiene 18.3 (2020): 285-294.
2. Van der Sluijs, E., et al. "A specific brushing sequence and plaque removal efficacy: a randomized split‐mouth design." International Journal of Dental Hygiene 16.1 (2018): 85-91.
3. Joshi, Shriraksha, et al. "Toothbrushing behaviour and periodontal pocketing: An 11‐year longitudinal study." Journal of clinical periodontology 45.2 (2018): 196-203.
4. Gallagher, Andrew, et al. "The effect of brushing time and dentifrice on dental plaque removal in vivo." American Dental Hygienists' Association 83.3 (2009): 111-116.