はじめに
皆さんが家で使用する歯ブラシは、手でみがくタイプですか?それとも電動歯ブラシですか?
近年の電動歯ブラシには、ブラシの先が、柔らかいものや小さいもの(シングルブラシ)に交換できるものもあります。
大人用だけでなく0歳から使用可能な電動歯ブラシや、子供向けのタブレット連動型の電動歯ブラシも販売されています。
今回は歯科の立場から電動歯ブラシについてお話します。電動ブラシを今後購入検討されている方や、電動歯ブラシを使ったことない方にも、電動歯ブラシの魅力を知っていただき、また、既に持っている方には新しい気付きをご提供できれば幸いです。
目次▼
電動歯ブラシはブラシの動き方に違いがある
電動歯ブラシには、「高速振動型」「音波型」「超音波型」の3種類があります。ここではそれぞれの特徴について解説していきます。
1, 高速振動型
ヘッドの植毛部が高速で動くタイプで、回転または上下振動、左右振動の動きをします。
回転運動型のブラシの形は円形でブラシの毛の長さが短めなので歯の曲線面に当てやすいのは長所です。一方、回転するブラシの外側は運動が大きいため清掃性は高いのですが、中央部は運動が少ないので、清掃性は低くなります。そのため、歯の根元や歯の間の部分にそって少しずつずらしながら使用していきます。
前後または左右に揺れるタイプの電動歯ブラシは、揺れと同じ方向で歯ブラシを動かしてしまうと、清掃効率は下がってしまいます。揺れの方向から垂直に少しずつ動かすとよりこのタイプの特長を活かせます。
2, 音波型
音波型はヘッド部分が振動することで、毛が1〜2ミリの細かい運動をします。
この細かい振動でプラークを除去します。音波の振動で、ブラシの毛が接していない数ミリ先の周辺部の汚れも落とすことが可能です。振動の幅が極めて小さいため、歯面に優しく当たることが特長です。
この音波ブラシの動かし方は1歯ずつみがくのではなく、毛先を表面に軽く当てたまま流れる様にゆっくりと歯列に沿って動かすことで、歯の間の部分や、歯の根元の部分まで振動が届きやすくなります。
歯周病の外科手術翌日に、音波型の電動歯ブラシと洗口液を併用することで初期の治療部位の治癒が促されたという研究結果があります。そのため、音波型はデリケートな部位でも使用して問題ないと考えられます。
3, 超音波型
超音波型は音波型よりも振動が細かいため、振動を感じることが少ないです。そのため超音波型の場合、そのまま置くだけではプラークの除去が難しいため手用歯ブラシと同じ動きが必要になります。
細かい振動と高い周波数でプラークを除去することを補助してくれますが、歯科専売品ではあまり見かけることはありません。
電動歯ブラシのメリットとデメリット
電動歯ブラシのメリットとしては、ブラシ自体が高速で運動しているため、歯ブラシを表面に当てるだけでプラークを除去することが可能な点が挙げられます。そのため、手や体が不自由な人、手用の歯ブラシを上手に動かすことのできない人、成人矯正中で歯ブラシ操作が難しい方には適しています。
デメリットとしてコストが高いことが挙げられます。
本体の値段もありますが、電動歯ブラシの毛先は消耗品なので、替えブラシの交換が大切になります。手用歯ブラシは1ヶ月(クラプロックス等は3ヶ月)、電動歯ブラシは3ヶ月で交換ですが、歯ブラシの圧が強いなどの理由で毛先が開いてしまった場合には交換時期が早くなります。
毛先が開いた歯ブラシを使用し続けると清掃能力が落ちてしまうため、早めに新しい替えブラシに交換する必要があります。
この替えブラシの値段が手用歯ブラシと比較してやや高価で、また薬局や家電量販店でも本体はあっても替えブラシは置いてあることが少なく、取り寄せまたはネット注文するケースが多いため、このタイミングでせっかく購入した電動歯ブラシの使用をやめてしまう方もいます。
電動歯ブラシの替えブラシはストックしておくか、交換する日を手帳やスマートフォンに記録しておくのが長く続けていくコツです。
充電式と電池式では性能に差がある
1, 充電式の電動ブラシ
充電式の場合、振動の強さ設定やブラッシング圧が強すぎた時のセンサーや停止機能、タイマー機能、Bluetoothと連動しスマートフォンやタブレットでブラッシングをサポートしてくれる機能など、電池式と比べると値段は高いですが、電動歯ブラシ初心者の方でも安心して使用できる環境が整っています。
2, 電池式の電動ブラシ
電池式の場合は、振動の設定機能などはなく、スイッチを入れると振動するだけのシンプルなものが多いです。安全機能などもついていないため、力が入りすぎて歯肉を傷つけたりしないように注意が必要です。安価ですが電池式は歯科医院では取り扱いはほとんどなく、ドラッグストアや家電量販店、インターネットでの販売が多いです。
手用と電動どちらが優れた歯ブラシなのか?
では、手用歯ブラシと電動歯ブラシどちらが優れているのでしょうか?
まずは、論文から引用してお話していきます。
比較した研究では、「手用歯ブラシ(フッ化物いり歯磨き粉)の人たちと電動歯ブラシ(抗菌成分とフッ化物入り歯磨き粉)の人たちを比較して3年間観察した結果、汚れや歯肉炎、歯周病などの数値に両方で大きな差異がなかった。」と報告があります。
一方で、電動歯ブラシを長期的に観察した、「2,819人の一般市民へ3つの時期(調査開始時期、6年後、11年後)に歯科的な検査と聞き取り調査を行った結果、電動歯ブラシを使用した患者では歯周病の進行に関する数値やむし歯の進行が少なく、歯の喪失も少ない」という研究もありますが、お口に対する意識が元々高い方が電動歯ブラシ使用者に多いという報告もあり、電動歯ブラシの直接的な効果かは不明です。
この論文の結果からは、手用歯ブラシと電動歯ブラシのどちらが優れているかはまだはっきりとわからないです。電動歯ブラシにも種類があり、機能面が良いものもあれば悪いものもあります。今後同じ機種の歯ブラシで同じ使用方法を指導し長期間行った研究を期待します。
次は、機能面からみてみましょう。
手用歯ブラシと電動歯ブラシは、使用法は異なりますが、歯の溝の部分や歯と歯の間、歯の根元部分などがみがき残しがないように注意することは一緒です。
電動歯ブラシを選択する決め手は「歯をみがく時に手を極力動かすことがなく効率的に安全にプラークを除去できるか?」だと考えられます。そのため振動が少なすぎて手でみがく動きが必要なものや、振動があっても安全機能のない歯ブラシは手用歯ブラシよりも購入するメリットがあるとはいえません。
つまり、電動歯ブラシの性能次第で手用より良い場合も悪い場合もあるということです。
そのため、電動歯ブラシに変える場合にはある程度高価で、電動歯ブラシの実績があるまたは有名歯ブラシメーカーの商品が良いと考えられます。
電動歯ブラシにはどのような歯磨き粉がいいの?
電動歯ブラシは細かい振動が発生するため、研磨剤が多く使用されてないもの、飛び散らないものであれば、歯に対するダメージや使い勝手の点で使用しやすいです。音波型の電動歯ブラシは歯磨き粉の粘りが強いと清掃効果が低下するため、ジェルタイプの歯磨き粉が良いでしょう。
ただし、ブラッシング時に歯磨き粉を使う大切な理由は、フッ化物(フッ素)のむし歯予防効果です。電動歯ブラシ用であれ、なるべくフッ化物が配合されているものを使用することをおすすめします。
電動歯ブラシ使用時に注意すべきこと
心臓にペースメーカーを使用している方は、電動がブラシがペースメーカーへ悪影響を与えるのではと心配されることがありますが、学術的に悪影響の報告はないため「影響はない」と考えられます。
電動歯ブラシは便利な口腔ケア用品ですが、お口の中に詰め物がある場合には電動歯ブラシを間違って使用することで、欠けてしまったり、剥がれてしまうことがあります。
特にラミネートベニアと呼ばれる、前歯部分の見た目を良くするために歯の表面に白い材料を貼り付けてある場合、歯ブラシを強く押し付けたり電動歯ブラシの強い振動設定で使用し続けると、歯と材料の境界部分に隙間を作ってしまい、割れたりはがれやすくなります。
もし、前歯部分の審美治療を行なった際には、電動ブラシを歯科医院に持参して歯科医師や歯科衛生士に相談することをおすすめします。適切に使用していれば、手用歯ブラシと比べて、歯ぐきが下がってしまったり、歯の表面が削れてしまうリスクは少ないです。適切な使用方法と圧力でブラッシングを行いましょう。
まとめ
1. 電動歯ブラシには振動型・音波型・超音波型がある。歯科医院では振動型と音波型が多い。
2. 電動歯ブラシは充電式と電池式がある。電池式は安価だが、機能面や使いやすさを考えると充電式。
3. 電動歯ブラシを長く安心して使っていただくためにも、歯科医院に使用している電動歯ブラシを持っていき、正しい使い方を歯科医師や歯科衛生士にチェックしてもらうことが理想。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. Sijari, Ziad, et al. "Effect of two post‐surgical cleansing protocols on early periodontal wound healing and cytokine levels following osseous resective surgery: A randomized controlled study." International Journal of Dental Hygiene 17.4 (2019): 300-308.
2. Bogren, Anna, et al. "Long‐term effect of the combined use of powered toothbrush and triclosan dentifrice in periodontal maintenance patients." Journal of clinical periodontology 35.2 (2008): 157-164.
3. Pitchika, Vinay, et al. "Long‐term impact of powered toothbrush on oral health: 11‐year cohort study." Journal of clinical periodontology 46.7 (2019): 713-722.
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